中国のゲーム業界では、かつてないほどの競争と変化が起きています。そんな中、名門大学を卒業したばかりのゲームデザイナー「栗子(リー・ズ)」さんが、就職難の末に、ある大手テック企業に「外派(アウトソーシング社員)」として働くことになりました。学校では「優等生」だった彼女が、職場で直面したのは、周囲の同僚たちが巧妙に「摸魚(モーユー)」(業務中にサボること)を実践する光景。最初は戸惑い、罪悪感に苛まれながらも、個性豊かな同僚との出会いを経て、栗子さんは独自の「摸魚脱感作計画」をスタートさせます。これは、激変する中国の労働市場と、若者たちの新たな働き方を映し出す、非常に興味深いストーリーです。
優等生が陥ったキャリアの“落とし穴”
主人公の栗子さんは、中国の「双一流大学」と呼ばれる名門校でゲームデザインを専攻した優秀な学生でした。卒業時には、ゲームプランナーとしてのインターンシップ経験も豊富で、自身のキャリアに自信を持っていました。しかし、2024年の卒業時、彼女は想像を絶する就職難に直面します。数百社に応募してもほとんど音沙汰がなく、数少ない面接では「新卒」というだけで門前払いされる日々。不本意ながら入社したスタートアップ企業では、給料未払いや短期間での解雇を経験し、学生時代には経験しなかった挫折感を味わいます。
そんな中、彼女が知ったのが「外派(ワイパイ)」という働き方でした。これは、企業がプロジェクト単位で外部のスタッフを派遣してもらい、自社のオフィスで働かせる、いわゆる「客先常駐型のアウトソーシング社員」です。当初は抵抗がありましたが、2025年初夏、栗子さんはある大手テック企業の外派案件のオファーを受けます。月給1万5000元(約30万円)に加え、毎日60元(約1200円)の食事手当が付くという好待遇に驚きながらも、彼女はこのチャンスを掴むことを決意しました。
“摸魚”文化との出会い:初めてのサボり体験
入社後、栗子さんは真面目に仕事をこなし、試用期間を順調にクリアします。しかし、数日後、彼女のチームに配属された新入社員のアチとの出会いが、栗子さんの働き方を大きく変えることになります。緑色の髪に二つのお団子ヘアをしたアチは、見た目こそ若々しいものの、実際は30歳近いベテラン。しかし、彼が入社初日から実践していたのは、大胆な「摸魚(モーユー)」でした。
昼休み前にもかかわらず「ご飯に行こう」と誘うアチに、最初は戸惑いを隠せない栗子さん。「まだ時間じゃない、捕まらないの?」と心配する彼女に、アチは「大丈夫、みんなもう行ってるよ」と余裕の表情。周囲の真面目な同僚たちを尻目に、アチは栗子さんを強引に誘い続けます。最初は拒否していた栗子さんも、アチの熱心な「誘い」と、早くランチを取って新鮮な食事ができるというメリットに気づき始めます。
数日後、ついに栗子さんはアチと共に、定時よりも早くオフィスを抜け出すことに成功します。その瞬間、彼女の心に湧き上がったのは、幼い頃から「良い成績を収めなければ人生は終わり」と教え込まれてきたプレッシャーからの解放感でした。仕事中に「有益なこと」をしていないと不安になる性格だった彼女にとって、これはまさに「脱感作」の第一歩。外で食べる温かいランチの美味しさに、彼女は心からリラックスしたと言います。
“摸魚”の覚醒と新たなキャリア観
アチとの「摸魚」は、栗子さんの日常に定着していきました。昼休みの時間を少しずつ延ばし、最終的には30分以上も早くオフィスを出て、散歩をしてから食事を取り、ゆっくりと戻るのが彼らのルーティンに。一週間後には、栗子さん一人でも自由に「小魚(シャオユー)」(小さなサボり)ができるようになっていました。
入社から約1ヶ月が経ち、栗子さんは「外派」という働き方の本質を理解します。彼女に与えられたタスクは、ゲームのリリース直前に集中的に処理すべき「駆け込み仕事」であり、ゲームがリリースされれば、人員は大幅に削減される運命にあることに気づきます。「どうせ解雇されるなら、真面目に働いても昇進の機会もなければ、望む報酬も得られない。ならば、なぜ命がけで働く必要があるのか?」この思いが、彼女をさらに大胆な「摸魚」へと駆り立てます。
そして彼女が選んだ次なる「摸魚」は、昼休みを利用しての水泳でした。オフィスを抜け出し、プールで泳ぎ、シャワーを浴びてから会社に戻る。それはまるで、平日の仕事の合間にある、自由な休日を過ごしているかのような感覚だったと言います。アチはオフィスで栗子さんのアリバイを隠し、互いに協力し合うことで、彼らの「摸魚」はさらに進化していきました。
栗子さんの予想通り、ゲームリリースから1ヶ月後、成績不振を理由に彼女のチームは人員削減の対象となります。何の仕事も与えられないまま、社員たちはまるでネットカフェのように、ヘッドホンをしてゲームをしたり、ライブストリーミングを見たりして時間を過ごす日々。彼らは皆、自分たちが解雇される日を待っていることを知っていました。この時期、栗子さんは「摸魚」を本格的な「脱感作計画」として捉え、自らを「修練」する対象と見なすようになります。
まとめ:中国の若者のサバイバル戦略
栗子さんの体験は、中国の熾烈な就職戦線と、テック企業の労働文化の現実を鮮やかに映し出しています。名門大学を卒業したエリートでさえ、正社員としての安定した職を得ることが難しく、外注社員としてプロジェクトごとの働き方を強いられるケースが増えています。しかし、そんな中でも若者たちは、「摸魚」という一見ネガティブに見える行動を通して、自分自身のワークライフバランスや精神的な健康を守るためのサバイバル戦略を編み出していると言えるでしょう。
「摸魚」は、単なるサボりではなく、労働環境の変化に適応し、主体的に働き方を選択しようとする中国の若者たちの新しい価値観の表れかもしれません。日本においても、フリーランスや業務委託といった柔軟な働き方が広がる中で、本記事で紹介した「摸魚」のような現象は、決して他人事ではないでしょう。変化の激しい時代を生き抜くためのヒントが、ここにあるのかもしれません。
元記事: chuapp
Photo by Green odette on Pexels












