Armは、フラッグシップスマートフォンおよび次世代PCのAI体験を革新する新コンピューティングプラットフォーム「Arm® Lumex™ Compute Subsystem (CSS)」を発表しました。競争が激化するAndroid市場において、ユーザーはリアルタイムでパーソナライズされたAIサービスと、高いプライバシー・安定性を求めています。Lumexは、最先端のSME2技術を統合したCPUとGPUにより、このニーズに応え、エコシステムパートナーがより迅速に高性能AIデバイスを市場投入できるよう支援します。デスクトップ級のゲームからリアルタイム翻訳まで、多様なAI体験を加速させるこの新プラットフォームは、モバイルデバイスの未来を大きく変える可能性を秘めています。
Arm Lumex:次世代AI体験を拓く新プラットフォーム
今日のスマートフォンの世界は、ユーザーの期待値が急速に高まっています。単なる連絡ツールから、よりパーソナルでインテリジェントなアシスタントへと変貌を遂げる中、デバイスにはリアルタイムの応答性、個々人に最適化されたサービス、そして強固なプライバシー保護と安定したパフォーマンスが求められています。このような背景において、エッジAI(デバイス上で直接AI処理を行う技術)は、Androidエコシステムのさらなる進化の鍵を握るとされています。
Armが9月10日に発表した「Arm® Lumex™ Compute Subsystem (CSS)」プラットフォームは、まさにこのニーズに応えるべく開発されました。フラッグシップスマートフォンや次世代PCに特化し、AI体験を飛躍的に向上させることを目指しています。このプラットフォームの登場は、業界全体に新たな活力をもたらすことでしょう。
性能と開発を加速するLumexの技術的進化
SME2技術で実現する圧倒的AIパフォーマンス
Lumex CSSプラットフォームは、第2世代スケーラブル・マトリックス拡張(SME2)技術を搭載した最高性能のArm CPU、GPU、およびシステムIPを統合しています。SME2は、AI処理能力を劇的に向上させるための重要な技術であり、ArmはSME2技術をさまざまなCPUプラットフォームに展開していく方針です。2030年までに、SMEおよびSME2は30億台以上のデバイスで累積100億TOPS(毎秒10兆回演算)を超える計算能力を提供し、エッジAIのパフォーマンスを飛躍的に向上させると予測されています。
これにより、エコシステムパートナーはAI搭載デバイスをより迅速に市場に投入できるだけでなく、デスクトップ級のモバイルゲーム、リアルタイム翻訳、インテリジェントアシスタント、パーソナライズされたアプリケーションなど、多様でリッチなユーザー体験を実現できるようになります。
SoC開発を柔軟に支援するモジュール性
パートナー企業は、Arm Lumexを用いて独自のシステム・オン・チップ(SoC)を構築する際に、高い柔軟性を享受できます。Armが提供する最適化されたプラットフォームを直接採用し、その先進的な物理実装を活用することで、製品開発期間の短縮とパフォーマンス価値の早期実現という二重のメリットを得られます。
あるいは、RTL(レジスタ転送レベル)設計を目標市場に合わせて細かく構成し、コアモジュールのハードニング作業を自社で完了させることも可能です。この柔軟性により、各社の特定の要件に合わせた最適なSoC開発が実現します。
Armv9.3 CPUとMali G1-Ultra GPUの強力な融合
Arm Lumexプラットフォームは、多岐にわたる重要な技術によってそのアーキテクチャの自由度を支えています。これには、新しいSME2技術を搭載したArmv9.3 CPUクラスター(Arm C1-Ultra、Arm C1-Premium、Arm C1-Pro、Arm C1-Nano)が含まれており、異なるレベルのデバイスをサポートします。また、新世代のレイトレーシング技術を搭載した全く新しいArm Mali™ G1-Ultra GPUは、高度なグラフィックスとゲーム体験を提供しつつ、AIパフォーマンスも効果的に向上させています。
さらに、Armはこれまでで最も柔軟で高効率、かつ多種多様な電源モードに対応するDynamIQ Shared Unit (DSU) を導入し、3nmプロセスノード向けに最適化された物理実装も提供しています。
開発者エコシステムと未来への展望
ソフトウェアとツール面でも、LumexプラットフォームはAndroid 16システムへの対応準備を完了しており、SME2機能はソフトウェアおよびツールスタック全体に統合されています。さらに、ArmのAI開発ライブラリであるKleidiAIもSME2技術をサポートしています。
Arm Lumexプラットフォーム上では、開発者はすぐに利用できるAI開発体験を得られます。KleidiAIと主要なAIフレームワーク(PyTorch ExecuTorch、Google LiteRT、Alibaba MNN、Microsoft ONNX Runtimeなど)との統合により、開発者はコードを一切変更することなく、SME2による自動的な高速化能力を享受できます。
Armのシニアバイスプレジデント兼クライアント事業部門ジェネラルマネージャーであるChris Bergey氏は、Arm Unlocked 2025サミットで、「過去1年でKleidiは大きな成功を収めました。現在では、業界で最も重要なAIフレームワークに統合され、Androidシステムのあらゆる種類のアプリケーションやシステムサービスに広く適用されています」と述べています。
まとめ
Armの新しいLumexプラットフォームは、エッジAI時代におけるスマートフォンの進化を加速させる画期的な取り組みです。ユーザーはよりパーソナルでリアルタイムなAI体験を享受できるようになり、開発者は革新的なアプリケーションを迅速に市場に投入できるようになります。SME2技術による計算能力の飛躍的な向上は、日本のスマートフォンユーザーにとっても、よりスムーズでインテリジェントなデバイス体験をもたらすでしょう。
ArmがAndroidエコシステム全体を巻き込み、AIを核とした次世代モバイルコンピューティングを推進することで、今後数年間のスマートフォンおよびPC市場の競争はさらに白熱し、私たちのデジタルライフはより豊かで便利なものへと進化していくことが期待されます。この新しいプラットフォームが、どのような革新的な製品を生み出していくのか、今後の動向から目が離せません。
元記事: pcd
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