定年退職後の生活は、ゆったりと静かなもの――そんな固定観念を覆す熱い動きが中国で広がりを見せています。平均年齢が約60歳というシニア世代が、eスポーツの舞台でプロ顔負けの戦略と情熱をぶつけ合う大会『永劫無間手游』銀齢杯総決勝が開催されました。若い頃に叶えられなかった夢や、家族との絆を深めるきっかけとしてゲームに没頭する彼らの姿は、まさに人生100年時代における「生きがい」の新しい形。本記事では、白熱するシニアeスポーツの現場から、選手たちの胸の内、そして彼らが日本の私たちに示唆する未来の可能性について深掘りしていきます。
中国シニアeスポーツの熱狂!平均60歳のベテランゲーマーたち
2025年10月25日、杭州電競センターで開催された『永劫無間手游』銀齢杯総決勝の会場には、驚くほどの熱気が満ちていました。選手たちの登壇リハーサルから、そのエネルギーに満ちた声が響き渡ります。「私は拱墅V4先鋒の雲上问道、今年60、来年18!」――自己紹介の声には、ユーモアと自信が溢れ、まるで歌っているかのような抑揚がつけられていました。大会スタッフによると、参加選手の平均年齢は約60歳。しかし、間近で接する彼らからは、年齢を感じさせない若々しい気質が漂っています。
例えば「晶刃無双」戦隊の4人のメンバーは、皆穏やかで物静かな印象の女性たちですが、彼女たちが選んだIDは「風、雲、雷、電」。これは「『永劫無間手游』の世界で大暴れする」という強い闘志の表れです。試合前のメディアインタビューでも、その闘志は隠しきれません。高々と結んだポニーテールが目を引く晶刃電選手は、発言直前までスマートフォンで操作練習に集中し、興奮すると全身で感情を表現していました。
ゲームが繋ぐ家族の絆、そして新たな自己表現
晶刃電選手に続いて注目を集めたのは、晶刃雷選手です。彼女はかつて、娘がゲームに夢中になることを全く理解できず、それが家族間の衝突の原因になることもありました。しかし、娘がゲームデザインを学ぶためイギリスへ留学する決意をしたことが、彼女自身がゲームに触れるきっかけとなります。娘の世界を理解したい一心でゲームを始めた晶刃雷選手は、ソロ個人戦で優れたゲームセンスを発揮。常にフィールドの端で動きを観察し、ここぞという時に仕掛ける「危険なハンター」のようなプレイスタイルで、最終的には個人戦のチャンピオンに輝きました。
また、「武林天驕」戦隊の七公選手も、人気の高いベテランゲーマーです。68歳の彼は、引退前は浙江日報のカメラマンでした。昨年から地域のeスポーツ教室に通い始め、今では5つの強豪チームを育て上げるリーダー的存在。最高のプレイ環境を求め、5000元(約10万円)を費やして新しいスマートフォンを購入したというエピソードからも、彼のゲームへの情熱が伝わってきます。彼は毎日3時間近くゲームをプレイし、若いプレイヤーたちには「じいちゃんではなく、おじさんと呼んでくれ」と冗談を言うほどです。
「静」から「動」へ:シニアが見出すeスポーツの魅力
会場の観客席には、若い世代だけでなく多くのシニア世代の姿がありました。彼らは若者と同じように応援ボードを掲げ、熱烈に声援を送ります。特に私の隣に座っていた数人の方々は、試合展開にも非常に詳しく、選手たちのプレイを分析したり、リアルタイムで表示される選手の心拍数を見て「ほら、160まで上がってるぞ!」と興奮気味に実況するほどでした。
話を聞くと、彼らも実はeスポーツ教室の仲間たち。惜しくも決勝進出は逃したものの、選手たちとは「戦友でありライバル」だと言います。「練習では負けちゃったから、今日は応援団!」と笑顔で語る彼らの言葉からは、純粋なゲーム愛と仲間への温かい眼差しが感じられました。彼らにとって、水墨画やフルートといった従来の静的な趣味とは異なり、eスポーツは知的な運動であり、強い対抗性を伴う「適度な激情」を与えてくれる、かけがえのない存在なのです。
「若い頃は、武侠小説をたくさん読んだものです。金庸や梁羽生、古龍――私たちは皆、心の奥底に武侠の夢を抱いていました」と一人の女性が教えてくれました。彼らのチーム名やIDには、「御街金刃衛」「武林天驕」など、武侠の世界観が色濃く反映されています。定年退職を経て、かつて仕事や家庭のために封印していた純粋な「好き」を追求する自由を手に入れた今、ゲームこそが、彼らが心に描いた「侠客」や「英雄」になるための最適な舞台なのです。
固定観念を覆すシニアゲーマーの戦略と未来への示唆
当初、私にはシニアのeスポーツに対して「若い選手の試合ほど見応えはないだろう」という固定観念がありました。しかし、それは完全に間違いでした。彼らの試合は、若者の試合ではあまり見られないようなユニークな戦術に満ちています。例えば、隠形スキルを使って環境に溶け込み、敵が罠にかかるのをじっと待つ「危険なハンター」のようなプレイは、試合に多くの面白いハイライトを生み出し、知力と心理的な駆け引きが鮮明に見て取れます。
激しい戦いの末、『永劫無間手游』銀齢杯4人チーム戦の総合優勝は「桐江驚鴻」戦隊が勝ち取りました。トロフィーを掲げる彼らの顔は、誇らしげな笑顔で輝いています。その瞬間、彼らは子供たちにとっての誇らしい親であるだけでなく、自分自身の心の中の「英雄」そのものでした。試合後、戦隊服を脱ぎ、晩御飯の話や孫の勉強の話をしながら会場を後にする選手たちの姿は、まるで任務を終えた武林の達人が市井に溶け込むかのよう。その光景は、ゲームを仕事とする私自身の将来に対する不安を、温かい安心感に変えてくれました。
まとめ
中国のシニアeスポーツが示す光景は、私たち日本の読者にとっても示唆に富んでいます。平均寿命が延び、人生100年時代を迎える現代において、定年後の生きがいや社会との繋がりは重要な課題です。ゲーム、特にeスポーツは、単なる暇つぶしではなく、知的好奇心を満たし、新しいコミュニティを形成し、そして何より人生に「適度な激情」をもたらす強力なツールとなり得ます。彼らが熱中する姿は、年齢を重ねても学び続け、挑戦し続ける「終身学習者」の姿そのものです。日本でも、高齢者向けeスポーツ大会やコミュニティの創出は、単なる娯楽の提供に留まらず、社会的な活力を生み出す新たな可能性を秘めていると言えるでしょう。ゲームを通じて武侠の夢を追いかける中国のシニアたちは、私たち自身の未来の選択肢を広げてくれる、まさに「ヒーロー」なのかもしれません。
元記事: chuapp
Photo by Matheus Bertelli on Pexels












