中国のクリエイティブシーンを語る上で欠かせないのが、大規模な同人イベントの存在です。特に上海で開催される「Comicup」(通称CP)は、日本のコミックマーケットにも匹敵するほどの熱狂ぶりを見せています。今回は、2025年10月上旬に開催された「CP2025SP」を舞台に、初めて出展したサークルの体験談から、中国の同人文化がどのように発展し、どのような課題を抱えているのかを深掘りしていきます。作品への「愛」を原動力に活動するクリエイターたちのリアルな声をお届けします。
中国同人文化の最前線:熱狂のCPSP
2025年10月7日から8日にかけて、上海国家会展中心で開催された「CP2025SP」は、まさに中国同人文化の熱気を象徴するイベントでした。Comicup実行委員会が主催するこの大型総合同人展は、約8000ものクリエイターブースと270以上のテーマストリートを展開し、27万人を超える来場者で賑わいました。近年、SNSを通じた同人コミュニティの急速な発展と、同人分野への注目度の高まりが、この驚異的な集客を可能にしています。
イベントの開催情報プラットフォーム「CPP(无差别同人站)」でのCPSP展会情報は、ソーシャルメディア上で現象級の議論を巻き起こし、関連トピックは複数のプラットフォームでACG(アニメ・漫画・ゲーム)部門のランキング首位を獲得。オンラインでの総閲覧数は数十億にも達しました。私たちは、今回CPSPに出展した3名の同人クリエイターに話を聞き、彼らの目から見たCP展の様子、この数年の創作環境の変化、そして同人創作への未来に対する思いを探りました。
初めてのCPSP出展:サークル「猫粮」の奮闘記
サークル代表の猫粮(マオリアン)さんにとって、CPSPへの出展は自身初、そしてサークルとしても初の大型同人イベント参加でした。約1ヶ月にわたる出展申請の待機期間を経て、展示会当日は、仲間たちと共に準備を進め、2時間ほどでブース設営を完了。国慶節の期間中、上海には数万もの同人クリエイターが集まりますが、猫粮さんたちは荷物を最大限に詰め込み、万全の準備で臨んだそうです。
宿泊はコストを抑えるため、会場から少し離れた場所にある1泊60元(約1,200円)のユースホステルを利用。そこで出会った人々も、皆CPSPの出展者仲間だったと言います。猫粮さんのサークルブースは、「少女バンド」をテーマに、「ぼっち・ざ・ろっく!」や「BanG Dream!」といった人気IPの作品を展示。隣接するブースの「Ave Mujica」ファンの出展者とも意気投合し、互いの作品やグッズを並べて記念撮影するなど、活発な交流が生まれました。
CPSP開催の2日間、猫粮さんとメンバーは「座る暇もないほど」忙しかったそうです。商品の販売だけでなく、作品に興味を持った来場者から「扩列」(フォロー申請や友達申請)の依頼を受けることも少なくありませんでした。結果として、出品した作品の半分以上が売れ、特に「BanG Dream!」シリーズのアクリルスタンドはほぼ完売。大変な思いをしながらも、皆が「楽しかった」と語る、充実したイベントとなりました。
多様なブースと来場者の熱気
会場内では、各ブースが趣向を凝らした装飾で個性を競い合っていました。流行のインターネットミームから、クリエイター自身の「推し」(応援するキャラクター)への熱烈な応援、さらにはユニークなパフォーマンス「整活」(面白い企画)まで、様々な工夫が凝らされたのぼりやポスターが、同好の士を引き寄せていました。来場者は、お目当ての作品を購入するだけでなく、クリエイターと直接交流できるのも同人展ならではの魅力です。
猫粮さんたちは、交代でブースを見ながら他のエリアを回る計画を立てていました。初日は、人気ゲーム「VALORANT」の専用エリアを訪れた猫粮さん。開場前から長蛇の列ができ、人気の高さがうかがえました。彼は、「人気のIPとそうでないIPとの差は歴然で、まるで異なる会場にいるようだった」と振り返ります。
一部の高品質な人気ブースでは、来場者の列が「2里地(約1km)」にも及び、警備員が誘導に当たるほどの混雑ぶりでした。一方、比較的ニッチなテーマのブースでも、商品は購入されるものの、来場者の流量は少ない傾向にあったとのことです。猫粮さんはさらに、ブースの品質自体にも大きな差があると指摘しました。CPSPには、プロ並みのクオリティを誇る作品を展示するサークルも少なくなく、特に専門的な運営団体が企画・制作・販売を手がけるブースでは、洗練されたメニュー表とQRコード決済を導入し、スムーズな購入体験を提供していました。
創作の光と影:同人活動のリアルな課題
一方で、審査基準をすり抜ける「低品質なブース」の存在も散見されたと猫粮さんたちは語ります。メンバーの咩咩(ミェミェ)さんは、「一部の出展者は、専門業者に同人誌制作を依頼して審査を通過させた後、質の低い作品を販売するケースがある」と指摘しました。特に人気ジャンルではこの傾向が顕著ですが、競合も多いため、来場者は品質を比較することで、クリエイターが「愛」から作品を作っているのか、それとも単なる利益目的なのかを見抜くことができると言います。
「同人志」がクリエイターの「名刺」に
駆け出しのサークルにとって、CPSPの出展権を獲得することは非常に貴重な機会です。かつては違法な複製販売が横行する場所でしか作品を展示できなかったクリエイターたちが、今や多くの創作愛好家が憧れる舞台に立つことができるようになったのです。
CPSPへの出展には厳格な審査があります。その核心となるのは、展示作品の企画書やサンプル、特に「同人志」(日本の同人誌に相当する小冊子)を提出し、「オリジナル性」と「同人創作」の性質に合致していることを証明することです。同人志は、クリエイターにとってまさに「名刺」のような存在。漫画、小説、イラスト集など、様々な形式で個性を表現する場となります。CPSP運営は、IPの人気度に応じて審査基準を調整しており、人気IPの作品は高い品質が求められる一方で、ニッチなIPには手厚いサポートが提供されますが、収益性は限定的になる傾向があります。
創作を支える知識と戦略
同人作品の制作は、時間も労力もかかる大変な作業です。CPSPのような大規模イベントから同人市場の巨大さが垣間見えますが、それでもクリエイターの根底にあるのは「愛」であり、それが収益の大きな格差を生む原因にもなっています。特に初心者は、純粋な情熱ゆえに「失敗」を経験することも珍しくありません。
これまで何度もCP展やオンリーイベントに出展してきたクリエイターのTAKOさんは、その経験から、同人誌制作のノウハウをまとめた無料冊子「RE:ゼロから始める印刷マニュアル」を作成しました。彼女は「多くの優れた内容を持つクリエイターが、その作品をうまく形にできていない」と感じ、自身が印刷工場で働いていた経験を活かして、この冊子の制作を思い立ったそうです。すでに1000部以上が配布されたこのマニュアルは、クリエイターが印刷工程で直面するであろう多くの落とし穴を回避する手助けとなり、創作エコシステム全体の推進に貢献しています。TAKOさんは、自分の作った冊子を元に、皆が望むグッズを制作しているのを見るのが大きな達成感だと語ります。
しかし、優れた制作スキルだけでなく、「適切なジャンル選び」と「戦略」も同様に重要です。現在最も人気のあるIPは、高い収益化能力を持つ傾向にあり、作品の品質はその次にきます。TAKOさんによると、CP展に出展するクリエイターは、通常、SNSアカウントを使って「攤宣」(出展告知)を行い、イベント後には、オンラインでの販売(通販)を行う際の「通販宣」も制作します。来場者は「CPP」上でクリエイターの作品を探し、購入することも可能です。「同人作品の宣伝は、クリエイター個人の人気に大きく依存しますが、時にはSNSでバズる『神グッズ』によって一気に火が付くこともあります」とTAKOさんは述べ、魅力的な作品と適切なプロモーションが成功の鍵であることを強調しました。
まとめ:愛と挑戦が生み出す中国同人文化の未来
中国の巨大同人イベント「CPSP」は、単なる作品展示即売会にとどまらず、クリエイターたちが「愛」を原動力に集い、表現し、交流する場として急速に発展しています。初めての出展で奮闘するサークル代表の猫粮さんの体験談からは、イベントの熱気とクリエイターたちの情熱が伝わってきました。
一方で、人気IPとニッチなIP間の格差、作品の品質管理、そして同人誌制作における専門知識の必要性など、創作活動のリアルな課題も浮き彫りになりました。TAKOさんのような、クリエイターを支援する取り組みは、中国の同人文化全体を底上げし、より質の高い作品が生まれる土壌を育んでいます。
日本の同人文化とも共通する「愛」と「情熱」が、中国でも創作活動を支える核となっています。SNSやオンラインプラットフォームの進化は、クリエイターとファンをつなぎ、市場を拡大する上で不可欠な存在です。今後も中国の同人文化は、デジタル技術の活用とクリエイターたちのたゆまぬ挑戦によって、さらなる発展を遂げることでしょう。日本を含め、世界の同人文化がどのように相互に影響し合い、進化していくのか、その動向から目が離せません。
元記事: chuapp
Photo by Ceng Ismail on Pexels












