2025年11月8日、中国の国民的モバイルゲーム『王者荣耀(Honor of Kings)』のプロリーグ、KPL(King Pro League)の年間グランドファイナルが、北京の象徴的な国家体育場「鳥の巣」で開催されました。この歴史的なイベントは、6.2万人を超える観客を動員し、モバイルeスポーツ単一イベントにおける舞台規模、現場観客数、そして「現場観客数が最も多い単一eスポーツイベント」としてギネス世界記録を更新。中国eスポーツの驚異的な成長と社会への浸透ぶりを世界に示しました。この記事では、熱狂的な試合展開から、KPLが築き上げてきた歴史、そして中国eスポーツが未来に描くビジョンまでを深掘りします。
「鳥の巣」が震えた歴史的決勝戦
2025年のKPLは9年目を迎え、その集大成となる年間グランドファイナルが「鳥の巣」を舞台に開催されました。対戦したのは、事前に「王朝」を築きつつあると目されていた「成都AG超玩会」と、敗者復活戦を「一穿四」(敗者組から4連勝で勝ち上がる)で勝ち上がり、かつての「十冠王」の栄誉を持つ「重慶狼隊」という、まさに因縁の対決です。
試合は第6局。スコアはAGの3勝2敗。AGが王手をかけたこの局面で、両チームのジャングル選手、重慶狼隊の李達亨(ID:小胖)と成都AG超玩会の陳家豪(ID:鍾意)が、それぞれ自身のFMVPスキン英雄(最高殊勲選手に贈られる記念スキンを冠した英雄)を選択した瞬間、会場は驚嘆の声に包まれました。これは「真っ向勝負」「死力を尽くす」という両選手の意気込みの表れであり、試合はまさにクライマックスを迎えようとしていました。
すでに夜10時近く、北京の夜は肌寒かったものの、会場の熱気は尋常ではありません。実況解説が「今夜のチャンピオンは誰だ?」「フルセットにもつれ込むか?」と問いかけると、観客席からは様々な声が入り混じり、期待と興奮が会場全体を覆っていました。そして「これが人生で唯一、鳥の巣に来るチャンスだと知った時、最も自信のある英雄を選ぶなら、彼らを信じろ」という実況の言葉と共に、両チームのファンによるコールが夜空に響き渡り、最終決戦の火蓋が切られました。
この日のグランドファイナルは、勝利の行方に劇的な逆転を期待させる展開の連続でした。特に印象的だったのは第1局。狼隊が序盤で8-0という圧倒的優位を築き、相手のタワーを2本破壊し、1万ものゴールド差をつけたにもかかわらず、あと一歩のところで水晶(本拠地)を破壊できず、AGに劇的な逆転勝利を許したのです。この衝撃的な一戦は後続の試合にも影響を与え、選手たちはより一層慎重に、そして解説者も幾度となく逆転の可能性に言及するほどでした。
そして迎えた第6局。試合中盤の集団戦がターニングポイントとなります。狼隊のサポート選手、李自威(ID:一笙)の操る東皇太一がフラッシュで奇襲を仕掛けますが、相手を仕留めきれず、AGに2対4のトレードを許します。AGはこのチャンスを逃さず、タワーを破壊し、そのまま試合を有利に進め、最終的にはサイドレーンのミニオンが本拠地を押し切り、4対2のスコアで年間総チャンピオンの座を掴み取りました。金色の紙吹雪が舞い散る中、成都AG超玩会は、見事2年連続の年間総チャンピオンの栄冠に輝いたのです。
eスポーツ、そして「王者荣耀」KPLの驚異的な進化
今回のKPLグランドファイナルは、あらゆる意味で特別な意義を持つ大会でした。筆者が11月8日の午後に鳥の巣付近に到着した際、会場へ向かうeスポーツファンと共に、観光客や周辺の警備員、露天商までが「王者荣耀の試合で人がたくさん来ている」と話しているのを目にし、ある種の感慨を覚えました。2016年12月、初めてKPLグランドファイナルが開催された上海の会場にはわずか1000人の観客しかおらず、当時のKPLは新しいモバイルeスポーツリーグとして、多くの人から懐疑的な目で見られていました。しかし今、その印象は劇的に変化しています。
公式データによると、今回のKPL年間グランドファイナルには6.2万人を超える観客が現場に詰めかけ、モバイルeスポーツ単一イベントにおける舞台規模、現場観客数、そして「現場観客数が最も多い単一eスポーツイベント」としてギネス世界記録を更新しました。誰もが「すごい」と感じる「鳥の巣」で開催されたことは、この大会の影響力、地位、そして商業的価値が驚異的なレベルに達していることを明確に示しています。
これは、KPLが観客動員数、イベント規模、競技形式、開催都市など、あらゆる面で常に進化を続け、急速な成長を遂げてきた結果です。例えば、今回の年間グランドファイナルは、2024年1月13日に発表された新競技形式導入後、2回目の開催でした。前回の決勝は北京工人体育場で行われ、今回と同様に強いスポーツ性を帯びており、KPL自身の変化と質を伝えていました。この新形式の発表と同時に、総賞金の大幅な増額、リーグの新しいロゴとテーマ、そして国際大会に派遣される「ドリームチーム」の結成も発表されました。
KPLの改革と拡大は、常にeスポーツイベントの先頭を走っているように見えます。2018年秋季リーグに導入された「全局BP(ピック&バン)」制度から、2021年のSABグループリーグ形式、そして年間グランドファイナルの導入に至るまで、これらの変化が『王者荣耀』のeスポーツシステム全体を形成し、競技の役割をより明確にしました。開催場所も、初期の屋内施設から始まり、五棵松(アリーナ)での試合や、新工人体育場のライブビューイングを経て、最終的に「鳥の巣」の現場へと進化したのです。これは、大会運営チームの成熟を示しており、彼らが観客数の増加と共に、文字通りより壮大で「見栄えのする」イベントを創り上げてきたことを意味します。
このような変化と発展は、『王者荣耀』というゲーム自体と密接に結びついています。数億人規模の多様なプレイヤーを抱え、日常生活やリアルイベントに深く浸透しているゲームだからこそ、eスポーツイベントもまた、これほどの規模を達成できたのです。プレイヤーコミュニティでは、熱心なファンだけでなく、単に「見た目が良いから」という理由で会場を訪れ、eスポーツならではの「究極の対決」や「3勝からの4連勝逆転」といったドラマを期待する人も少なくありません。選手が選んだ英雄が彼らのIDとセリフを口にするたびに、たとえその選手をよく知らなくても、多くの観客が感動を覚えます。eスポーツイベントの開催方法には、ゲームがプレイヤーに伝えたい文化が凝縮されていると言えるでしょう。
運営スタッフの一人は、「当時はまだ『草台班子』(素人集団)だったのに、まさか今では鳥の巣でやっているなんて」と冗談交じりに語っていました。試合前のインタビューの最後に、KPL『王者荣耀』プロリーグ責任者である黄承主席は、全てのメディア関係者に対し、「今日午後5時半、照明が落ち、音楽が鳴り響く時、どうか皆さんの手を止め、16分半のオープニングセレモニーを存分に楽しんでください。これは私たちのチームが長年積み重ねてきた、eスポーツとテクノロジー、そして『王者荣耀』の饗宴の結晶です」と述べ、イベントへの自信と熱意を滲ませていました。
「王朝」と「挑戦者」が織りなす物語
試合前のインタビューで、黄承主席は興味深い質問に答えました。それは、インターネット上で話題になった議論、「王朝がリーグの発展を阻害するという人もいますが、プロリーグにおいて、王朝チームが存在することの積極的な意義とは何だとお考えですか?その関係性をどう見ていますか?」というものです。ここでいう「王朝チーム」とは、まさに現在の成都AG超玩会を指します。
黄承主席は、「成熟したプロスポーツリーグにおいて、『王朝』は不可欠な存在です」と語りました。「今年の年間グランドファイナルでは、どのトーナメント戦も非常に素晴らしい対決ばかりでした。広州TTGや蘇州KSGといったチームが、AG超玩会に十分な『厄介』をもたらし、多くの火花を散らしました。eスポーツイベントでは、ある時期に支配的なチームや個人が現れるのは当然のことで、これは競技スポーツリーグが相対的に成熟した証だと私は考えています。『王朝』があれば、当然その王朝を打ち破ろうとする人々も現れますから。」
今回の年間グランドファイナルにおける成都AG超玩会と重慶狼隊の対決は、多くのプレイヤーから今も「紅狼大戦」と揶揄されています。この「紅」は成都AG超玩会のチームカラーに由来します。両チームはKPLの古豪であり、AGはKPL初年度から参戦し、狼隊は2017年春季リーグで15連勝を達成、同年の春季リーグでAGを、チャンピオンズカップで武漢eStarProを破り、さらに広州XQを打ち倒して年間三冠を達成した輝かしい歴史を持ちます。当時、トップレーナーの彭雲飛(ID:Fly)選手は、『王者荣耀』初のFMVPスキンである花木蘭の「チャンピオン飛将」を獲得しました。このスキンの登場時のセリフ「生而无畏,戦至終章」(恐れを知らず生まれ、終章まで戦い抜け)は、後に重慶狼隊の試合前の固定コールとなっています。
こうした歴史的背景を持つ両チームの対戦は、単なる試合以上の「物語」を会場にもたらしました。2017年春季決勝以来、両チームは決勝で6度激突し、それぞれ3勝ずつ。通算35回の対戦を繰り広げています。こうした長い歴史が、試合をより一層叙情的なものにしているのです。
まとめ
北京「鳥の巣」で開催されたKPL年間グランドファイナルは、単なるeスポーツイベントの枠を超え、中国社会における『王者荣耀』とeスポーツの圧倒的な存在感、そしてその成長速度を世界に示した象徴的な出来事でした。モバイルeスポーツがこれほどの規模と熱狂を創出できることを証明したKPLの成功は、今後のグローバルeスポーツ市場、特にアジア圏におけるモバイルゲームの可能性に大きな示唆を与えます。技術革新とエンターテインメントが融合した中国のeスポーツシーンは、これからも進化を続け、新たな伝説を創り続けていくことでしょう。
元記事: chuapp
Photo by Tima Miroshnichenko on Pexels












