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ラリアンCEOのAI発言、ゲーム業界の波紋と現場の声

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『バルダーズ・ゲート3』や『 Divinity: Original Sin 2』といった名作RPGを手がけたベルギーのゲーム開発会社、ラリアン・スタジオ(Larian Studios)。そのCEOであるスヴェン・ヴィンケ氏が生成AIの活用について語ったことで、ゲーム業界に大きな波紋が広がっています。ヴィンケ氏の発言は、一部のゲームアーティストから「上層部は現場の仕事を理解していない」という厳しい批判を招き、AIがもたらす効率化の期待と、クリエイティブな現場での現実とのギャップが浮き彫りになりました。本記事では、この議論の背景と、ゲーム開発の最前線で働くアーティストたちの本音に迫ります。

ラリアンCEOのAI発言が巻き起こした波紋

発端は、2025年12月にBloombergのベテランゲームジャーナリスト、ジェイソン・シュライアー氏との対談で、ラリアン・スタジオCEOのスヴェン・ヴィンケ氏が生成AIツールについて言及したことです。同スタジオは生成AIツールを試用しており、ヴィンケ氏はAIが「顕著な効率向上には繋がっていない」としながらも、「PPT資料の改善」や「コンセプトアートの開発」には利用していると述べました。

しかし、この報道は瞬く間にSNSで拡散され、ヴィンケ氏に対する批判が殺到。「AIをコンセプトアートに使うとは何事か」「アーティストの仕事を奪う気か」といった声が上がりました。事態を重く見たヴィンケ氏は、すぐに自身のSNSで反論し、ラリアン・スタジオの生成AIに対するスタンスを明確にしました。「とんでもない。我々はAIを“大々的に推進”したり、コンセプトアーティストの代わりに使ったりしていません」と強調し、「ラリアンには72人のアーティストチームがあり、そのうち23人がコンセプトアーティストで、さらに採用も継続しています。彼らの作品は全てオリジナルであり、私は彼らをとても誇りに思っています」と語りました。

さらにヴィンケ氏は、ラリアン・スタジオが「ブティック系コンセプトアート会社」を買収したことを示唆し、AIツールをGoogle検索や画集のように「参照資料の探索」に使うと説明しています。「初期の構想段階でラフスケッチに使い、その後はオリジナルなコンセプトアートに置き換えます。クリエイティブチームの採用では、候補者が機械の提案に従えるかどうかではなく、専門スキルのみを評価します。しかし、彼らがAIツールを使って仕事を楽にすることは奨励しています」と、あくまで補助ツールとしての活用姿勢を示しました。

ゲーム業界のアーティストたちの懸念

しかし、ゲーム業界のコンセプトアーティストたちは、ヴィンケ氏の発言に対し異なる見解を示しています。独立系スタジオやAAAタイトル制作に携わる複数のコンセプトアーティストへの取材では、全員が異口同音に、生成AI画像を「参照資料としてのみ」使うことさえ、作業を「より困難にする」と回答しました。

コンセプトアーティストの役割とは?

『Moving Out 2』や『LEGO Party!』などのゲーム制作に携わり、大学でコンセプトアートを教えるジャック・カービー・クロスビー氏は、「多くの人は、コンセプトアートとはゲーム開発終盤に公開されるような、精巧にレンダリングされた完成度の高い作品だと思っています。しかし、それはコンセプトアーティストの日常業務の全てではありません」と指摘します。

「コンセプトアーティストは、時間の半分以上を参照資料の収集に費やします。画像だけでなく、記事を読んだり、競合作品を評価したり、動画を視聴したり、特定の科学論文を読み込んだり。プロジェクトに少しでも関連する資料は全て集めます」と彼は語ります。アイデアの源泉は彼らの頭の中に常に蓄積されているのです。

独立系スタジオで活動するゲーム開発者・イラストレーターのルーシー・マティマー氏も、「参照とリサーチはアーティストの成長過程において不可欠な要素です。プロジェクトに参加するたびに、その要素の一部を吸収し、内面化していきます」と述べ、「『後で人間が修正すればいい』と軽視されがちな初期の“混沌”こそが、作品の真髄であることも少なくありません。アート創作は力任せにはできず、思考と試行錯誤のプロセスが不可欠なのです」と、クリエイティブの核心に触れています。コンセプトアーティストの仕事は、プロジェクトの最初から最後まで、作品の一貫性を保つ上で極めて重要な役割を担っているのです。

AIがもたらす「仕事量の増大」と「創造性の喪失」

では、AI生成画像を単なる参照資料として使用することの何が問題なのでしょうか?

『Rollerdrome』のリードコンセプトアーティストを務めたキム・フー氏は、「初期の構想段階の一部をAIに任せると、探求の機会が奪われます。AIはユーザーの要求通りにしか生成しないからです。一方で、アーカイブを調べたり、現実世界で資料を集めたりすれば、これまで思いもよらなかったことに偶然出会い、発想をさらに広げることができます。これはコンセプトデザインや世界観構築の重要なステップです」と、AIがもたらす創造性の喪失を懸念します。

『Destiny 2』『Heroes of the Storm』などに携わったアートディレクター、ポール・スコット・カナバン氏は、AI生成画像を参照資料として使うことの最大の問題は「生成AIに共通する独創性の欠如」だと語ります。「AIは過去のあらゆるアートやメディア作品を広く吸収しますが、実質的に新しいものは何も生み出せません。新しいトレンドを発明することも、興味深いキャラクターをデザインすることもできず、ただ吸収したものを無目的に寄せ集めるだけです」。

他のアーティストも、参照資料を収集・研究する際、その「作り手の意図」を理解することが極めて重要だと指摘します。AI生成画像は「腐ったスープのようなもの。何が入っているか全く分からない」と表現され、その「原始的な背景」を掘り起こすために、アーティストはAI画像を構成要素に分解し、元の文脈を特定する追加作業が必要になるといいます。ある大手ゲーム開発会社のベテランコンセプトアーティストは、上層部からAI生成素材の使用を求められており、AI画像の元ネタを「オンラインで大量に検索して逆算」する作業に追われていると明かしました。これは法的な問題回避だけでなく、3Dアーティストなど次に作業する同僚がAI生成画像の曖昧さに悩まされないよう、責任を持って取り組んでいるとのことです。

AI生成画像がインターネットの隅々にまで広がる中、オリジナルの参照資料を見つけること自体が困難になっているという現状も、アーティストたちを悩ませています。

現場のアーティストが直面する苦悩

取材に応じたコンセプトアーティストの多くは、生成AIの参照素材を避けたいと考えていますが、一部のスタジオではそれが難しい状況です。さらに、クライアント側がプロジェクトの初期段階からAI生成画像を「こんな感じで作ってほしい」と持ち込んでくるケースも増えているといいます。

カナバン氏は、「これは最悪です。創作プロセス全体を完全に否定する行為だと考えています」と厳しく批判します。こうした状況は、往々にして会社の上層部やクライアントが、コンセプトアーティストの実際の仕事内容やクリエイティブな思考プロセスを十分に理解していないことを示しているのかもしれません。

まとめ

ラリアン・スタジオCEOの発言から始まった一連の議論は、ゲーム開発におけるAI活用の難しさと、クリエイティブ職の価値を改めて問い直すきっかけとなりました。AIは確かに一部のタスクで効率化をもたらす可能性を秘めていますが、ゲームの世界観を構築し、感情を揺さぶるアートを生み出すコンセプトアーティストたちの仕事は、単なる画像生成ツールでは代替できない深い思考と探求のプロセスの上に成り立っています。

AIを「ツール」として賢く活用し、アーティストの創造性を最大限に引き出すためには、経営層と現場のアーティストが互いの役割と価値を深く理解し、建設的な対話を重ねることが不可欠です。この議論は、日本のゲーム開発現場にも無関係ではありません。AI技術が進化し続ける中で、いかに人間ならではの創造性を守り、高めていくかが、今後のゲーム業界の大きな課題となるでしょう。

元記事: chuapp

Photo by Pavel Danilyuk on Pexels

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