イーロン・マスク氏率いるテスラが、新たな「創業期」に入ったことを宣言しました。自動車事業の売上低迷が続く中、同社はなんと200億ドル(日本円で約2兆9千億円)もの巨額な資本支出計画を発表。その投資先は、従来の電気自動車(EV)開発ではなく、人型ロボット「Optimus」や無人タクシー「Cybercab」、そして完全自動運転(FSD)といったAI・ロボット分野に集中しています。これは単なる事業拡大ではなく、テスラがEVメーカーからAI企業へと大胆に変貌しようとしている明確なシグナルと言えるでしょう。
テスラ、EV市場の失速をよそに「第二の創業期」へ
2026年初頭、テスラは業界に衝撃を与える発表を行いました。過去2年間、テスラの自動車事業は厳しい状況にあり、2025年には納車台数が前年比15.3万台減少し、自動車関連の売上高も10%落ち込みました。純粋な電気自動車のグローバル販売台数で、テスラはついに中国のBYDに首位の座を奪われ、その差は今後さらに広がる可能性も指摘されています。
しかし、イーロン・マスク氏はこの低迷をほとんど懸念していない様子です。2026年の事業計画に関する議論の中で、彼は自動車販売に関する話題をほとんど避け、代わりに200億ドルにものぼる巨額な資本支出計画を明かしました。この資金は、人型ロボット「Optimus」、無人タクシー「Cybercab」、完全自動運転(FSD)システムなど、六つの全く新しい生産ラインと、それらの開発に必要な計算能力(コンピューティング・パワー)の構築に充てられるといいます。ブルームバーグ社の試算では、自動車事業の成長が停滞する中で、この投資により2026年にはテスラの財務諸表から60億ドルが減少するとの予測も出ています。
これまでもマスク氏の「テスラはAI企業である」という主張は賛否両論を巻き起こしてきました。自動運転やロボットに関する彼の約束はしばしば遅延し、市場は具体的なビジネスモデルを明確に示せていないと感じていました。しかし、今回の200億ドル投資計画は、彼が抱く未来のビジョンを実現するための具体的な「道筋」と「手がかり」を、これまで以上に明確に示したと言えるでしょう。テスラは今、文字通り「資金を投じて新たな事業を立ち上げる」という、全速力の“バーニングマネー”フェーズに突入したのです。
EV販売は「もはや主戦場ではない」テスラの明確な意思表示
最近のテスラの決定とマスク氏の発言からは、彼が従来の自動車市場における「決勝戦」には、もはや興味を抱いていないことが見て取れます。
その象徴的な決定の一つが、今年第2四半期から高級車種であるModel SとModel Xの生産を停止し、カリフォルニア州の工場生産ラインを人型ロボット「Optimus」の量産用に改修するというものです。また、2025年の納車台数10%減という状況にもかかわらず、アナリストが噂の「廉価版モデル」(Model 2/Model Q)について尋ねた際、テスラ車両エンジニアリング担当副社長のラース・モラビー氏は「それは私たちの時間とエネルギーにかかっている」と回答。これは、CybercabやFSDの開発の方が優先順位が高いという明確なメッセージと受け取られました。より安価な新型車を開発し、世界の自動車市場の競争に引き続き参加することは、どうやらテスラの現段階での目標ではないようです。
このテスラの方向転換は、世界中で必死にEV市場での成功を目指す多くの自動車メーカーにとっては、ある種の安堵をもたらすかもしれません。実は、マスク氏が「車の販売に心ここにあらず」という兆候は以前から指摘されていました。テスラはその極めてシンプルな製品ラインナップとデザイン哲学から、しばしば「電動自動車界のアップルカー」と例えられます。しかし、アップルがユーザー体験の追求に並々ならぬ情熱を傾ける一方で、テスラにはその姿勢が欠けているとの批判もありました。例えば、アップルが3.5mmイヤホンジャックを廃止した際、すぐにAirPodsという代替製品を提供しましたが、テスラにはそのような顧客体験への配慮が不足していると見られていたのです。
まとめ
テスラが、これまでのEV市場のリーダーという立場から一歩引き、AIとロボットという新たな領域に巨額の資金を投じる「第二の創業期」に入ったことは、世界のテクノロジー業界と自動車業界に大きな波紋を広げています。
これは、テスラが単なる自動車メーカーではなく、イーロン・マスク氏のビジョン通りの「AI企業」へと真に変貌を遂げようとしている明確な意思表示と言えるでしょう。従来の自動車製造における競争から距離を置き、未来技術の最前線に立つことで、彼らは新たな価値創造を目指しています。この大胆な戦略が成功すれば、テスラはAIとロボティクスの分野で新たな標準を確立し、自動車のあり方そのものを再定義する可能性を秘めています。その一方で、莫大な投資と市場の不確実性というリスクもはらんでいます。
日本を含む世界の自動車メーカーやテクノロジー企業は、テスラのこの動きを注視し、来るべき未来のモビリティと社会の変革に対応するための戦略を再考する必要があるかもしれません。テスラのこの新たな挑戦が、どのような未来を切り開くのか、今後の動向から目が離せません。
元記事: pedaily
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