近年、インターネットを介した詐欺の手口は巧妙化の一途を辿り、私たちの生活を脅かす深刻な問題となっています。特にAI技術の発展は、フェイク動画やボイスクローニングといった新たな脅威を生み出し、その対策は喫緊の課題です。そんな中、中国では政府主導で国民全体のサイバー防犯意識を高めるユニークな取り組みが注目を集めています。
今回は、中国のサイバー空間規制を担う中核機関が主催する「第8回インターネット詐欺対策優秀作品募集活動」の発表についてご紹介。サイバー詐欺の撲滅を目指し、社会全体を巻き込む形で展開されるこのプロジェクトは、AI技術の活用や規制の方向性まで、日本の私たちにとっても多くの示唆を与えてくれるでしょう。
中国「第8回インターネット詐欺対策優秀作品募集」とは?
この大規模な募集活動は、中国の中央サイバーセキュリティ・情報化委員会弁公室傘下の「サイバー違法・不健全情報通報センター」が主催しています。新華網などの大手メディアも共催に名を連ね、その影響力は計り知れません。
活動の目的は、「サイバー詐欺対策の社会における浸透度をさらに広げ、社会各方面の力を結集して積極的にサイバー詐欺対策に参加させ、広範なネットユーザーの詐欺防止・対策能力を向上させること」。つまり、政府が主導しつつも、広く一般市民や団体から、詐欺対策に資するアイデアや作品を募り、それを共有・啓発に活用することで、社会全体のサイバー防犯意識と能力を底上げしようという壮大な試みです。
個人でも団体でも応募可能で、募集期間はこの発表の日から2026年3月20日までと、長期にわたって行われます。これは、単発のイベントではなく、持続的な啓発活動として位置づけられていることを示唆しています。
多岐にわたる募集カテゴリーと詳細な要件
募集カテゴリーは5種類
今回の募集では、2025年4月から2026年3月の間にオリジナルで公開されたサイバー詐欺対策作品が対象となります。カテゴリーは以下の5つに分かれており、多様な表現方法が許容されています。
- 文字作品:サイバー詐欺に関する権威ある分析、調査報告、時事解説、科学的な解説文など。3000字以内(Word形式)。
- 画像作品:詐欺の仕組みを分かりやすく図解したもの、啓発ポスター、H5アニメーションなど。JPGまたはPDF形式、5MB以下、300ピクセル以上。H5はURLリンクでの提出。
- 動画・音声作品:歌曲、MV、アニメーション、ショートムービー、公益広告、ドラマ形式など。主流の動画・音声形式(MP3, WAV, MP4, MOV, MPEG等)、5分以内。スクリプトまたは主要なプロット説明(500字以内)も必須。
- 特集・コラム作品:(機関・団体のみ対象)社会向けに制作された大規模なサイバー詐欺対策キャンペーン、特設コラム、特集記事、特色ある製品や機能など。URLリンクや企画書、報道記事、テキスト説明(500字以内)を提出。
- 優秀な詐欺対策プラットフォーム(アカウント)作品:(機関・団体のみ対象)サイバー詐欺対策や科学啓発を行うウェブサイト、アプリ、新メディアアカウントなど。プラットフォームURL、アカウント名、第三者評価、およびプラットフォームの概要、オリジナルコンテンツ比率(50%以上)などの詳細説明(500字以内)を提出。
これらの作品には、「正確な方向性」「内容の権威性」「事実の正確性」「法的適合性」が求められると共に、「独創性」「時事性」「情報伝達性」が重視されます。単なる情報提供だけでなく、社会への波及効果も期待されていることが伺えます。
AI技術活用作品に関する重要な注意点
特に注目すべきは、AI技術を利用して制作された関連作品について明確な規定が設けられている点です。中国は「人工知能生成合成コンテンツ識別管理弁法」などの関連規定に基づき、AI生成コンテンツであることを明記するよう求めています。
これは、AIが生成するフェイク情報や誤解を招くコンテンツへの懸念が高まる中で、その透明性を確保しようとする中国政府の姿勢を色濃く反映していると言えるでしょう。
この中国の取り組みが日本に示唆すること
中国政府が主導するこの大規模な詐欺対策プロジェクトは、いくつかの点で日本の私たちにとっても重要な示唆を含んでいます。
まず、サイバー詐欺対策を国民参加型で進めようとするアプローチです。政府機関が一方的に注意喚起するだけでなく、一般市民やクリエイター、専門機関が持つ知識や表現力を結集し、多様なコンテンツを通じて啓発効果を高めようとする姿勢は、情報が溢れる現代において有効な戦略と言えるでしょう。日本でも、官民連携や市民参加型のサイバーセキュリティ啓発がさらに強化される可能性があります。
次に、AI生成コンテンツに対する明確な規制と表示義務です。中国はAI技術の導入と規制に関して世界をリードする動きを見せており、今回の募集活動でもその一端が垣間見えます。AIによるディープフェイクなどが詐欺に悪用されるリスクが高まる中、日本もAI技術の健全な発展と利用を促進しつつ、悪用防止のための法整備や倫理的ガイドラインの策定を加速させる必要があるでしょう。中国のこうした具体的な動きは、日本のAI規制議論にも大きな影響を与える可能性があります。
さらに、中国がサイバー空間の「健全化」を重視し、積極的に国民の意識向上に努めていることは、デジタル社会における国家のガバナンスのあり方を考える上でも示唆的です。情報統制と国民啓発が一体となった中国の戦略は、自由な情報流通を原則とする民主主義国家とは異なるアプローチですが、その効率性や実効性については、議論の余地があるかもしれません。
まとめ
中国の「第8回インターネット詐欺対策優秀作品募集活動」は、単なる啓発キャンペーンに留まらず、AI時代におけるサイバーセキュリティのあり方、そして政府と国民の関係性までを映し出す興味深い試みです。サイバー詐欺は国境を越える問題であり、その対策は全世界共通の課題。中国の取り組みから学び、日本のサイバーセキュリティ対策をさらに強化するためのヒントを見出すことができるかもしれません。
私たち一人ひとりが、巧妙化するサイバー詐欺の手口に惑わされることなく、安全なデジタルライフを送るための知識と意識を高めていくことが、今後ますます重要になるでしょう。
元記事: pconline
Photo by cottonbro studio on Pexels












