中国の旧正月「春節」が終わり、高級消費市場に異変が起きています。特に、中国の富裕層の象徴とも言える高級白酒「茅台酒(マオタイシュ)」、その中でも最も人気の高い「飛天茅台(フェイティエンマオタイ)」が、大手ECサイトのセールで過去最低価格を記録しました。これは単なる季節的な需要減退だけでなく、メーカー自身の流通改革や、ECプラットフォームの激しい競争が複雑に絡み合った結果です。中国の高級酒市場に一体何が起きているのでしょうか?その背景と、市場の動向について深掘りします。
春節明け、高級白酒「茅台酒」に異変か?ECサイトで過去最低価格を記録
春節(旧正月)の大型連休が明けた直後、中国の白酒市場では早くも価格変動が見られました。特に注目されたのは、アルコール度数53度の500ml入り「飛天茅台」です。とあるECプラットフォームの「百億補貼(100億元補助金)」キャンペーンにおいて、1本あたりの価格が1,449元(約3万円弱)まで下落しました。これは、メーカー公式の推奨小売価格1,499元(約3万1,000円)を、非「独身の日」(中国最大のECセール)期間としては初めて下回る事態です。
この安値で販売された商品は、茅台酒の公式旗艦店ではなく、第三者店舗からの出品でしたが、「偽物なら10倍補償」を謳っており、その真贋にも注目が集まりました。価格下落の背景には、春節後の贈答やビジネスでの宴会需要の減少が大きく影響しており、白酒業界は伝統的な販売閑散期に入ったと見られています。第三者プラットフォームのデータによると、春節前の飛天茅台のばら売り卸売価格は最高で1本1,650元(約3万4,000円)に達しましたが、春節後には3月3日から1,600元を割り込み、3月12日には1,560元(約3万2,000円)にまで下落しています。
茅台酒の流通改革「i茅台」アプリが市場価格に与える影響
近年、貴州茅台酒は流通チャネルの改革を積極的に推進しており、これも市場価格に大きな影響を与えています。今年1月1日には、公式直販アプリ「i茅台APP」が正式にリリースされました。このアプリでは、飛天茅台が公式推奨小売価格の1,499元で常態的に直接販売されており、個人で購入できるのは1日あたり6本までと制限が設けられています。
アプリはリリース以来、供給が追い付かない状況が続いていますが、1月の月間アクティブユーザー数は1,531万人を超え、212万件の注文が成立しました。そのうち、実に67%に当たる143万件が飛天茅台の注文だったと言います。この「i茅台」の導入は、茅台酒が製品の価格決定権を再び掌握するための重要な一歩と見られており、卸売価格を1,500元から1,600元の間で安定させ、これまで卸売業者主導で発生していた価格変動の問題を緩和する効果があったとされています。
「i茅台」の入手困難と「テック転売ヤー」の台頭
しかし、茅台酒が価格決定権を取り戻す一方で、新たな課題も浮上しています。3月6日に「i茅台APP」が発表した春節期間中のアンケート調査データによると、回答者153万人のうち、実際に希望する製品を購入できたユーザーはわずか32.5%にとどまり、約7割のユーザーが希望の商品を入手できなかったと報告されています。
SNS上では、多くの消費者が「i茅台での購入は天に昇るほど難しい」と不満を漏らしています。この熾烈な「早押し競争」のような購入メカニズムは、いわゆる「テック転売ヤー(科技黄牛)」に操作の余地を与えてしまいました。現在、市場では、転売ヤーを介して購入する場合、1本あたり50元(約1,000円)程度の「プレミアム」を支払う必要があるとされています。
まとめ:中国経済と高級消費市場の行方
今回の茅台酒の価格下落は、単なる季節的な需要変動だけでなく、貴州茅台酒自身の流通改革、そして中国のECプラットフォーム間の競争、さらには中国経済全体の動向を複雑に映し出しています。春節明けの需要減退が一時的なものなのか、それとも中国富裕層の消費マインドの変化を示す兆候なのか、その行方は注目されます。
「i茅台」アプリの成功は、メーカーが直接消費者と繋がる「D2C(Direct to Consumer)」戦略の重要性を示す一方で、需要と供給のバランスをいかに保つか、また転売問題にいかに対応するかという新たな課題も浮き彫りにしました。中国の高級消費市場の動向は、日本を含む世界の高級品市場にも示唆を与える可能性があり、今後もその動きから目が離せません。
元記事: pcd
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