AIが私たちの働き方を根本から変えようとしていることは、もはや疑いようのない事実です。特に、その変革の波は中国の中小ゲーム開発チームを直撃し、彼らの日常と、時に「睡眠」さえも奪うほどの激しい変化をもたらしています。今回、中国のゲームメディア「触乐(Chuapp)」が取材した、AIを全面導入した先駆者たちの生の声から、その劇的な変化の裏側を探ります。
AIが開発現場を席巻:驚異の効率化と変化の波
2026年6月16日、編集者・許芸丹氏が報じたところによると、多くの中国ゲーム開発チームで劇的な変化が起こったのは今年(2026年)の春節以降のことでした。AIの導入は、開発現場に想像を絶するほどの効率化と新たな課題をもたらしています。
トークン使用量が70倍に急増!「AIなしではプログラミングできない」
25人規模の「数字天空」《烽沙》プロジェクトチームは、AI導入の最前線にいます。彼らが今年1月に利用したAIのトークン数は2億でしたが、わずか1ヶ月後の2月には149億にまで「70倍」も跳ね上がりました。
《烽沙》のプロデューサーであるNiko氏は、「AIはすでに私たちの日常開発プロセスに完全に組み込まれています。核となるデザイン方向は依然として人間の監督が必要ですが、もはや純粋な手作業のモードに戻ることは非常に難しい」と語ります。冗談めかして「もし今日AIが使えなければ、私たちはもうプログラグラミングができません。手作業でコードを打つのはあまりにも遅すぎる」とまで言っています。
これは数字天空に限った話ではありません。「触乐」が訪問した成都の多くの中小ゲームチーム(7人から100人規模)も同様に、今年の春節後からAIを本格的にワークフローに導入し始めています。
AIが経営判断も変える?20人規模のチームが7人へ
「宙船工坊」の責任者である月下氏もまた、AIがもたらす変革を体現する一人です。彼は「暗黒の2025年」と呼ぶ厳しい時期を経験していました。ゲームの発売成績は振るわず、会社の資金繰りは途絶え、20人いたチームはわずか7人にまで縮小。チームを拡充するための資金調達を検討していた矢先、春節休暇中にOpenClawなどのAIツールを試したことで彼の考えは一変しました。
月下氏は「AIは多くの実行作業を確かに代替できる」と確信。資金調達を拒否し、チームメンバーに2ヶ月間AI学習に専念させ、AIを核とした新たなワークフロー構築を目指すことを決意しました。彼は、「AIが実行作業を助けてくれるなら、例えば設定表の作成期間が2週間から1日に短縮できるなら、なぜ7人チームで過去の20人分の成果が出せるのに、資金調達して束縛を増やす必要があるのか?」と考えたのです。
当初、チームメンバーからは「私たちはAIの研究者ではない」といった懸念や、AIの「幻覚(ハルシネーション)」による問題でフラストレーションを感じることもあったといいます。しかし、月下氏は「手動で修正せず、繰り返しAIと対話して規約を積み重ねることで突破するしかない」と粘り強く指導。2ヶ月後には目標を達成し、AIを活用した新体制でゲーム開発を再始動させました。
今回の取材を通じて見えてきたのは、チームリーダーの先見性と決断がAI導入の成否を大きく左右するということです。多くのメンバーは当初AIに不信感を抱き、「仕事の邪魔になる」と抵抗する傾向がありました。ある匿名の企業の劉暢氏が語るように、それは「職業的プライド」によるものです。しかし、実際にAIを使い始めると、メンバーたちは目に見えて喜びを感じ始めることが多いといいます。
劉暢氏は「キャラクターの骨格バインディング」の例を挙げます。「この作業は技術的な専門性は低く、1体のキャラクターに半日、時には1日もかかる非常に退屈な作業です。それを何百、何千体もやらなければならない。しかし、AIを使えば、自分が半日かけていた作業が5分で終わるのを目にすれば、どうして手作業にこだわり続けるでしょうか?」。別の企業の責任者である程東氏も「皆賢いから、時代に乗り遅れないと分かっている」と語っています。
AIが担う「理性的」な仕事:創造性と効率のバランス
AIの適用範囲や程度はチームによって異なりますが、開発者たちの間にはいくつかの共通認識が生まれています。
最もAI化が進むのは「プログラム」と「枯燥な作業」
今回の調査で、開発者全員が口を揃えるのは「AIには退屈で面白くない仕事をさせるべきだ」という点です。AIの介入度合いについて、彼らは皆「AIは創造性を生み出せない」と考えています。現状、AIは「十分に理性的な仕事」にのみ適しているというのが共通認識です。
このため、AIの影響を最も早く受け、一時は「絵師の仕事がAIに奪われる」とまで言われた美術分野ですが、ゲーム業界においては、創造性を核とするデザイナーは比較的安定しているとされています。対照的に、規範化されたプログラム作業、理性的なテスト、そして一部の退屈な企画業務こそが、最もAI化が進んでいるポジションとなっています。
《烽沙》のプロデューサーによると、開発者たちはすでにAIに要件を記述し、AIが「50行、100行とコードを生成するのを見守り」、問題がなければ提出するという作業に慣れています。今回「触乐」が訪問した6つのゲームチームすべてで、プログラムはAIの浸透度が最も高い職種でした。特に、Claude Codeが広く利用されており、AIはスキルの迅速な設定、コード比較、バグチェック、バックエンドの階層管理など、多岐にわたる支援を提供しています。これまで小規模チームでは手が出せなかったマルチスレッド最適化のような高度な機能に挑戦する助けにもなっています。
AIプログラミングの限界と課題
もちろん、AIプログラミングにも限界はあります。「南棠羽星溯」の責任者である蛋蛋氏は、AIプログラミングを「かろうじて及第点」と評価しています。彼らが開発する魂系二次元ゲームでは、AIはフレンドシステムや解像度調整といった基本的な機能しか果たせないといいます。「市場にまだ存在しないものはAIには作れない」というのが彼らの見解です。
程東氏も、モバイルゲーム開発においてプログラム全体をAIに任せきることはせず、AIの補助を得てモジュールごとに開発し、最終的にプロジェクトに組み込むという方式をとっています。なぜなら「プレイヤーデータに問題が生じれば大問題になる」からです。同時に、AIのもう一つの作用として、プランナーの作業効率も向上させていると報告されています。
まとめ:日本企業への示唆と未来の展望
中国の中小ゲーム開発チームがAIを全面的に導入し、驚異的な効率化を実現している一方で、その過程では様々な葛藤や適応が求められています。開発者たちは、AIが「退屈で面白くない仕事」を代替し、生産性を飛躍的に高める可能性を強く感じています。特に、プログラミング分野におけるAIの浸透は目覚ましく、これまで手作業で行っていた多くの作業がAIによって自動化されつつあります。
しかし、AIが「市場に存在しない、ゼロからの創造性」を発揮するにはまだ限界があり、セキュリティや信頼性の問題も残されています。それでも、今回の事例は、AIが単なるツールではなく、企業戦略や働き方、チームの構成そのものを変革する力を持つことを明確に示しています。
日本のゲーム開発企業や、他の産業における中小企業にとっても、これは避けて通れない未来の姿かもしれません。いかにAIを効果的にワークフローに組み込み、人間の創造性とAIの効率性を融合させるか。そして、その変革の波の中で、いかにチームの「職業的プライド」を尊重し、新たなスキル習得を支援していくか。中国の事例は、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。AIとの共存は、時に「睡眠を失う」ほどの挑戦を伴うかもしれませんが、それを乗り越えた先に、新たな生産性と競争力の源泉があるのかもしれません。
元記事: chuapp
Photo by Daniil Komov on Pexels






