かつて中国で「神薬」と称され、一時は「1粒1000元(約2万円)でも入手困難」という市場の奇跡を生み出した漢方薬大手「片仔癀(Bian仔癀)」。この度発表された2025年第3四半期決算は、同社が続けてきた10年間の高成長神話に終止符を打つものとなりました。売上高と純利益が前年同期比で大幅な減少を記録し、かつて「華中の茅台(マオタイ)」とまで呼ばれた企業の輝かしい時代が、中国経済の消費冷え込みを背景に転換点を迎えていることを示しています。
「神薬」片仔癀、高成長神話に終止符
中国の民間株のカリスマ投資家、林園(リン・ユエン)氏が何度も推奨し、「希少性」と「高価格」を武器に成長を続けてきた片仔癀。特にA株市場(中国本土の株式市場)が活況を呈した時期には「華中の茅台(中国の高級白酒ブランド)」とまで称され、時価総額は一時2,900億元(約5兆8,000億円)を突破しました。しかし、最新の2025年第3四半期決算報告書によれば、その成長モデルは深刻な課題に直面しています。
2025年1月から9月期までの売上高は74億4,200万元(約1,488億円)で、前年同期比11.93%減。純利益は21億2,900万元(約426億円)で、同20.74%減となりました。特に第3四半期単体では、売上高20億6,400万元(約413億円)で26.28%減、純利益6億8,700万元(約137億円)で28.82%減と、売上と純利益がともに減少する局面は過去10年間で初めてのことです。これは、同社が長期にわたって依存してきた「希少性+高価格」という成長戦略が限界を迎えていることを明確に示しています。
主要事業と主力製品が軒並み不振
詳細な決算内容を見ると、同社の主要事業である医薬品製造業が全面的に失速していることが最大の懸念点です。前三四半期の医薬品製造業の売上高は40億1,600万元(総売上高の54.09%)でしたが、前年同期比で12.93%減、粗利率も7.51ポイント減の59.38%となりました。
さらに、医薬品流通業も売上高28億8,700万元で8.45%減、化粧品事業も売上高4億元で23.82%減と、主要三事業全てが冷え込んでいます。これは、主に医薬品製造業の販売減と粗利率の低下が響いています。
二大主力製品の失速
片仔癀の屋台骨を支えてきた二大主力製品も、その勢いを失っています。一つは「海の守り神」と称される肝臓病薬「片仔癀シリーズ」で、前三四半期の売上高は38億8,000万元、前年同期比9.41%減、粗利率は9.68ポイント減の61.11%となりました。
もう一つは、将来を嘱望されていた安宮牛黄丸(あんきゅうごおうがん)です。心脳血管用薬として期待されたこの製品の売上高は、わずか9,343万5,700元に留まり、前年同期比でなんと65.20%もの大幅な減少を記録しました。片仔癀は2020年に龍暉薬業の株式51%を買収し、安宮牛黄丸を含む製品ラインを強化することで新たな成長点を築こうとしましたが、結果的にこの買収は業績の「お荷物」となってしまいました。
消費者の財布の紐と中国経済の冷え込み
かつては「黄牛(転売屋)」によって高値で取引され、金の価格をも超えるとされた「神薬」片仔癀も、今やビジネス層や中間層の消費者から見向きもされなくなっています。人々が財布の紐を締め始めると、片仔癀もかつての高級酒「茅台」のように、非必須消費財が冷え込むという厳しい現実に直面しています。
片仔癀は2003年の上場以来、時価総額10億元から一時3,000億元近くまで膨れ上がり、約300倍の成長を遂げた実績を持ちます。しかし、2024年には年間純利益の成長率が6.42%に急落し、第4四半期には26.1%減となるなど、すでに成長の鈍化の兆候が見られました。そして2025年に入り、この下降トレンドは加速する一方です。北向資金(香港経由の中国本土投資資金)の代表格である香港中央決済所も約900万株を減らすなど、投資家の懸念も高まっています。
まとめ
「神薬」片仔癀の業績急落は、単一企業の不振に留まらず、現在の中国経済が直面している消費マインドの冷え込みを象徴する出来事と言えるでしょう。かつての「希少性+高価格」モデルが通用しなくなり、消費者がより慎重になっている現実が浮き彫りになりました。高額な非必須消費財は、今後も厳しい市場環境にさらされる可能性が高く、この傾向は中国市場に進出している、あるいは検討している日本企業にとっても重要な示唆を与えています。中国市場における消費者の動向と経済全体の変化を注視し、柔軟な戦略を構築することの重要性が改めて浮き彫りになった事例と言えるでしょう。
元記事: pedaily
Photo by Alesia Kozik on Pexels












