中国の新小売業界で「急成長」や「新しい方向性」を掲げる企業は多いものの、その裏には閉店や事業撤退といった厳しい現実が隠されていることも少なくありません。そんな中、生鮮EC・スーパーマーケット事業を展開する「盒馬(Hema Fresh)」が、2026年の全社員向け書簡で前年比40%を超える売上増を報告し、さらに通年で初の調整後EBITA黒字化を達成したことが、業界内外で大きな注目を集めています。単なる数字の華やかさだけでなく、持続的な成長と利益を両立させる、その画期的な戦略と実行力に焦点を当て、中国小売業の新たな可能性を探ります。
中国新小売の課題と盒馬の戦略転換
近年、中国小売業界では、多くの企業が「急成長」を謳いながらも、実態は店舗閉鎖や市場撤退に追い込まれるケースが頻発し、業界全体に警戒感が漂っていました。かつて、多くの企業が急速な規模拡大を実現しましたが、持続的な利益を生み出すことは稀でした。中国の新小売領域において、利益化は常に攻略の難しい課題とされてきたのです。
そんな中、盒馬のCEO厳九勝氏は、単なる「盒馬の勝利」を宣言するのではなく、中国小売業界に新しい視点を提示しました。それは、概念先行のプロモーションや補助金戦略に依存せず、ビジネスモデルの最適化と実行力の強化を通じて、成長と利益を密接に結びつけるというアプローチです。
この転換を象徴するのが、2024年末に下された重要な決定です。盒馬は事業の焦点を、生鮮スーパーの「盒馬鮮生(Hema Fresh)」と、会員制倉庫型店舗の「超盒算(Hema NB)」の二つの業態に絞り込みました。前者は成功モデルの横展開に注力し、後者は最適モデルの磨き込みに特化するという戦略です。これは過去の試行錯誤を深く反省し、一部の実験が期待通りの成果を上げなかったことを認める決断でした。
2025年には、盒馬鮮生は40都市に進出し、超盒算(Hema NB)は200店舗以上を新規開設。それぞれ総店舗数は約500店舗と約400店舗に達しました。これらの数字は目覚ましいものですが、過去の無謀な拡大ペースと比べると、より抑制的かつ合理的な展開と言えます。
この戦略調整は顕著な変化をもたらしました。店舗拡大は秩序立ち、試行錯誤型の無計画な出店は回避されました。業態を絞り込んだことで、サプライチェーンと商品体系はより集中化され、運営効率が大幅に向上。管理の複雑さも低減し、不要なシステムや人員への投資が削減されたのです。
消費者の「真のニーズ」に応える商品戦略と初の黒字化
全社員向け書簡では、盒馬鮮生と超盒算(Hema NB)の二つの業態が、合計で1億人以上の消費者にサービスを提供したと述べられています。この数字の裏には、盒馬の商品戦略における深い調整がありました。2025年には、新製品開発の80%がユーザーの核となるニーズに焦点を当てられ、健康食品と生鮮食品のソリューションに重点が置かれたのです。
この転換は、現在の小売環境における市場ニーズを深く理解していることを示唆しています。消費者は、単に多くの選択肢を求めているわけではありません。むしろ、安定した品質、明確な価格、そしてリピート購入できる確実性を強く望んでいます。そのため、盒馬は「イノベーションのためのイノベーション」を減らし、基礎的な能力構築を強化する方向へとシフトしました。
多くの新店舗が開店時に大きな賑わいを見せる一方で、業界ウォッチャーが注目するのは、集中マーケティングに頼らずに安定したリピート購入を維持できるか、そして規模が拡大した後もサプライチェーンコストを継続的に削減できるかという点です。
アリババの2025会計年度年次報告書によると、盒馬全体の流通総額(GMV)は750億元を超え、初の通年調整後利払い・税引き・償却前利益(EBITA)の黒字化を達成しました。この成果は、利益自体もさることながら、盒馬のビジネスモデルが持続的な赤字状態から脱却できることを証明したという点で、極めて大きな意味を持ちます。
現在のペースで推移すれば、2026会計年度末には、盒馬の流通総額(GMV)は1000億元を突破する見込みです。しかし、小売業界において規模はもはや希少な資源ではありません。規模を拡大しながらも財務の健全性を維持することこそが、真の挑戦となっているのです。
まとめ
盒馬の今回の実績は、中国の新小売業界における新たなベンチマークを打ち立てました。単なる成長率の追求や、華やかなプロモーションに終始するのではなく、堅実なビジネスモデルの最適化、消費者の本質的なニーズへの深い理解、そしてそれを裏打ちする強固な実行力こそが、持続的な成長と利益を生み出す鍵であることを示しています。
この成功モデルは、日本の小売業界にとっても示唆に富んでいます。デジタル化の進展と消費行動の変化が加速する中で、いかにして無駄を省き、効率を最大化し、顧客にとって真に価値ある体験を提供できるか。盒馬のケースは、「成長と利益」という二つの目標を両立させるための戦略的なアプローチの重要性を改めて浮き彫りにしています。
元記事: pcd
Photo by Helena Lopes on Pexels












