アフリカ市場で圧倒的な存在感を放ち、「アフリカの王」と称される中国のスマートフォンメーカー、伝音ホールディングス(Transsion Holdings)。その伝音が、業績低迷と市場シェアの失速に直面する中、香港証券取引所への新規株式公開(IPO)を申請しました。潤沢なキャッシュを持つ一方で「語るべきストーリーが不足している」と指摘される今回のIPOは、単なる資金調達を超え、IoTやエッジAIといった新分野への事業転換を賭けた重要な一手と見られています。同社の現状と、その挑戦の裏側にある戦略に迫ります。
「アフリカの王」伝音、苦境の中での香港IPO申請
中国のスマートフォン大手である伝音ホールディングスが12月初旬、香港証券取引所へIPO申請書類を提出しました。これは同社にとって、株価が低迷する中で再び資本市場に挑戦する動きです。しかし、現状のファンダメンタルズを見ると、業績の低迷、市場シェアの失速、そして株価の低迷が顕著であり、この時期のIPO挑戦は極めて困難なタイミングであると言わざるを得ません。
業績低迷と市場の逆風
伝音は年間売上が約700億元、年間純利益が約56億元に迫る巨大企業ですが、近年その成長スピードは鈍化しています。2025年上半期には、売上高が前年同期比で15.9%減の290.8億元、純利益に至っては56.6%減の12.4億元と大幅な落ち込みを見せました。
この業績悪化の背景には、同社が成長の柱としてきたアフリカ市場での激しい競争があります。XiaomiやHonorといった競合他社がアフリカ市場への浸食を強めており、伝音の優位性が揺らぎ始めています。さらに、グローバル展開も順調とは言えず、アジア太平洋、中東、中南米などの地域における携帯電話収入は、2025年上半期に軒並み20%以上の減少を記録しています。
市場もこの状況を厳しく評価しており、伝音の株価は今年に入り累積で25%以上下落。ピーク時からは約4割も値下がりしています。これは、一時的に業績が変動する以上に、企業のファンダメンタルズに変化が生じていることを示唆しています。
ビジネスモデル転換の遅れと投資家の離反
伝音にとって、短期的な業績変動以上に重要な問題は、ビジネスモデルの転換に成功していない点です。過去6年間、同社は「アフリカ版Xiaomi」と目され、「ハードウェアで顧客を惹きつけ、エコシステムで収益化する」というモデルを模索してきました。スマートフォンから家電製品、デジタルアクセサリーへと事業を拡大し、多数のモバイルインターネットアプリケーションを育成してきたのはそのためです。しかし、今日に至るまで、その収益の約9割は携帯電話販売に依存しており、インターネットサービスからの収益は2025年上半期でわずか1.4%に留まっています。
IoT・エッジAIへの活路とIPOの真意
このような状況下での今回の香港IPOは、単なる資金調達以上の意味を持ちます。伝音は市場に対し、携帯電話販売以外の「新たな生き残り方」を証明する必要があります。それがIoT(モノのインターネット)やエッジAI、あるいはまだ検証されていない新しいビジネスモデルなのかもしれません。
資本市場の反応は率直です。中国の金融情報プラットフォーム「同花順」のデータによると、2025年第3四半期だけで、伝音を保有する機関投資家の数は前期末の941社から153社へと激減し、1億株以上が売却されました。これは、新興市場でかつては飛ぶ鳥を落とす勢いで世界第3位の出荷量を誇った巨人に対し、市場が突如として懐疑的な見方を示すようになったことを意味します。
この問題の根源は、伝音のビジネス構造が極めてハードウェアに依存し、かつアフリカという単一市場に過度に集中している点にあります。「ハードウェア中心+アフリカ重視」という構造は、市場が急速に成長している時期には強みでしたが、市場が飽和期に入ると同時にリスクへと転じました。2025年上半期には、携帯電話からの収益減少幅(-18.4%)が総売上減少幅(-15.9%)よりも大きく、全体業績を押し下げる主因となっています。一方、期待されたインターネットサービスはわずか3.5%の成長に留まり、その規模の小ささからハードウェア部門の落ち込みを相殺するには至っていません。
まとめ:伝音の未来と日本市場への示唆
伝音ホールディングスが直面しているのは、単なる業績不振ではなく、ビジネスモデルの根本的な転換が迫られているという構造的な課題です。今回の香港IPOは、IoTやエッジAIといった新たな成長戦略を市場に提示し、投資家からの信頼を取り戻すための時間稼ぎ、そして戦略転換のチャンスと捉えられます。アフリカ市場で培ったブランド力と流通網を活かしつつ、いかにハードウェア以外の収益源を確立できるかが、同社の今後の命運を左右するでしょう。
日本市場の視点から見ると、これは特定地域で成功を収めた企業が、グローバル競争の激化や市場の変化にどう対応していくかを示す興味深い事例です。特に、新興市場でのプレゼンス拡大を目指す日本企業や、ハードウェアからサービスへの転換を模索する企業にとって、伝音の挑戦は多くの示唆を与えるものとなるでしょう。
元記事: pedaily
Photo by Laura James on Pexels












