中国の巨大な電力消費を支える「新エネルギー大省」山東省で、近年、太陽光発電の導入が急速に進んでいます。しかし、その成長が「多すぎる」と問題視され、電力システムに大きなひずみをもたらしていることが明らかになりました。特に注目されるのは、発電した電力の価値がゼロを下回る「負の電力量料金(マイナス価格)」の頻発です。この異例の事態はなぜ起き、山東省はどのような対策を講じているのでしょうか。日本にも通じる再生可能エネルギー導入の課題を探ります。
中国・山東省が直面する太陽光発電「多すぎ」問題
「新エネルギー大省」の悩み:過剰導入が招く「負の電力量料金」
中国で再生可能エネルギーの導入をリードする山東省は、太陽光発電の設備容量で全国首位に立ち、風力発電も上位にランクインする「新エネルギー大省」です。2025年4月末時点で、新エネルギー・再生可能エネルギーの設備容量は全体の51%を超え、そのうち太陽光発電が8,514万kWと圧倒的な割合を占めています。
しかし、この急速な導入が電力システムの構造転換に追いつかず、深刻な問題を引き起こしています。最も顕著なのが、電力市場における「負の電力量料金(マイナス価格)」の頻発です。2025年5月1日には、山東省の電力市場で22時間にわたり連続してマイナス価格が発生し、日中の平均価格が-13.02元/MWh(約-0.26円/kWh)となる事態にまで発展しました。これは、発電された電力が需要を大幅に上回り、電力会社が消費者に料金を支払ってでも電力を使ってもらわないと、送電網が過負荷になるためです。
負の電力量料金は、中国の一部地域や欧州でも見られますが、山東省のその頻度と深刻度は世界でも類を見ません。2024年、山東省では年間973時間ものマイナス価格が発生しました。これは、再生可能エネルギー先進国であるドイツの年間468時間と比べても、その約2倍に達します。ドイツでは、新エネルギーが設備容量の65.5%を占め、発電量の約50%を賄っています。一方、山東省では新エネルギーが設備容量の約50%を占めるにもかかわらず、発電量に占める割合はわずか13%程度に留まっています。設備容量はドイツに迫る勢いでありながら、実際の発電寄与度が低い上に、マイナス価格の発生時間はドイツの2倍という、深刻なミスマッチが生じているのです。
こうした状況を受け、山東省発展改革委員会は2025年8月8日、新たな電力価格メカニズムに関する細則を発表しました。特に注目されるのは、新規の分散型太陽光発電プロジェクトに対する規制強化です。2025年6月以降に稼働する一般商工業・大規模商工業向けの分散型太陽光発電は、自家消費分を除く売電量をすべて電力市場取引に委ね、これまでの基準価格制度(固定価格買取制度に近い仕組み)の対象外としました。これは、他の多くの省が既存プロジェクトに対し100%近い比率で基準価格を適用しているのに対し、山東省の規制が最も厳しいことを示しています。
「両面作戦」で太陽光発電を調整:価格と設置量のコントロール
山東省は、太陽光発電の過剰導入問題に早くから着手しており、「価格」と「設置量」の両面から調整を図る「両面作戦」を展開しています。
価格政策による調整:深谷電価の導入
2024年5月には、分散型太陽光発電の自家消費を奨励し、余剰電力の売電価格を見直す方針を打ち出しました。特に、新規の大規模分散型太陽光発電プロジェクトの余剰電力売電価格は、集中型電力市場の価格に連動させることで、従来の石炭火力発電の基準価格よりも大幅に引き下げる方針を示しています。
さらに、2025年4月には、太陽光発電の発電量が最大となる午前11時から午後2時の時間帯に、電力価格を従来の最低価格からさらに5分(0.05元)引き下げ、0.2元/kWh(約4円/kWh)の「深谷電価(超低価格)」を設定する「五段階式時間帯別電価改革」を発表しました。これにより、太陽光発電の出力が過剰になる時間帯の電力需要を喚起し、需給バランスの改善を目指します。
設置量調整:風力発電との比率見直し
価格面での調整に加え、山東省は太陽光発電の設置量そのものにも制限を設けています。2025年5月15日には、太陽光発電と風力発電の総設備容量比率を、現在の3.2対1から年末までに2.6対1へ最適化する目標を発表しました。これは、太陽光発電の昼間のピークと夜間の不足という出力特性を補完するため、風力発電とのバランスを改善し、電力系統の安定化を図る明確な意図があることを示しています。
電力システム全体の効率改善と石炭火力への依存脱却
太陽光発電の過剰導入は、エネルギー転換の過程で乗り越えるべき重要な障壁です。この根本的な解決には、単なる太陽光発電の抑制だけでなく、電力システム全体の効率向上と、石炭火力発電への依存脱却というトップダウンの設計と包括的なソリューションが不可欠です。
新エネルギー利用率向上と石炭火力依存の低減
山東省の統計によると、2024年末時点での非化石エネルギー発電設備容量は全体の48.3%を占める一方で、実際の発電量に占める割合はわずか27.5%に留まっています。これに対し、石炭火力発電は設備容量の51.7%で、発電量の72.5%を賄っています。全国平均と比較しても、山東省は非化石エネルギーの発電量寄与度が低く、石炭火力への依存が過度に高い状況です。
「第14次五カ年計画」では石炭火力発電の設備容量を1億kW以下に削減する目標が掲げられていますが、2025年2月末時点でも約1.23億kWと増加傾向にあります。山東省が真に新エネルギー大省となるためには、新エネルギーの利用率を大幅に向上させ、同時に石炭火力への依存を減らすことが喫緊の課題です。
電力システム全体の効率向上
山東省の電力システムは、その規模に比べて効率が低いという問題も抱えています。2024年末時点で総発電設備容量2.32億kW、年間発電量6,055.9億kWhに対し、隣接する江蘇省は総発電設備容量が2.04億kWと山東省よりも少ないにもかかわらず、年間発電量は6,330.7億kWhと、山東省を約300億kWhも上回っています。これは、設備容量が国内トップクラスでありながらも、システム全体のアンバランスと非効率性が露呈していることを示しています。
まとめ:日本への示唆と再生可能エネルギーの未来
中国・山東省が直面している太陽光発電の「多すぎ」問題は、単なる一地方の課題ではなく、再生可能エネルギーの導入を加速させる世界中の国々が直面し得る共通の課題です。過剰な設備導入は、系統の不安定化や経済的損失をもたらし、結果として再生可能エネルギーの「質の高い発展」を阻害する可能性があります。
日本においても、太陽光発電の普及が進む中で、出力抑制の問題や電力系統の柔軟性確保が議論されています。山東省の事例は、単に再生可能エネルギーの設備を増やすだけでなく、それをいかに効率的に利用し、既存の電力システム全体と調和させるかという、より複雑な課題の重要性を示唆しています。電力貯蔵技術の導入、スマートグリッドの構築、そして需給バランスを柔軟に調整できる市場メカニズムの整備など、多角的なアプローチによる電力システム全体の最適化が、持続可能なエネルギー転換の鍵となるでしょう。
「設備容量」をいかに「実際の発電量」に転換し、電力系統全体のバランスを保つか。山東省の挑戦は、私たちにとっても再生可能エネルギーの未来を考える上で重要な教訓となるはずです。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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