人気サバイバルホラーゲームシリーズ『Dying Light』の最新作『Dying Light: The Beast』(以下、『The Beast』)が、従来のシリーズから大きく舵を切り、大胆な「反向実験」に挑みました。本年初頭にシリーズ10周年を迎え、開発元Techlandが累計プレイヤー数4500万人突破を発表したばかりの『Dying Light』。9月19日にリリースされた『The Beast』は、ヨーロッパの隠れた楽園「ビーバーバレー」を舞台に、主人公クレーンが新たな敵「男爵」のラボから覚醒し、“野性”の力で復讐を果たす物語が描かれます。「The Beast(困獣)」とは、他ならぬクレーン自身のこと。シリーズの象徴であったオープンワールドと自由なパルクールをほぼ犠牲にした本作は、果たしてどのような進化を遂げたのでしょうか?
シリーズの常識を覆す「反向実験」とは
『The Beast』は、前作『Dying Light 2』とは異なる方向性を持つ、勇敢かつ大胆な実験作です。私が本作をプレイして最初に抱いたのは、これまでの『Dying Light』シリーズから逸脱した、しかしどこか安堵感に包まれるような感覚でした。本作は、これまでのシリーズと比較して「小さく、しかし精巧」なデザインが特徴です。
最適化されたマップと没入感
マップ規模は前作よりもコンパクトになり、視界の端まで見渡せるほど。メインストーリーのプレイ時間も約20時間に抑えられています。しかし、この「小ささ」は決してネガティブな要素ではありません。前作のような「クエストマーカーの消化」といった作業感が大幅に抑制され、プレイヤーはより没入感のある体験に集中できるよう設計されています。
マップ内の安全地帯や暗所といったアイコンは、能動的に探索することで初めて発見でき、ファストトラベルも提供されません。これにより、プレイヤーは文字通り“自分の足で”終末世界を探索する醍醐味を味わえます。『The Beast』は、優れた音響デザインとキャラクターアニメーションを継承し、前作以上に向上したゾンビの描写と、まさに「手応えのある」打撃感を実現しています。特に後期に入手できる戦刀は、ゾンビを切り裂く際の音響とアクションの停止が絶妙に絡み合い、素早い武器を好むプレイヤーにはたまらない爽快感をもたらします。
黄みがかったフィルターが描く終末世界
ゲーム全体の画面スタイルも大きく変化しました。ビーバーバレーに足を踏み入れた際、遠景に広がる雪山の油絵のような表現は、『ウィッチャー3 ワイルドハント』のDLC「血塗られた美酒」のトゥサン地方を彷彿とさせます。ビーバーバレーはより暗い色調で描かれていますが、初代のような陰鬱さとはまた異なります。全体として、『The Beast』の画面はプレイヤーの視界に淡い黄色のフィルターがかかったような、夢幻的でどこか懐かしいレトロな質感を持っています。
「真」を追求した新たなアクションと探索
前作から飛び出し、『The Beast』が『Dying Light』シリーズにもたらした革新は、まさに「真実味」に集約されていると言えるでしょう。本作のアクション体験は、「アサシン クリード エツィオ サーガ」を思わせます。
高層ビルよりも垂直の壁
高低差のある都市部のエリアは極めて少なく、プレイヤーは独立した大規模な建築物を探索することが多くなります。高層ビルを走り抜ける「パルクール」よりも、窓を乗り越えたり、穴をくぐったりする「クライミング」の機会が圧倒的に増えました。それに伴い、『The Beast』のクライミング要素は「弱いヒント」に従い、掴めるポイントがペンキで強調されることはほとんどありません。プレイヤーは建築物の構造を注意深く観察し、現実の常識に基づいてルートを探す必要があります。広大な視界を失ったことで、垂直方向の建築物におけるルート計画は、反応速度以上に重要となりました。
『The Beast』のクライミング判定は非常に厳密で、没入感を高めます。掴むポイントに到達するたびに、クレーンは一瞬立ち止まり、リアルな音響を伴って再び登り始めます。この現実の物理法則に則ったデザインは見事です。特筆すべきは、とあるタワークライムミッション中、ゲームのメインテーマ曲が流れ出す場面です。塔にぶら下がり、一歩一歩高みを目指すクレーン。ついに頂上にたどり着き、大きく息を吸い込み、遠くの夕日を見つめる姿には、強烈な終末感が漂います。
残されたパルクールの片鱗と、進化した恐怖
高層ビル間のパルクールの比重は減ったものの、『The Beast』には依然として魅力的でリアルなパルクールアクションが健在であり、細部にこだわりが見られます。キャラクターのスキルが上がれば、パルクールは移動速度を加速させ、移動をより便利にします。夜が訪れたり、ストーリー上の重要な展開が起こると、アドレナリンが噴出するパルクールは、初代でナイトウォーカーに追いかけられた経験を想起させます。本作のナイトウォーカーはより強力になり、集団で行動する傾向があるため、少しでも油断すれば一撃で命を落とすでしょう。
高密度な探索と環境ストーリーテリング
探索体験の面では、『The Beast』は『Metro Exodus』を思わせる部分があります。オープンワールドの規模は小さいものの、その内容は非常に高密度です。ファストトラベルがないため、プレイヤーは文字通り一歩一歩、探索し、発見していくことになります。家屋の内外、大通りや路地には、数多くの環境ストーリーテリングが凝らされています。メモ書きの残された遺体や、様々な雑物が巧みに配置されており、細部から終末世界の「混乱」を読み解くことができます。
また、初代のDLC「The Following」のように乗り物システムも導入されていますが、実際に車を使う機会は多くありません。操作はリアルさを重視したためか、やや重く感じられます。ゾンビを車で轢き倒すのは爽快ですが、マップの大通りは基本的に屋外にあり、車両は極めて脆く、加えて様々な障害物の存在があるため、乗り物システムの存在感は相対的に薄いと言えるでしょう。多くの場合、ゲームはプレイヤーにパルクールを駆使してゾンビを避けることを推奨しています。
初代を思わせる明暗表現とダンジョン探索
『The Beast』の環境の雰囲気は、初代と同様に明るい場所は非常に明るく、暗い場所は非常に暗いです。暗所の探索はより伝統的なダンジョンに近く、真っ暗な場所では常に懐中電灯を点けて探索する必要があり、多くの「ジャンプスケア」も用意されています。回収できるアイテムも豊富ですが、探索のペースはかなりゆっくりです。プレイヤーは常に周囲の抑制的な環境にどんなモンスターが潜んでいるかに注意を払い、資源収集中に突然のゾンビの大群に襲われないよう気を配る必要があるでしょう。
『The Beast』には「壊れた配電盤に新しいケーブルを繋ぐ」といったパズル要素も多く存在しますが、そのヒントはゲームのシーンに高度に溶け込んでいます。ルートを探すパズルも、現実的な常識で解決できるものがほとんどです。例えば、ケーブルが短すぎると感じた場合、部屋の隅に開閉可能な通気口が隠されているのをしばしば見つけることができます。ただし、「常識でルートを探す」という達成感と没入感は素晴らしい一方で、開発チームのデザインにおける未熟さが見て取れる場面もあります。例えば、メインクエストのある場面では巨大な建物に入ることを求められますが、入口は建物の端にある小さな開口部一つだけ。プレイヤーが角を間違えたり、「どこかに入口があるはず」という自身の常識に基づいてルートを探したりすると、進行不能になりイライラさせられることもあるでしょう。
「克制」が生む緊張感と戦略的な戦闘
『The Beast』をプレイして私が感じたのは、「ゆっくり」としたペースでした。この「ゆっくりさ」は主に資源管理に現れています。
希少な資源とリアルなサイクル
ゲーム内で得られる資源は決して豊富ではありません。かなりの割合のツールは、繰り返し入手する必要がある「消耗品」です。例えば、頻繁な修理が必要な近接武器、燃えやすく爆発しやすい車両、持続時間が極めて短い火炎放射器、弾薬が希少な銃器などです。内容が密度の高いエリアを探索し、大量のゾンビを倒した後、プレイヤーが通常行うのは、武器の修理やより多くの消耗品の製作です。これにより、次の探索体験をスムーズに進めることができます。このように繰り返し資源を補充する行動は、拾ったジャンク品がほとんど無駄にならず、同時に全体のプレイ体験をよりリアルで、ゆったりとしたものにしています。
簡素化された成長システムと「野性」の力
比較すると、『The Beast』のシステムは非常に「簡素化」されています。Techlandがゲームプレイを大幅に簡略化したことが見て取れます。最も分かりやすいのは、二択の機会すら少ないキャラクターの短いスキルツリーと、メインストーリーの進行に合わせて線形にアンロックされる「野性之力(Beast Power)」の擬似スキルツリーです。キャラクターのスキル数は多くありませんが、パルクール中にゾンビを飛び越えたり、車両の耐久性を上げたり、パルクールアクション後に加速したりするなど、実用的なスキルが多く、プレイヤーにはスムーズな成長ラインが提供されます。
『The Beast』の大きな宣伝ポイントの一つは「爽快な野性戦闘」でしたが、実際にプレイヤーが「野性之力」を自在にコントロールできるようになるのは、メインストーリーの中盤以降であり、しかもその消費速度は非常に速いです。しかし、発動時の戦闘は確かに爽快です。この「爽快さ」は主に敵全体の数値変更に由来しています。本作では敵の体力全般が上昇しており、通常のゾンビを倒すには3、4回斬りつける必要があります。一般的に、プレイヤーが3体以上のゾンビと遭遇する戦闘では、かなりの生存プレッシャーに直面します。そこで「野性之力」を発動すれば、プレイヤーの耐性が強化され、ゾンビを倒す効率も向上するため、人型時と比較して、短時間の野性戦闘は確かに優れたポジティブフィードバックをもたらします。
ゾンビの大群を撃退した後、プレイヤーは機動性の低い人型に戻り、ゾンビと激戦を繰り広げます。この時の爽快感は、様々な武器を使ってゾンビの肉を血しぶきと共に飛び散らせる視覚的な快感へと変わり、プレイヤーに果敢に敵を倒し、再び野獣として「無双」するよう促します。中盤以降は、メインストーリーで銃撃戦のシーンも頻繁に登場します。
まとめ
『Dying Light: The Beast』は、これまでのシリーズが培ってきたオープンワールドやパルクールという核を、大胆にも再構築した実験的な作品です。より密度が高く、没入感に特化した探索と、緊張感あふれる戦闘体験は、シリーズに新たな地平を切り開く可能性を秘めています。賛否両論を呼ぶかもしれませんが、Techlandがこの作品で示唆した「Dying Light」の未来は、日本のゲーマーにとっても見逃せないものでしょう。ぜひ、この挑戦的なサバイバルアクションを体験し、あなた自身の「The Beast」を目覚めさせてみてください。
元記事: chuapp
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