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『南方見』の老兵:60歳男性の旅路と『星際拓荒』が描く夢

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中国のショート動画プラットフォームで、一人の高齢男性が突如として注目を集めています。彼の名は「君哥(ジュンガー)」。60歳に手が届く彼が発した「南方見!(南方で会おう!)」という言葉は、ゲーム『星際拓荒(Outer Wilds)』の楽曲『Travelers’ encore』と奇妙に結びつき、多くの人々の心を揺さぶりました。東北の田舎を後にし「南方」を目指した彼の旅は、夢と現実、そしてネット社会における自己表現の曖昧な境界線を浮き彫りにします。今回は、この心温まる、しかしどこか物悲しい一人の老兵の物語を深掘りしていきましょう。

「南方見」の老兵、君哥の登場

物語の主人公、君哥は中国の黒竜江省佳木斯市樺南県という東北の田舎に一人で暮らす60歳近い男性です。ある日、彼は清潔なポロシャツにベルトを締め、リュックサックを背負い、携帯電話に向かって力強く宣言しました。「行くぞ、出稼ぎに。南方で会おう!南方で、南方で会おう!」その背後にはきれいに片付けられた「炕(カン、中国東北部で見られる温かい寝台兼暖房設備)」があり、しばらく誰も戻ってこないことを示唆していました。しかし、彼は具体的に南方のどこへ行くのかは語らず、ただ「南方」とだけ告げたのです。

君哥は故郷に戻ってから、数年の間に約1万本ものショート動画を投稿するようになりました。時には1日に20本以上も更新し、そのほとんどはカメラに向かって独り言を言う内容です。彼は巨大な資本勢力に「コントロール」されていると信じていましたが、実際にはスマートフォンの機能を十分に理解していなかっただけでした。例えば、WeChat(微信)の友達推薦広告は「神秘的な勢力の浸透」であり、誤って押したカメラの反転は「盗撮監視」、消し忘れた自動更新は「口座から金が引き出される」と認識していたのです。これらの動画の多くは、話の途中で突然終わってしまうものばかりでしたが、その不完全さが視聴者の想像力をかき立てました。

そんな彼の動画の一つに、ゲーム『星際拓荒』の楽曲『Travelers’ encore』がBGMとして偶然選ばれたとき、彼の旅は突然、ドン・キホーテのような悲壮感とロマン主義的な色彩を帯びることになります。東北の人々が抱く「南方」への幻想と、唐突に途切れる動画が、視聴者に無限の想像空間を与えたのです。

『星際拓荒』が描く終焉と始まり

『Travelers’ encore』が収録されているゲーム『星際拓荒(Outer Wilds)』は、探索、好奇心、そして「終焉の受容」をテーマにした作品です。プレイヤーは宇宙飛行士となり、22分で太陽が爆発し全てがリセットされる太陽系を何度も探検します。このループの中で、滅亡した「ノマイ人」と呼ばれる種族が残した物語を解き明かしていくのです。それは孤独な探索と世代間の継承を描いた物語であり、『Travelers’ encore』は宇宙の終焉を前に、宇宙に散らばった旅の仲間たちが最後に合奏する曲です。この曲は、終点を受け入れる際の坦然とした心境と、すべてを解き放つような安堵を表しています。

君哥の「南方見」という旅もまた、最初はこうしたゲームが持つロマンや、人生の終盤における新たな挑戦といった色彩を帯びて受け止められました。彼の素朴な表情と力強い言葉は、多くの人々に自身の「コンフォートゾーンからの脱却」や「新たな一歩を踏み出す勇気」を投影させたのです。

理想と現実の間で:君哥の「南方見」

しかし、「南方見」というロマンチックなイメージの裏には、君哥自身の現実的でやや混乱した目的がありました。彼の旅の第一目的地は長春。そこでは、彼が一方的に思いを寄せる女性ストリーマーに会うため、「嫁さん、長春で会おう!」と呼びかけますが、結局誰にも会えなかった可能性が高いとされています。第二目的地は北京。ここでは多くのファンに囲まれ、一時の「有名人」気分を味わいます。しかし、彼の真の目的は、動画アカウントの凍結を解除してもらうため、ByteDance(バイトダンス)の本社を訪れることでした。そして最後の目的地が、正真正銘の「南方」である上海です。

上海では「上海は本当に大きいな!」と感嘆の声を漏らしますが、1日に200~300元(約4,000円~6,000円)にもなる滞在費に耐えられず、彼は急遽東北へと戻ることを余儀なくされました。旅を終え、樺南県の古い家に戻った君哥は、再び「誰かにコントロールされている」という不満や、「嫁さん探し」の再開といった以前の生活に戻ります。彼が有名になったことで、過去の女性への嫌がらせや、故郷の家族を消費するような行動までが明るみに出ました。

しかし、これらの「黒歴史」は、多くの視聴者にとってさほど重要ではなかったのかもしれません。視聴者が本当に求めていたのは君哥自身ではなく、「南方見」という言葉に投影された「現状からの脱却」や「快適な場所から飛び出す積極的な勇気」という理想のイメージだったのです。そして君哥自身は、そうした崇高なイメージとはかけ離れた現実を生きていた可能性が高いと言えます。

旅の終わりに、君哥は「『南方見』は俺の君哥の特許だ、黒竜江省佳木斯市樺南県銅山鎮土龍山の俺本人、田舎の老いぼれ、61歳で文化もねぇ、南方見!」と宣言する動画を投稿します。しかし、その「見」という言葉が言い終わる前に、動画は再び唐突に15秒で途切れてしまうのでした。この一連の物語は、ショート動画という手軽なプラットフォームで、一人の人間の個人的な物語がどのように社会的な意味を持ち、人々の心に響くのかを鮮やかに示しています。

まとめ

君哥の「南方見」の物語は、インターネットが発達した現代社会において、個人のささやかな言動がどれほど大きな共感を呼び、多様な解釈を生むかを象徴しています。彼の旅は、一見すると無計画で混乱したものでしたが、そこに『星際拓荒』のゲーム音楽が加わることで、多くの人々が自身の内なる「旅立ち」や「新たな挑戦」への憧れを重ね合わせました。

彼の動画が突然中断される構成は、ストーリーを完結させず、視聴者に無限の想像の余地を与えるという点で、意図せずして芸術的な効果を生み出しました。これは、日本のブログやSNSでも見られる「共感マーケティング」や「物語消費」の新たな形と言えるでしょう。君哥の物語は、現実とネットの境界線が曖昧になる中で、人々が何を求め、どのように自己を投影するのかという、現代社会における普遍的なテーマを私たちに問いかけているのです。

元記事: chuapp

Photo by Mikhail Nilov on Pexels

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