中国科学院深圳先進技術研究院の研究チームが、脳-コンピューターインターフェース(BCI)技術に革命をもたらす画期的な電極を開発しました。その名も「NeuroWorm(神経ミミズ)」。従来の電極が抱えていた「一度埋め込むと動かせない」「長期使用で信号が劣化する」といった課題を克服し、体内を自由に移動して神経信号を動的に記録できる、まさにSFのようなデバイスです。この「動く電極」は、脳-機械インターフェースの臨床応用を大きく加速させる可能性を秘めており、すでに国際的な学術誌「Nature」でその成果が発表され、世界中から注目を集めています。
脳-コンピューターインターフェースの進化を阻む壁
脳-コンピューターインターフェース(BCI)技術は、人間の脳と外部機器を直接つなぐことで、身体機能の回復や拡張、さらにはコミュニケーションの新たな可能性を開く、未来のテクノロジーとして期待されています。この技術の中核を担うのが、生体神経システムと電子デバイスを接続する「電極」です。その性能が、BCIシステムの機能限界を直接決定すると言っても過言ではありません。
しかし、これまでの埋め込み型電極には大きな課題がありました。従来の電極は「静的」な設計のため、一度体内に埋め込むと位置を柔軟に調整することができません。さらに、長期的に使用すると、体内の免疫反応によって電極周囲に線維被膜が形成され、信号が劣化してしまうことが頻繁に起こっていました。これが、BCI技術が臨床応用へと進む上での主要なボトルネックとなっていたのです。
「神経ミミズ(NeuroWorm)」とは?画期的な「動的電極」
革新的な「動的電極」の誕生
こうした技術的な壁を打ち破ったのが、中国科学院深圳先進技術研究院の研究チームです。彼らが開発した「NeuroWorm(神経ミミズ)」は、その名の通り、まるで生物のように体内を「動く」ことができる、世界初の動的制御可能な神経繊維電極です。この研究成果は、国際的な学術誌『Nature』に掲載され、世界に衝撃を与えました。
NeuroWormは、直径わずか196マイクロメートルという人間の髪の毛とほぼ同じ細さの繊維状電極の中に、60もの独立した信号収集チャネルを集積しています。伸縮性のある柔軟な素材でできており、その機械的な柔軟性を保ちつつ、生体電気信号を高精度で収集することが可能です。
体内を自由に動き、狙った神経を捉える
従来の電極の「静的」な限界を克服するため、研究チームは繊維状電極の先端に小型の磁気制御ユニットを組み込みました。これを高精度な磁場ナビゲーションシステムとリアルタイム画像追跡技術と組み合わせることで、NeuroWormは体内を自律的に移動し、目標となる神経領域に精密に位置決めできるようになりました。
動物実験では、磁場駆動の下でNeuroWormがまるで生物のミミズのように動物の体内を柔軟に泳ぎ回ることが実証されました。ウサギの頭蓋内で行われたテストでは、この電極が多領域の神経信号を動的にモニタリングし、実験のニーズに応じて監視対象を能動的に切り替えることに成功。これにより、従来の埋め込み型電極が抱えていた「一度埋め込んだら一生固定」という制限を根本から変え、BCI技術に新たな研究パラダイムを切り開きました。
長期安定性と高い生体適合性を実現
NeuroWormのもう一つの大きな利点は、その優れた生体適合性と長期的な安定性です。ラットの脚部筋肉に43週間(約10ヶ月)埋め込んでテストした結果、電極は筋肉の電気信号を安定して記録し続けました。さらに、13ヶ月後でも周囲組織に形成された線維被膜層の平均厚さは23マイクロメートル未満と非常に薄く、細胞死率も正常な組織と有意な差は見られませんでした。この結果は、動的電極がスマートな制御を実現しつつ、体内の免疫拒絶反応を効果的に低減できることを示しており、長期的な臨床応用への強固な基盤を築くものです。
脳-機械インターフェースの未来を拓く「能動的インタラクション」
この画期的な研究は、脳-コンピューターインターフェース技術の多様な応用分野に技術的支援を提供します。NeuroWormのインテリジェントな応答特性は、外部骨格制御システム、神経リハビリテーション機器、そして高度なヒューマンマシンインターフェースといった分野で幅広い展望を持っています。
例えば、運動機能再建の分野では、NeuroWormが筋肉の活動状態をリアルタイムで追跡し、精密なリハビリ治療のためのデータを提供できます。また、スマート義肢の制御においては、神経信号の動的な監視がヒューマンマシン協調効率を大幅に向上させるでしょう。
研究チームは、NeuroWormの開発が脳-コンピューターインターフェース電極を「受動的な記録」から「能動的なインタラクション」へと進化させる画期的な一歩であると指摘しています。現在の成果はあくまで初期段階の突破口であり、今後は生体感知能力を備えた「アクティブ」な電極の開発に焦点を当て、材料科学と神経科学の深い融合を通じて、より生理学的特性に適合したスマートインターフェースシステムの構築を目指すとのことです。この絶え間ない技術革新は、脳-コンピューターインターフェースが研究室から臨床応用へと加速的に移行する推進力となるでしょう。
元記事: pcd
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