アマゾンの大ヒットドラマ「フォールアウト」をご覧になった方なら、作中で度々鋭いコメントを寄せている“劇評家”の存在を覚えているかもしれません。実は彼こそが、伝説的ゲームデザイナー、クリス・アヴィロン氏その人です。数々の名作RPGを手がけ、特に『フォールアウト2』やカルト的人気を誇る『異域鎮魂曲』(Planescape: Torment)の生みの親として知られる彼。今回は、中国語圏でも共感を呼んだという彼のゲーム創作哲学に迫ります。彼の成功の秘訣、それは「すべてはプレイヤーのため」という、シンプルながら奥深い信念にありました。
伝説のゲームデザイナー、クリス・アヴィロンの哲学
クリス・アヴィロン氏がそのキャリアを通じて手がけてきた作品の数々は、まさにRPGの歴史を彩る輝かしいタイトルばかりです。『フォールアウト2』に始まり、『異域鎮魂曲』、『アイスウィンド・デール』、『ネヴァーウィンター・ナイツ2』、『フォールアウト: ニューベガス』、『ディヴィニティ: オリジナル・シン2』、『パスファインダー: キングメーカー』など、彼の名前は常に革新的なストーリーテテリングと奥深いゲームプレイと結びついてきました。
「どうやってこの業界に入ったのですか?」──クリエイターなら誰もが一度は聞かれるこの質問に対し、アヴィロン氏は自身の成功の鍵が、長年培ってきたある重要な経験にあると語ります。それは非常にシンプルでありながら、実践するのは難しいもの。「すべてはプレイヤーのため」という思想です。
アヴィロン氏は、プレイヤーという存在を「自私的なものだ」と看破しています。そして、「プレイヤーを中心にゲーム体験をデザインすればするほど、結果は良くなる」と続けます。彼の代表作の一つである『異域鎮魂曲』は、この哲学を体現した好例です。このゲームでは、文字通りプレイヤーの行動や選択が、物語のほぼすべてと密接に絡み合っています。真に成功するゲームとは、プレイヤーが心から楽しめるものでなければならない。そして「プレイヤーの自己中心的な喜びを満たすこと」こそが、ゲームデザインの基本法則の一つだと彼は語ります。
D&Dから始まった物語とプログラミングの挑戦
アヴィロン氏がこの「プレイヤーファースト」の思想を体得したのは、彼がまだ有名デザイナーになるずっと前のことでした。彼が初めて仮想世界に魅了されたのは、電子ゲームではなく、紙と鉛筆を使ったテーブルトークRPG(TRPG)『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』でした。9歳でD&Dに出会った彼は、「ルールのあるおままごとのようだ」と感じ、その自由な想像力と、あえて設けられた制約がゲームをより面白くすることに気づきます。
当初、彼はプレイヤーとして物語を楽しみたいと思っていましたが、周りにゲームマスター(GM)をやりたがる人がいなかったため、しぶしブGMを引き受けることになります。しかし、やがて彼は「プレイヤーたちと共にインタラクティブな物語を紡ぐこと」に心から喜びを感じるようになります。こうして、世界を構築し、プレイヤー体験を導くことに情熱を見出したアヴィロン氏は、TRPG以外の領域にも目を向けます。
テキストアドベンチャーゲームに触発された彼は、プログラミングを学び始めます。しかし、「TRS-80というコンピューターで基本プログラミングを学ぼうとしたものの、出来上がったコードはバグだらけで散々だった」と振り返るように、プログラマーとしての才能はなかったようです。それでも、この経験は彼にゲームの根本的な仕組みを深く理解させるきっかけとなりました。
当時、今の時代のようにプログラミングフォーラムやオンライン学習が充実しているわけではありません。「80年代初頭には、プログラミングに関する情報はほとんどなく、書籍を読み漁ったり、図書館で借りたりして独学するしかなかった」とアヴィロン氏は語り、現代の学習環境との違いに言及します。
ゲーム業界に身を置いたのは、実は偶然だったと彼は明かします。「若い頃、ゲームデザイナーという職業はほとんど知られていませんでした。最初は紙ペンゲームのモジュールや、キャラクター設定集、漫画などを書きたいと考えていましたが、それだけでは生計を立てるのが難しいと気づき、副業としてゲーム業界を試してみたのです」と、意外な経緯を語っています。しかし、やがてコンピューターゲームのデザインやシナリオライティングに天職を見出し、GMの経験がゲームライターとしての彼の仕事の中心となっていきました。
プレイヤーを輝かせる「ハイライトの瞬間」と死の概念
アヴィロン氏が繰り返し強調するのが「プレイヤーを最優先する」という思想です。第一に、デザイナーはプレイヤーを理解し、彼らがなぜゲーム世界に没頭したいのか、どのような「力への幻想」を抱いているのかを知る必要があります。
第二に、電子ゲームでもTRPGでも、プレイヤーには「ハイライトの瞬間」が与えられるべきだとアヴィロン氏は考えます。これは、プレイヤーが世界の運命を左右するような英雄になれる機会のことです。ゲーム内に魅力的なキャラクターが多数登場し、プレイヤーが様々な役割を演じられるように促すことで、プレイヤーは自ら最も素晴らしい冒険譚を紡ぎ出すことができると彼は言います。
そして、このハイライトの瞬間には、プレイヤーが「自分自身の好きな方法で」到達できるようにすべきであり、GMやデザイナーが「最も便利だと考える方法」に限定すべきではないとアヴィロン氏は指摘します。「誰もがあなたと同じようにゲームをプレイするわけではない」と彼は語ります。GMの役割は、プレイヤーの遊び方を決めつけたり、特定のパターンに強制したりすることではありません。効率を重視してストーリーをあまり気にしないプレイヤーがいても問題なく、同時に、回り道をしたり、没入感を重視するロールプレイング好きのプレイヤーのために、十分なインタラクティブコンテンツを用意することも重要だといいます。
この原則は、電子ゲームのデザインにもそのまま適用されます。もしプレイヤーがキャラクターとの会話やストーリーをスキップしたいのであれば、そのプレイスタイルによって厳しいペナルティを受けるべきではありません。これは、1999年発売の『異域鎮魂曲』以来、アヴィロン氏がキャリアを通して一貫して守り続けている、彼のデザイン哲学の核となる部分の一つです。2017年に発売された『異域鎮魂曲:エンハンスド・エディション』でも、アヴィロン氏がスクリプトの再検討と修正に参加しています。
「死は始まり」という革新的なアイデア
1995年、Interplay社がウィザーズ・オブ・ザ・コースト社からD&Dのキャンペーン設定「プランゼスケープ」の電子ゲーム化権を獲得した際、クリエイティブなアイデアを求めてアヴィロン氏に面接を依頼しました。当時、アヴィロン氏はRPGのTRPG出版社でキャラクターや冒険の物語を書いていました。この面接で、アヴィロン氏は「死は始まりに過ぎない」というユニークなアイデアで面接官のマーク・オグリーン氏を魅了し、Interplay社への入社と、プロジェクトの副ディレクター就任を勝ち取ります。
このアイデアが生まれた背景には、ゲーム内で何度もセーブ&ロードを繰り返すことへの彼の倦怠感がありました。「それは時間の無駄だと感じていました」とアヴィロン氏は説明します。「だから、もしセーブ&ロードという中間プロセスをなくし、キャラクターが興味深い場所で、興味深い方法で自動的に復活できるようにすれば、ゲームの流れがよりスムーズになり、プレイヤーの冒険が突然中断されることもなくなるのではないかと考えたのです」。
もちろん、このアイデアはすんなりとは受け入れられませんでした。アヴィロン氏は語ります。「私の考えは完全に受け入れられたわけではありませんでした。プレイヤーは『セーブ&ロード』に慣れており、キャラクターが死亡すると落胆し、失敗したと感じるからです。当時は、伝統的なゲームルールとプレイヤーの習慣に挑戦していたと言えるでしょう」。
アヴィロン氏は、キャラクターの死を「失敗状態」ではなく「物語の要素」と捉えました。これは彼のデザイン哲学におけるもう一つの大きな柱であり、TRPGから得たインスピレーションでもあります。「何が起ころうとも、物語は続けなければならない」という考え方です。
「ダイスは自由に転がしましょう。そうすることで初めて、私たちはより素晴らしい物語を創造できるのです」とアヴィロン氏は言います。「最初は私にとって困難でした。特定のキャラクターやNPCを形作ったり、意図的にランダム性に抗ったり、物語やキャラクターのアークの整合性を保つために、プレイヤーキャラクターを生かしておこうと執着しすぎたからです……これは実は間違いでした。ダイスの結果を操作してプレイヤーキャラクターの死を防ぐと、プレイヤーが死を恐れなくなったり、決して死なないように見える敵を恐れなくなったりして、ゲームの物語のドラマ性が大きく損なわれ、最終的な勝利の達成感も薄れてしまうのです」。
『異域鎮魂曲』は、アヴィロン氏のキャリアにおける出世作となりました。この高評価RPGの発売後も、彼はプレイヤーのニーズをより良く満たす方法を探求し続けました。そして、ゲームの本格的な開発前にプレイヤーからのフィードバックを得ることが、プロジェクトチームにとって非常に有用であることに気づき、開発の初期段階から様々なプレイヤーと交流し、彼らが何を望んでいるのかを理解しようと努めています。
まとめ
クリス・アヴィロン氏のゲーム創作哲学は、「プレイヤーファースト」という一貫した思想に貫かれています。9歳でD&Dに出会い、GMとして物語を紡ぐ楽しさを知った彼の経験は、後の電子ゲームデザインに深く影響を与えました。特に『異域鎮魂曲』で具現化された「死を物語の要素とする」という革新的なアプローチや、プレイヤーの多様なプレイスタイルを尊重する姿勢は、多くのゲーマーに衝撃を与え、今日のRPGジャンルにも大きな足跡を残しています。
「プレイヤーは自私的である」という彼の洞察は、ともすれば作り手側の都合を優先しがちなゲーム開発において、常にプレイヤー視点に立つことの重要性を私たちに教えてくれます。彼の哲学は、技術が進化し、ゲームが多様化する現代においても色褪せることなく、より魅力的なゲーム体験を創造するための普遍的なヒントを与え続けていると言えるでしょう。
元記事: chuapp
Photo by Garrett Morrow on Pexels






