2025年のケルンゲームズコムで、RPGファンの注目を一身に集めた新作『Cralon』。ドイツのPithead Studioが開発する本作は、往年の名作『ゴシック』シリーズを生み出したPiranha Bytes(PB)の元開発者が手掛ける、待望の第一人称ダンジョン探索RPGです。PBの閉鎖という悲劇を乗り越え、彼らが受け継ぐ「ドイツRPGの魂」とは何か。その魅力と、新作に込められた熱い想いに迫ります。
往年の名作『ゴシック』シリーズを生んだPiranha Bytesの足跡
Pithead Studioという名前は、まだ多くの方にとって耳慣れないかもしれません。しかし、もしあなたがドイツのゲーム会社Piranha Bytes(以下、PB)をご存知であれば、その名は途端に特別な意味を持つでしょう。PBは、高自由度、ハードコア、そして荒削りながらも没入感あふれるオープンワールドRPGの制作で知られ、熱狂的なコアファン層を擁していました。
彼らが開発した「ゴシック」シリーズは、数多くのRPGに影響を与えています。例えば、ポーランドのCD Projektが手掛けた「ウィッチャー」シリーズも、「ゴシック」シリーズのRPG要素から多大なインスピレーションを受けており、多くのポーランド人プレイヤーにとって「ゴシック」は今なお不朽の傑作とされています。1997年にドイツのボーフムで設立されたPBは、そうした独自の哲学を持つ稀有なスタジオだったのです。
PBの魂を受け継ぐ夫婦開発者
Pithead Studioの共同創業者であるビヨルン・パンクラッツ氏とジェニー・パンクラッツ氏の夫婦は、まさにこのPBの元開発者です。ビヨルン氏は初代『ゴシック』からPBのゲーム開発に携わり、ジェニー氏は『ライズ オブ ザ タイタンズ』の最初の作品から開発に参加していました。
しかし、残念ながらPBは2024年に親会社からの資金援助が打ち切られ、その活動を停止しました。ですが、ビヨルン氏とジェニー氏はこの閉鎖後すぐにPithead Studioを設立。『Cralon』は、彼らが新たなスタジオで開発する最初の作品となります。彼らの存在は、PBの精神が途絶えることなく生き続けていることを示しているかのようです。
『Elex 2』と『エルデンリング』が語る“PBらしさ”と課題
PBのゲームを象徴する要素は、初代『ゴシック』から一貫して「自由」でした。広大な「鉱山渓谷」を舞台にした『ゴシック』、多くの島々を探索する『ライズ オブ ザ タイタンズ3:タイタンロード』、そして「Elex」シリーズのマガラン。PBは常に、プレイヤーに自由で「制限のない」探索を促してきたのです。
PBは「ゲーム内のすべてのコンテンツを手作業で制作する」という伝統を大切にしてきました。そのため、PBのゲームをプレイする中で、あなたは常に真の「没入型ロールプレイング」の驚きを発見できるでしょう。例えば、2001年の『ゴシック』では、町の大半のNPCが独自の身分と行動ルーティンを持っていました。プレイヤーは3つの異なる勢力に加わることもでき、その選択は単なる善悪ボタンを押すだけでなく、ゲーム体験全体を大きく変えるものでした。このような世界とアイデンティティの構築がもたらす驚きこそが、私が今でもPBのゲームを繰り返しプレイする主な理由であり、深く愛する「PBらしさ」なのです。
大作に埋もれた傑作と、開発規模の壁
しかし、PBのゲームは商業的な成功に恵まれないことも少なくありませんでした。PB閉鎖前の最後の作品であり、販売不振に終わった『Elex 2』を例に挙げましょう。2022年3月2日、世間が発売されたばかりの『エルデンリング』に夢中になる中、『Elex 2』はひっそりとリリースされました。
当時、この二つのゲームを交互にプレイする幸福な体験と深い感動を私は鮮明に覚えています。『Elex 2』は前作より難易度が下がったものの、序盤の「PBらしさ」は健在でした。ジェットパックで自由に飛び回れる要素や、5つの勢力に加入できる選択肢も追加され、序盤の冒険は非常に爽快でした。私は途中で中断していた『エルデンリング』を置いて、『Elex 2』の世界に没頭したほどです。
しかし、50時間かけてクリアした後に『Elex 2』が私に残したのは、爽快感ではなく、ある種の惜しさでした。5つの勢力のコンテンツ量は不均衡で、後半に差し掛かると、マップの約半分を占める雪原地域は、一部の拠点で受けられるクエストを除けば、ほとんどが代わり映えしない野生のモンスターで埋め尽くされていました。多くのクエストは中盤で完結し、仲間との友好度システムは形骸化しており、終盤のメインストーリーはひたすらモンスターを倒す作業と化していたのです。『Elex 2』の終盤では、探索の自由度は無限だったものの、探索へのモチベーションはほとんど失われていました。
その後、『エルデンリング』に戻り、2つのエンディングにたどり着きました。こちらも終盤のコンテンツにはやや疲弊する部分や、「糞モンス」と揶揄される敵が頻出したものの、『Elex 2』ほどの落差はありませんでした。後に知ったことですが、両作品とも数年かけて磨き上げられたにもかかわらず、『エルデンリング』の開発人員が200名を超えていたのに対し、PBは数十名規模の小規模チームでした。この規模の違いが、作品全体の完成度の差に繋がったのでしょう。また、『エルデンリング』終盤の「崩れゆくファルム・アズラ」や「聖樹の支え、エブレフェール」で感じた圧倒的な視覚的インパクトは、私を最後までプレイさせる最大の原動力でした。
一方、『Elex 2』は新しい異星文明を導入したにもかかわらず、グラフィックは時代遅れ感が否めず、多くの美術リソースやシーンが前作『Elex』の素材を流用していたのは非常に残念でした。この『Elex 2』の窮状は、2006年にPBが性急にリリースした『ゴシック3』が、同年発売の『The Elder Scrolls IV: Oblivion』に「あらゆる面で圧倒された」状況と酷似していたと言えるでしょう。
『Cralon』に息づく開発者の原点回帰
Pithead Studioと彼らの新作『Cralon』に話を戻しましょう。PBの公式チャンネルの司会を務めていたビヨルン氏とジェニー氏の二人の姿をPithead Studioの発表動画で見た時、私はPBプレイヤーとして「PBの行く末はどこへ」という心の重しがようやく降りた気がしました。私にとって、彼らこそが今やPBの一つの縮図であり、『Cralon』がケルンゲームズコムで示した内容は、まさにPBがゲーム開発を始めた頃の「初心」を体現しているからです。
『ゴシック』の開発は、実験的な作品『Finster』から生まれました。その『Finster』の着想源は、いわゆる「没入型シミュレーションゲーム」の祖である「ウルティマ アンダーワールド」シリーズにあります。『Cralon』のケルンでのインタビューで、ビヨルン氏は、『Cralon』のゲームコンセプトが「ウルティマ アンダーワールド」シリーズ、「シーフ」シリーズ、そして『Prey (2017)』といった数々の古典的な没入型シミュレーションゲームからインスピレーションを得ていると語りました。これは、『Finster』が追求した理念とほぼ一致していると言えるでしょう。
デモンストレーションの実際のプレイ映像を見る限り、ゲーム内のUIデザイン、ダンジョンの光影効果、テクスチャの質感などは決して最新鋭とは言えませんが、『Cralon』にはPBのゲームが持つ独特の「レトロ感」が息づいています。そして、『Cralon』で披露されたシームレスなダンジョン迷宮探索や、より爽快な第一人称戦闘体験は、私をこの上なく興奮させました。ビヨルン氏はまた、『Cralon』に大量の興味深い多分岐会話や、ブラックユーモアに満ちたドイツらしい物語を盛り込むことを強調しました。これらは、かつてのPBゲームの「味」として欠かせない要素です。
Pithead Studioは、PBの開発初心に立ち返り、この時代に、ハードコアで自由、そして探索に重きを置いた全く新しいドイツ式RPGを世に送り出すことを決意したのです。荒削りながらも独特の魅力を持つPBのゲームを深く理解し、愛しているからこそ、私は『Cralon』に大きな期待を抱かずにはいられません。高予算・低リスクのプロジェクトが市場を席巻する現代において、かつてのPB、そして現在のPithead Studioのような、不完全ながらも野心に満ちた挑戦自体が、極めて価値のある存在として輝いているのです。
まとめ
Piranha Bytesの閉鎖という悲劇を乗り越え、元開発者たちが立ち上げたPithead Studioの新作『Cralon』は、単なるゲームの新作発表以上の意味を持っています。それは、多くのファンに愛された「ドイツRPGの魂」が、新たな形で受け継がれ、さらに進化を遂げようとしていることの証です。
『Cralon』は、現代の洗練されたAAAタイトルとは一線を画す、あえて「レトロ感」や「荒削りさ」を維持しつつ、真の自由な探索と没入感を追求する、硬派なRPGとなるでしょう。この挑戦が、日本のゲーマー、特に往年のPC RPGや没入型シミュレーションゲームのファン、あるいはPB作品の独特な魅力に触れたことがあるプレイヤーに、どのような新たな感動をもたらすのか、その発表が今から待ち遠しいばかりです。
元記事: chuapp
Photo by David Skyrius on Pexels






