中国ゲーム業界のトップランナーであるmiHoYo(ミホヨ)が、2025年下半期に注目すべき二つの異なる動きを見せ、業界内外で大きな話題を呼んでいます。一つは、新作ゲーム『崩壊:因縁精灵』の開発チームで「2D美術(AI方向)」の求人を開始したこと。これは、その洗練されたアートスタイルで知られる同社にとって、AI技術の本格導入を示唆するもので、プレイヤーコミュニティに大きな波紋を広げています。もう一つは、新卒研修に中国のトップ大学出身者に並んで、専門学校生が参加していると判明したこと。学歴よりも実力を重視するmiHoYoの「唯才主義」を象徴する出来事として、多くの称賛を集めています。これら一見矛盾する二つの動向から、miHoYoが描くゲーム開発と人材戦略の未来像を探ります。
miHoYoが示した「二つの顔」:AI美術導入と異例の人材登用
「原神」のUGCプロジェクト「千星奇域」の順調なスタートや、「崩壊」シリーズの新作『崩壊:因縁精灵』のPV公開とテスト募集開始など、miHoYoは活発な動きを見せています。しかし、特に注目を集めたのは、中国の採用最盛期である「金九銀十」(9月と10月)に報じられた二つの人材関連ニュースでした。
賛否両論を呼ぶAI美術の採用:効率か、芸術か?
新作『崩壊:因縁精灵』の公式サイトに掲載された「2D美術(AI方向)」の求人情報は、瞬く間に世界中のSNSを駆け巡りました。美麗なグラフィックとキャラクターの魅力で知られるmiHoYoがAI美術を導入することに対し、多くのプレイヤーから賛否の声が上がったのです。
『崩壊:因縁精灵』は、「捉宠(ペット捕獲)+オートチェス」という独自のゲームプレイ、魅力的な「因縁精霊」のデザイン、そしてmiHoYoならではのハイクオリティな美術表現で、発表直後から数百万再生を記録。さらに、初の詳細なキャラクターカスタマイズ(キャラメイク)や着せ替えシステムを導入し、ソーシャル性の高い大規模ユーザー(DAU)ゲームへの探索を伺わせる意欲作です。現在、予約者数は382万人に達し、秘密裏のテストも開始されています。
miHoYoがAI技術に目を向けるのは、実は初めてではありません。共同創業者である蔡浩宇氏は、以前からAIGC(AI生成コンテンツ)がゲーム業界に構造的な変革をもたらすと予測し、将来的にグラフィック、ストーリー、さらにはキャラクターの会話までAIが手掛ける可能性に言及していました。これは賛否を呼んだものの、miHoYoが「テクノロジーオタク」を自称する企業としてのDNAと、技術トレンドへの鋭い洞察を反映しています。実際に『崩壊:スターレイル』のプロデューサーも、AIをキャラクターの行動管理や3Dモデリングの最適化に試用していることを明かしています。
しかし、海外のプレイヤーコミュニティでは、AI生成コンテンツが二次元ゲームの核となる価値を損なうのではないかという懸念が広がっています。Redditでは「二次元ゲームは本質的に『贅沢品』であり、プレイヤーはキャラクターに込められた物語や感情、アーティストの心血と才能に対価を払う」という意見が多く見られます。AIが美術制作に介入することは、「手抜き」や「コスト削減」と解釈され、芸術的価値を軽視していると受け取られかねません。特にキャラクターの魅力が商業モデルの根幹をなすガチャゲームにおいて、この感情は顕著です。人気ゲーム『ブルーアーカイブ』のプロジェクトディレクターも「キャラクター主導型ゲームのプレイヤーはAI生成コンテンツを好まず、個人的にも簡単なクリックで生成された画像には対価を払い難い」と述べています。
一方で、miHoYoの狙いも理解できます。『崩壊:因縁精灵』のような、継続的に大量の精霊、キャラクター、シーンを更新し続けるオンラインサービス型ゲームにとって、生産効率のプレッシャーは計り知れません。多様性は、これらのゲームの生命線です。初代『ポケットモンスター』が150体以上の精霊を擁していたことを考えると、現段階で66体以上が示唆されている『崩壊:因縁精灵』が、長期的にはさらに膨大な数の精霊を必要とすることは想像に難くありません。キャラクター一体一体の制作コストは異なりますが、『原神』が5年で約100体の操作可能キャラクターを生み出したことを踏まえると、精霊の生態、世界観、物語の創造を含め、『崩壊:因縁精灵』はmiHoYoの工業化された生産効率への挑戦となるでしょう。
こうした膨大なコンテンツ需要に対し、伝統的な人的資源に依存する生産モデルでは、コストが高く、市場の迅速な変化に対応するサイクルも困難です。この背景において、AIを補助ツールとして導入することは、工業化の論理に合致した選択と言えます。miHoYoの求人ページでは、このAI美術担当者の職責として「2D美術業務におけるAIツールの使用探索」「高品質かつスタイリッシュな美術コンテンツの出力への参加」「美術アセットのAI生産パイプラインの構築」が挙げられており、MidjourneyやStable Diffusionなどの主要なAIGCツールに精通していることが求められています。これは単なる「研究職」ではなく、実際の開発・生産パイプラインに深く関わる「実戦職」であることを示唆しています。
miHoYoがAIを導入する主な目的は、AIが最終的な美術成果物を直接生成することではなく、強力な補助ツールとして位置づけることにあると考えられます。例えば、プロジェクト初期段階でAIを活用して多様なスタイルや形態のコンセプトデザインを素早く生成し、美術チームがそこからインスピレーションを得ることで、試行錯誤のプロセスを大幅に加速し、初期段階の時間とコストを削減する。また、アイコン、UI要素、シンプルな背景テクスチャなど、比較的標準化された美術アセットはAIの補助で生産し、最も重要な人間アーティストを、キャラクターの立ち絵やキービジュアルデザインといった最も創造的な仕事に集中させる。このような「人間とAIの協働」モデルは、AIに大量の反復的・探索的な初期作業を任せ、最終的な「手作業による仕上げ」と品質管理は人間アーティストが担うという、芸術的品質の確保と生産性の両立を目指すmiHoYoの試みであると言えるでしょう。
しかし、ここで一つの疑問が浮上します。5,000人を超える大規模なチームと、業界でも名高いトップクラスの美術スタッフを擁するmiHoYoが、なぜ内部で関連人材を育成・配置転換せず、あえて社会人向けの求人としてこの「デリケートな」ポジションを公にしたのでしょうか。最も直接的な可能性としては、外部に存在するトップクラスのAI美術人材を広く募集する意図が考えられます。AIGC技術は日進月歩であり、AI描画ツールの深い理解や革新的な応用は、活発なオープンソースコミュニティやアーティスト個人の探求の中から生まれることが多いため、miHoYoは社内ではまだ想定されていないようなAIツールを極限まで活用できる「超人」を外部から招き入れたいと考えているのかもしれません。
学歴不問の「唯才主義」:才能が道を開く新時代
AI美術の採用が波紋を呼ぶ一方で、miHoYoの新卒採用に関して、全く異なる反響を呼ぶニュースがほぼ同時期に報じられました。2025年度新卒向けに開催された社内ゲーム開発イベントで、参加者の中に中国の「985工程」「211工程」といったトップ大学出身者に混じって、河北ソフトウェア職業技術学院の専門学校生(専科生)が名を連ねていたことが、ネットユーザーによって発見されたのです。
これは、miHoYoが学歴の壁を越え、才能と実力を最優先する「唯才主義」の姿勢を鮮明に示したものとして、広く賞賛されました。中国のゲーム業界を牽引するmiHoYoが、最高峰の学歴だけでなく、専門的な技術を持つ若手にも門戸を開いていることは、多くのゲーム開発志望者にとって大きな希望となるでしょう。
まとめ:ゲーム業界の未来を切り拓くmiHoYoの挑戦
AI技術の積極的な導入と、学歴に囚われない多様な人材登用。miHoYoが示したこれら二つの「顔」は、同社が未来のゲーム開発において、技術革新と人材戦略の両輪をいかに重要視しているかを物語っています。AIによる効率化と、人間が生み出す芸術性とのバランスをどのように取るのか、また多様なバックグラウンドを持つ人材がどのように協働し、新たな価値を創造していくのか。
このmiHoYoの挑戦は、日本を含む世界のゲーム業界全体に大きな示唆を与えます。技術の進歩は、時にクリエイターやプレイヤーの間に摩擦を生むこともありますが、それを乗り越え、いかに新たなエンターテインメント体験を創造していくか。miHoYoの動向は、今後のゲーム業界のあり方を占う上で、目が離せない重要な指標となるでしょう。
元記事: gamelook
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