サバイバルホラーゲームの原点として名高い『アローン・イン・ザ・ダーク』シリーズ。しかし、その輝かしい歴史の裏には、幾度となく方向性を見失い、低評価の嵐に見舞われた「血と涙の歴史」が隠されています。先日PS Plusのフリープレイで提供された2024年版の新作を、筆者もプレイしてみましたが、途中で手を止めてしまいました。これは、シリーズが長年直面してきた困難を象徴する出来事かもしれません。今回は、サバイバルホラーの偉大な始祖が、なぜこのような苦難の道を歩むことになったのか、その波乱に満ちた軌跡を辿ります。
サバイバルホラーの始祖、その栄光と迷走の始まり
『バイオハザード』にも影響を与えた輝かしい黎明期
『アローン・イン・ザ・ダーク』は、3Dグラフィックで描かれた最初のサバイバルホラーゲームの一つとして、そのジャンルの始祖とされています。固定カメラアングルで物語を進める手法や、独特の操作・戦闘システムは、後にカプコンの大ヒットシリーズ『バイオハザード』に多大な影響を与えました。初期の『アローン・イン・ザ・ダーク』三部作(1992年、1993年、1995年)は、まさに黄金時代を築き、多くのプレイヤーを魅了しました。
『バイオハザード』の隆盛と『アローン・イン・ザ・ダーク』の試練
しかし、三部作を終えると、『アローン・イン・ザ・ダーク』シリーズはしばらく沈黙します。ちょうどこの時期(1996年~1999年)に『バイオハザード』三部作が人気を博し、サバイバルホラーの代表格としての地位を確立しました。2001年に登場したシリーズ第4作『アローン・イン・ザ・ダーク:新悪夢』は、『バイオハザード』の影響を強く受けつつも、高い水準を保ちました。当時の『バイオハザード』ファンには、この作品をプレイした方も少なくないでしょう。しかし、このあたりからシリーズのアイデンティティが揺らぎ始めます。
失われたアイデンティティ:度重なる方向転換と低迷
アクション重視の『アローン・イン・ザ・ダーク』(2008年版)
『新悪夢』から7年後、シリーズ第5作目となるリブート版『アローン・イン・ザ・ダーク』(2008年版)が登場します。しかし、この作品は大きな変貌を遂げました。主人公の名義こそ残したものの、舞台は20世紀初頭から現代のニューヨークへ。ゲームプレイもアクション要素が色濃くなり、プレイヤーは無意味な瓦礫の間を飛び回ることに。エピソード形式で展開され、クリアできない場合は章をスキップできるという斬新(?)なシステムも導入されました。
開発を担当したのは、レーシングゲーム開発を得意とするフランスのEden Games社。そのせいか、ゲームには大量のカーチェイスシーンが盛り込まれましたが、技術的な問題に直面し、結果としてシリーズ史上最低の評価を受けることになります。Metacriticの平均スコアは、わずか63点でした。
TPSへと変貌した『アローン・イン・ザ・ダーク:イリュミネーション』(2015年版)
しかし、谷底はまだ先でした。2015年にリリースされたシリーズ第6作『アローン・イン・ザ・ダーク:イリュミネーション』は、なんと三人称シューター(TPS)へと変貌します。『レフト・フォー・デッド』と『バイオハザード6』を混ぜたような作品で、最大4人での協力プレイが可能でした。開発元の名前が「Pure FPS」だったというのも、皮肉としか言いようがありません。当然ながら、これは『アローン・イン・ザ・ダーク』の原点とはかけ離れたものであり、ゲーム内の不完全さも相まって、Metacriticで驚愕の19点、プレイヤー評価は1.3点という壊滅的な結果に終わりました。
版権の転売と開発スタジオの悲劇
版権のたらい回し:インフォグラムから雅達利、そしてTHQ Nordicへ
シリーズの初期三部作を制作した後、版権元のインフォグラム社(Infogrames)は、国外のスタジオを次々と買収する戦略に転じ、一時的な好景気を迎えましたが、2006年には破産寸前に追い込まれました。この間、『アローン・イン・ザ・ダーク』シリーズは『新悪夢』の一作しかリリースされていません。2008年には、インフォグラム社は雅達利社(Atari)と合併し、後に雅達利に社名を変更します。
しかし、雅達利もまた経営難に陥り、再建のために多くの資産を売却しました。そして2019年、ついに『アローン・イン・ザ・ダーク』のブランドは、拡大を続けるゲーム大手THQ Nordicへと売却されます。これによって、ようやく2024年版の新作が誕生することになりました。
最新作の裏側:期待と現実、そしてPieces Interactiveの終焉
THQ Nordicに版権が渡らなければ、2024年版は生まれなかったかもしれません。しかし、THQ Nordicがこのシリーズにどれほど重きを置いていたかというと、それは疑問符がつきます。なぜなら、彼らが開発を任せたのは、新しく買収したばかりの小規模なスタジオ、Pieces Interactiveだったからです。
スウェーデンに拠点を置くPieces Interactiveは、大学生の創業チームから生まれたスタジオで、これまで目立たない小規模ゲームを開発してきた経緯があります。大規模プロジェクトを手がける経験は乏しかったと言わざるを得ません。そうした背景を知ると、2024年版『アローン・イン・ザ・ダーク』の数々の欠点や、グラフィック技術の物足りなさも、この小さな会社が「全身全霊」を込めて作り上げた結果だったのだと理解できます。
ゲームはMetacriticで平均63点と振るわず、Steamでは「概ね好評」に持ち直したものの、現実は残酷でした。ゲームの販売が期待に届かなかった後、THQ NordicはPieces Interactiveスタジオを直接閉鎖するという決定を下したのです。
まとめ
サバイバルホラーの始祖として歴史に名を刻みながらも、その後のシリーズ展開で迷走を繰り返し、最終的に開発スタジオの閉鎖という悲劇を迎えた『アローン・イン・ザ・ダーク』。この「血と涙の歴史」は、ゲーム業界におけるIP管理の難しさ、そして開発スタジオが背負う重い運命を物語っています。果たして、この名門シリーズに次なる未来は訪れるのでしょうか。それとも、暗闇の中を独り歩き続ける運命なのでしょうか。今後の動向に注目せずにはいられません。
元記事: chuapp
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