AI技術の進化が目覚ましい現代、その影響はあらゆる業界に波及しています。特にゲーム開発の分野では、AIツールが新たな可能性を切り開いています。今回は、中国の学生がAI(ChatGPTやStable Diffusion)を駆使し、ユニークな『老中医シミュレーター』を開発した事例をご紹介します。専門知識がなくても、いかにAIがクリエイティブなアイデアの実現を強力にサポートし、ゲーム開発のハードルを下げているか。その舞台裏と、AIがもたらす未来のクリエイティブな形について深掘りしていきます。
AIが変えるクリエイティブの世界:中国発のゲーム開発秘話
最近、AIに関する話題は尽きません。例えば、OpenAIが開発した動画生成AI「Sora 2」で生成された、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏が孔子や秦の始皇帝、ニュートンといった歴史上の偉人たちを「職場の新人」として流暢な中国語で指導する動画がオンラインで話題になりました。これらは一見すると本物と見間違えるほどで、生成AIの進化には目を見張るものがあります。
このようなAIの進化は、もちろんゲーム業界にも波及しており、様々なAIツールがゲーム開発を補助するために活用されています。記事の筆者である触楽網(中国のゲームメディア)のインターン編集者、侯雯钊(こうぶんしょう)さんも、以前AIを使ってゲームを制作した経験があるそうです。そのゲームの名前は『老中医模擬器』(老中医シミュレーター)。「老中医」とは、経験豊富な伝統的な漢方医を指します。ゲーム内容は、まさにその名の通り、老中医として患者を診察し、薬草を調合するというシミュレーションゲームです。
制作のきっかけは、大学のコンピューター科目の課題で「中医(伝統中国医学)」をテーマにした成果物を発表する必要があったこと。そして、2023年はChatGPTやStable DiffusionといったAIが飛躍的な進化を遂げた年でした。筆者はこのチャンスを逃すまいと、プログラムコードとアート素材の両方をAIで賄うことを決意したのです。
『老中医シミュレーター』:AIと二人三脚のゲーム開発
筆者がゲームで再現したかったのは、漢方医が患者を診察し、薬草を「抓药(調合)」するプロセスでした。大まかな構想が固まると、ChatGPTに具体的な要件を提示しました。ゲームには6種類の薬草を表すアイコンボタンがあり、クリックで選択状態になり、もう一度クリックすると選択が解除されます。画面上部には「祖伝薬方」(先祖代々伝わる秘伝の処方箋)ボタンがあり、クリックすると様々な病状と必要な薬草のリストが表示されます。ゲーム画面の最下部には、患者が抱える病状を示すテキストがランダムに表示され、最後に「薬已抓好(薬調合済み)」ボタンをクリックすると、選んだ薬草が患者の病状と合っているかどうかがチェックされ、結果に応じて異なるフィードバックが返ってくる仕組みです。そして、一連の診察が終わると次の患者が現れる、という流れでした。
当時、筆者はプログラミングの知識がなく、ChatGPTもまだ進化の初期段階で、中国語の自然言語理解能力には限界がありました。しかし、数十回にもわたる対話と試行錯誤の結果、最終的には筆者の構想通りの機能をほぼ完璧に実装し、バグもないプログラムコードを生成することに成功したのです。
特に頭を悩ませたのは、「選択した薬草が患者の病状と合っているか」をチェックする機能でした。長い間考え抜いた末、筆者はユニークな解決策を考案します。6種類の薬草にそれぞれ1から6の数字を割り当て、プログラムが初期化されるたびに3つの数字をランダムに選び、20通りの組み合わせを持つ病状の番号を生成するのです。こうすることで、システムは選択された薬草の番号と病状の番号が一致するかどうかだけをチェックすれば良くなります。これは現実のロジック(まず患者が来て、病状に応じて薬草を調合する)とは逆で、先に調合する薬草を決め、それに対応する病状の患者を出すという手法ですが、プログラム上の判定問題をスマートに解決しました。
AIと人力の融合:アートとリアリティの追求
ゲームのアート素材にもAIが活用されました。例えば、薬草アイコンの未選択と選択状態は、古画風の薬草と包みの絵をStable Diffusionで生成しています。その他、インターネット上の公開素材やウェブサイトで生成された背景も利用され、「祖伝薬方」の古書のようなグラフィックもそうです。しかし、ゲームのメイン画面については、AIで理想的なものを生成できず、適切な素材もネット上に見つからなかったため、中国の大手ECサイト「淘宝(タオバオ)」でプロの絵師に数十元(数百円程度)を払って依頼したそうです。筆者の要望は「2つの手が描かれた絵で、片方の手がもう片方の脈を診ている様子。特に、脈を診ている手の長い爪を強調してほしい」というものでした。
また、ゲームにリアリティを持たせるため、筆者は自ら『黄帝内経』(中国古代の医学書)を調べ、20種類の異なる病状とそれに対応する漢方薬をゲームテキストの基礎としました。最終的に、生成されたゲームコードをテキストエディタにコピーし、アート素材を同じフォルダに置くことで、『老中医シミュレーター』は完成しました。このゲームはブラウザ上でローカルに実行する形式でしたが、筆者はこれをアプリケーションとしてパッケージ化したり、ウェブサイトで公開したりすることも考えていたそうです。実際に8元(約170円)でURLを購入したものの、ChatGPTにその方法を教えてもらうことはできず、結局断念せざるを得ませんでした。
開発過程での「コンテンツカット」とAIの未来
『老中医シミュレーター』の開発中には、いくつかのアイデアが実現できなかった、いわゆる「コンテンツカット」も経験しました。当初は、各薬草アイコンの下にそれぞれの薬草名(茯苓、人参など)を表示するボタンを追加する予定でしたが、アイコンと競合する可能性があったため断念し、背景にあらかじめ薬草名を記載し、アイコンをそれに合わせて配置することになりました。
また、「名誉値」(ライフポイントのようなもの)と「局」の概念も導入したかったそうです。プレイヤーが薬草を間違えると名誉値が減り、正しく調合すると増え、名誉値がゼロになるとゲームオーバーという仕組みです。しかし、筆者の技術力不足により、これも実現には至りませんでした。この経験を通じて、筆者は他のゲームが時間や技術的な制約からコンテンツを削減する状況を「三分は理解できるようになった」と語っています。
筆者自身、『老中医シミュレーター』を「ゲーム」と呼ぶのは少し恥ずかしいと感じており、「インタラクティブな場面を構築したに過ぎず、ゲーム性はほとんどない」と評価しています。しかし、数年前の制作当時と比べ、AIツールはさらに大きく進化しました。当時の状況でもこれほどのものが作れたのだから、現在の優秀なクリエイターたちなら、もっと驚くようなゲームを生み出せるだろうと筆者は期待しています。
AIは、人間のクリエイティブなアイデアを表現するための「補助」であるべきであり、人間の創造性を「置き換える」ものではないという考えがあります。筆者も、AIが多くの人々を反復的な作業から解放し、それぞれの主体的な能動性をより良く発揮できるようになることを願っています。
まとめ
今回の中国の学生による『老中医シミュレーター』の開発事例は、AIが個人のクリエイティブなアイデア実現を強力にサポートするツールであることを明確に示しています。専門的なプログラミング知識がなくても、ChatGPTやStable DiffusionのようなAIツールを使いこなすことで、独自のゲームを形にできる時代が到来しています。
この事例は、AIがクリエイターを技術的な制約から解放し、「何を創るか」という本質的な問いに集中できるよう促す可能性を秘めていることを示唆しています。日本のゲーム開発者やクリエイターにとっても、このような中国発のAI活用事例は、今後の開発手法やイノベーションのヒントとなるでしょう。AIが人間の創造性を解き放ち、より多様で豊かなコンテンツが生まれる未来に期待が高まります。
元記事: chuapp
Photo by Pavel Danilyuk on Pexels












