中国で近年、SNSをきっかけに爆発的な人気を集める「網紅(ワンホン、インフルエンサー人気)観光地」が、わずか数ヶ月でブームが去ってしまう現象が深刻化しています。山東省淄博のバーベキューからハルビンのキャラクター戦略まで、数々の都市が一世を風靡するも、その熱狂は驚くほど速く冷めると言われています。なぜ熱狂は一過性で終わってしまうのか?本記事では、中国文化観光部のデータや具体的な事例を交えながら、その裏側にある構造的な課題と、持続可能な観光地へと変貌するための挑戦を、日本の読者の視点から深掘りします。
中国「バズる観光地」:熱狂と急速な沈静化のサイクル
中国では、まるで雨後の筍のように数々のインフルエンサー人気都市が誕生する一方で、その多くが驚くべき速さで人々の記憶から消え去っています。例えば、山東省淄博(ジーボー)のバーベキュー、黒竜江省ハルビン(ハルビン)の「爾濱(アービン)」と呼ばれる親しみやすいキャラクター戦略、甘粛省天水(ティエンシュイ)の麻辣燙(マーラータン)、山東省菏澤(ホーザー)のレトロブームなど、それぞれの都市がSNSで独自のタグを掲げ、一大ムーブメントを巻き起こしました。しかし、その熱狂が冷めるスピードもまた、驚くほど速いのが現実です。
中国文化観光部のデータによると、2025年には国内のインフルエンサー人気スポットの平均的な人気持続期間がわずか3.2ヶ月に留まると予測されています。さらに、人気を獲得したスポットの6割以上が、半年後には観光客が激減。新たに人気が出た都市の「寿命」は、初期のインフルエンサー人気都市よりもさらに短くなっていることが明らかになっています。
一夜にして「過去」となるバズの事例
具体例を見てみましょう。2023年3月、甘粛省天水市の麻辣燙はショート動画をきっかけに大ヒットし、多くの観光客が早朝から数時間並んで一杯の麻辣燙を求めました。しかし、わずか9ヶ月後には多くの店が客足の激減により閉店し、観光客向けに開設された専用バス路線も2024年の国慶節前に運行を停止しました。同様の状況は淄博のバーベキューでも発生し、ブームから4~5ヶ月後には客足が急降下し、多くの店が人員削減を余儀なくされました。
さらに今年1月には、重慶市合川(ホーチュアン)の「殺猪宴(シャーヂューイエン)」がショート動画で人気に火がつきましたが、その熱は1週間も持続せず、周辺の農家の1日あたりの来客数はピーク時の600組超から30組まで激減しました。
短命化の裏側:偶発性と感情、そして資源不足
なぜ中国のインフルエンサー人気観光地は、これほどまでに短命に終わってしまうのでしょうか。その背景にはいくつかの構造的な課題が見えてきます。
「偶発性」に依存するブームの作り方
かつての人気都市は、旅行ブログの推奨や人気ドラマ・映画のロケ地といった形で、時間をかけて熱気を蓄積する傾向がありました。しかし、現在のインフルエンサー人気都市は、一般人の偶発的なショート動画投稿やSNSのアルゴリズム推薦が主な推進力となっています。例えば合川の殺猪宴の場合、当局もその人気が完全にネットユーザーの自発的な動きであり、事前の観光計画によるものではないと発表しています。このような「偶発性」は短期的な集客には繋がるものの、持続的な魅力やしっかりとした基盤がないため、ブームが去るのも早いのです。
「心理的なチェックイン」と期待値のミスマッチ
観光客側の意識も変化しています。SNS上では「体験が悪かった」「二度と行かない」といった評価が少なくありません。多くの観光客はショート動画で「心理的なチェックイン」を済ませてしまうと、実際に訪れた際の体験が期待値を満たさず、新鮮味が薄れた途端に再訪の意欲を失ってしまいます。
この現象は、本質的に「集団感情の一時的な解放」と捉えられます。淄博の「人情味」やハルビンの「温かいもてなし」といった感情的なニーズは満たされるものの、感情自体が「一回性」の特徴を持つため、現場での感情体験が完了すると、好奇心や共感は薄れ、再訪のモチベーションは自然と低下します。
観光資源とインフラの不足
さらに、多くのインフルエンサー人気観光地自体が、長期的な人気を支えるための明確な強みやインフラを欠いている現状があります。例えば、淄博は工業都市であり、三亜や桂林のような大規模な観光資源に乏しいです。また、重慶市栄昌区は古鵝で有名ですが、観光スポットとしての魅力は石刻に頼っており、観光クラスター効果が不足しています。
そして、もう一つ重要な要因が、資源の収容能力不足です。ゲーム「黒神話:悟空」の舞台として爆発的な人気を集めた四川省隠県の「小西天(シャオシーティエン)」を例に挙げましょう。大雄宝殿の面積はわずか169平方メートルしかなく、一度に最大40人しか見学できません。それにもかかわらず、2024年10月には1日の来客数が1万人を超え、その収容能力をはるかに上回ってしまいました。このようなキャパシティオーバーは、観光客の体験の質を著しく低下させ、結果としてブームの終焉を早めます。
まとめ:持続可能な観光地へ、日本が学ぶべきこと
中国の「網紅観光地」が直面する短命化の課題は、SNSが観光の主要な情報源となった現代において、日本を含む世界の観光地が直面しうる共通のテーマと言えるでしょう。
一過性のバズを生み出すことは容易ですが、観光客が繰り返し訪れたいと感じるような質の高い体験、独自性のある文化・資源、そして受け入れ側のインフラ整備が伴わなければ、その熱狂はすぐに冷めてしまいます。偶発的なバズを「持続可能な魅力」へと転換するためには、短期的視点だけでなく、地域全体で観光資源を育成し、サービスの質を高める長期的な戦略が不可欠です。中国の事例は、日本の地域活性化や観光戦略を考える上で、貴重な教訓を与えてくれます。
元記事: pcd
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