2024年上半期、中国企業は「出海(グローバル展開)」と呼ばれる海外戦略において、これまでにない複雑な局面を迎えました。世界経済の減速、地政学的緊張、目まぐるしく変わる関税政策など、多くの課題に直面する一方で、輸出の堅調な伸び、新興市場の需要拡大、エネルギー・テクノロジー分野での海外進出、クロスボーダー投資の活性化など、新たな成長機会も顕在化しています。このような状況下で、中国企業のグローバル化はいくつかの顕著なトレンドを示しました。具体的には、輸出額の着実な増加と地域・品目の動的な調整、香港市場での新規上場ブーム、そして新エネルギー、自動車、消費財セクターが「出海」の主要な牽引役となったことです。本記事では、マクロ経済データと市場の注目点を踏まえ、この半年間における中国企業のグローバル展開の様相を深掘りします。
逆境下の成長:マクロデータが示す中国輸出の現状
輸出は堅調に増加、構造は多様化へ
2024年上半期、中国の貨物貿易輸出は全体として前年同期比で増加を維持しました。税関総署の統計によると、同時期の貿易総額は21.79兆元(約470兆円*)に達し、前年同期比2.9%増となりました。特に輸出は13兆元(約280兆円*)を突破し、前年同期比7.2%の堅調な伸びを記録しています。輸出構造もより多様化し、新興市場が成長を牽引しました。上半期に中国は190以上の国・地域と貿易規模を拡大し、貿易額500億元(約1.08兆円*)を超えるパートナー国は61カ国と、前年同期より5カ国増加しました。「一帯一路」共同建設国との貿易額は11.29兆元(約243兆円*)で、前年同期比4.7%増となり、総貿易額の51.8%を占めました。EU、日本、英国といった伝統的な市場への輸出も伸びる中、アフリカ、中央アジアへの輸出はそれぞれ14.4%、13.8%増、ASEANへの輸出は9.6%増と、新興市場が著しい貢献を見せています。
*換算レートは1元=約21.5円で計算しています。
関税政策の不確実性と米中貿易の動向
一方で、関税政策の不確実性は、中国企業の海外展開における避けられない課題となっています。4月には、米国が「対等関税」政策を発表し、全世界の商品に10%の基本関税を課し、さらに中国製品には34%を追加で課税しました。これにより、累積最高関税率は一時145%に達し、中国製品に対する800ドルの免税枠も撤廃され、クロスボーダーEC業界に大きな打撃を与えました。しかし、5月の中米ジュネーブ経済貿易会談では共同声明が発表され、一部の追加関税が撤廃され、24%の関税については90日間の停止措置が取られました。8月には、この24%の関税が再度90日間停止される一方、残りの10%の追加関税は維持されることになりました。
こうした政策の不確実性の影響を受け、上半期の中国から米国への輸出入はともに減少しました。税関総署のデータによると、対米貿易総額は2.08兆元(約44.7兆円)で、前年同期比9.3%減。内訳は、輸出が1.55兆元(約33.3兆円)で9.9%減、輸入が5303.5億元(約11.4兆円)で7.7%減となりました。米中貿易は第1四半期のプラス成長から第2四半期には20.8%の減少に転じました。しかし、ジュネーブやロンドンでの経済貿易会談が進展したことで、米中貿易は持ち直しを見せ、6月には輸出入額が5月の3,000億元弱から3,500億元超へと回復しています。
市場動向:香港市場と「一帯一路」が牽引する資金・投資の流れ
香港市場がIPOブームを牽引、グローバル資金を誘致
香港市場への上場は、2024年上半期の資本市場における最大の目玉の一つとなりました。香港証券取引所のデータによると、上半期には42社の新規株式公開(IPO)が行われ、前年同期比40%増となりました。調達総額は2021年以来の新高値を記録し、昨年通年の876億香港ドルをすでに上回っています。6月30日時点で、IPOによる調達額は1,050億香港ドル(約2.1兆円*)を超え、世界の資本市場でトップを維持しました。
特に注目すべきは、上半期の香港IPO市場で海外の基盤投資家(Anchor Investor)による投資額とその割合が大幅に増加した点です。申万宏源証券のデータによると、2023年、2024年、2024年上半期における海外基盤投資家の全体に占める割合は、それぞれ約41.6%、40.4%、59.3%と推移し、合計投資額はそれぞれ約64億香港ドル、110億香港ドル、286億香港ドルと、著しい上昇傾向を示しています。
資金源別に見ると、現在の香港市場における海外基盤投資家は、主に英国、米国、シンガポールの国際資産運用機関のほか、中東の政府系ファンドや東南アジアのファミリーオフィスなども含まれます。グローバル化を志向する中国企業にとって、香港での上場は世界中の資金を調達するための重要なチャネルです。CATL(寧徳時代)、蜜雪冰城(ミーシュエビンチョン)、老鋪黄金、海天味業といった代表的な企業が、資金調達額や株価上昇率などで記録を樹立しました。また、新興消費財、ハードテクノロジー、バイオ医薬品などの人気業界の企業も、香港上場を通じてグローバルブランドイメージを確立し、世界的な成長の新段階に入っています。
「一帯一路」を軸とする海外投資とM&Aの活性化
企業の海外直接投資全体は減少傾向にあるものの、「一帯一路」参加国への投資は増加しています。EY(アーンスト・アンド・ヤング)の「2024年上半期中国海外投資概観」によると、2024年上半期の中国からの全業界向け対外直接投資は800億ドルで前年同期比6.2%減となりました。主な投資分野は製造業、テクノロジー、新エネルギー関連産業などです。非金融分野の対外直接投資は722億ドルで同0.5%減でしたが、そのうち「一帯一路」共同建設国への非金融分野の直接投資は189億ドルで同20.7%増と顕著な伸びを示しました。主要な投資先は東南アジア、中東、中央アジア、中南米諸国です。
海外M&A取引も回復基調にあり、やはり「一帯一路」関連地域が主要な焦点となっています。EYの同レポートによると、中国企業が発表した海外M&A総額は196億ドルで前年同期比79%増。取引件数は200件で7%減でしたが、5億ドルを超える大型案件は前年同期の6件から14件へと倍増しています。業界別では、2024年上半期には複数の業界でM&A金額が3桁成長を達成し、TMT(テクノロジー、メディア・エンターテイメント、通信)分野が引き続き最も活発でした。地域別ではアジアがM&A総額の半分以上を占めて主導的な地位を維持し、中南米地域でのM&Aの熱度も大幅に高まり、金額で6倍の成長を見せました。
産業別ハイライト:自動車、新エネルギー、消費財の動向
自動車・新エネルギー分野の躍進
自動車と新エネルギー分野は、中国企業の海外進出における主要な牽引役であり続けています。2024年上半期、中国の新エネルギー車(NEV)の輸出は好調で、輸出台数は106万台に達し、前年同期比75.2%増を記録しました。これにより、中国全体の自動車輸出も伸び、上半期の総輸出台数は308.3万台で同10.4%増となりました。中国乗用車市場情報聯席会(CPCA)の崔東樹秘書長によると、この輸出増加はプラグインハイブリッド車やハイブリッド車の急増、そしてオーストラリアや東南アジア市場の開拓の成果です。
太陽光発電(PV)業界は引き続き圧力に直面しており、データは明暗を分けています。中国太陽光発電産業協会(CPIA)のデータによると、2024年上半期のシリコンウェハー、セル、モジュールの輸出量はそれぞれ前年同期比で-7.5%、74.4%、-2.82%の増減となりました。輸出額は26%減少しました。しかし、新興市場への展開は加速しており、中国のモジュール輸出先は115の国と地域に広がり、51カ国への輸出額は100%以上の成長を達成しています。中国の太陽光発電企業はアフリカ、オセアニアなどの新興市場の開拓を加速させています。
一方、蓄電システム企業の海外受注は大幅に増加し、海外展開が加速しています。CESA蓄電アプリケーション分会の産業データベース統計によると、1月から6月にかけて、中国企業は新たに199件の海外蓄電システム関連受注または提携を獲得し、総規模は160GWhを超え、前年同期比220.28%の大幅な増加となりました。
消費財の海外展開:精緻な運営と多角的な市場開拓
消費財分野では、成熟したブランドのグローバル化が精緻な運営を特徴としています。POP MART(泡泡瑪特)やANTA(安踏)といった大手ブランドは、より洗練されたIP、ブランド、チャネル運営により、多様な市場を開拓しています。蜜雪冰城(ミーシュエビンチョン)や霸王茶姫(バーワンチャージー)といった飲食ブランドも海外での店舗展開を加速させており、東南アジアと北米が主要な展開拠点となっています。
クロスボーダーECは依然として中国消費財の海外進出における主戦場です。税関総署によると、上半期の中国のクロスボーダーECによる輸出入は約1.32兆元(約28.3兆円)で、前年同期比5.7%増となりました。そのうち輸出は約1.03兆元(約22.1兆円)で4.7%増でした。しかし、関税政策の不確実性は依然として業界に影を落としています。TikTok、Temu、SHEINなどのクロスボーダープラットフォームや販売業者は、欧州や中南米といった多様な市場の開拓・浸透を継続し、海外倉庫の活用、現地供給体制の構築、多角的な市場展開などによりリスク軽減を図っています。
まとめ:波乱の中にも光を見出す中国企業の「出海」
最後に、AIやスマートハードウェア関連のスタートアップ企業も、今年のクロスボーダー海外進出分野における新たな勢力として注目されます。これらの企業は創業当初からグローバル市場を視野に入れ、技術革新と差別化された競争戦略を通じて、新たなグローバル化の可能性を切り拓き、「出海」に新たな活力を与えています。
総じて、2024年上半期における中国企業のグローバル展開は、多くの困難に直面しながらも、多方面で力強い成長を見せました。より多様な市場、複雑な経路、激しい競争環境に直面する中で、中国企業がグローバル化の過程で示す「強靭さ」と「野心」は揺るぎないものであり、今後もその動向は世界経済に大きな影響を与えることでしょう。日本企業にとっても、中国企業のこうした動向は、新たなパートナーシップや市場開拓のヒント、あるいは競争戦略の見直しを促す重要な示唆となるはずです。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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