中国の食卓を支えるインスタント麺大手「康明食品(Chen Kemin Food)」が、この度、13年ぶりに麺レストラン事業に再挑戦すると発表し、業界内外で大きな注目を集めています。同社は過去にも麺レストラン事業に進出しましたが、わずか3年で撤退するという苦い経験があります。しかし、本業であるインスタント麺事業が近年、市場需要の縮小という厳しい現実に直面し、売上も大きく減少。新たな成長の柱を模索する中で、再び外食産業への参入を決断しました。今回は単なる収益目的ではなく、ブランド認知度の向上と新たなビジネスモデルの開拓を目指す戦略的な一歩としています。中国全土で熾烈な競争が繰り広げられる麺レストラン市場で、康明食品は過去の失敗を乗り越え、この新たな挑戦を成功させることができるのでしょうか?
本業低迷と麺レストラン再挑戦の背景
中国で「インスタント麺の第一人者」として知られる康明食品ですが、近年は厳しい経営環境に置かれています。2023年から2025年上半期にかけて、主力である麺製品の販売量が30%以上も減少。これに伴い、売上も約3割縮小しており、新たな収益源の確保が喫緊の課題となっています。過去には2023年に養豚事業へ異業種参入を試みましたが、これも市場の周期的な変動に影響され、いまだ黒字化には至っておらず、かえって全体の業績変動を激化させる結果となっています。
このような状況の中、康明食品が再び目を向けたのが麺レストラン事業です。実は同社は2012年にも麺レストラン事業に参入した経緯があります。当時は湖南省の大学内に1号店を開設しましたが、開業初年度に約79万元(現在のレートで約1600万円)の赤字を計上し、わずか3年後の2015年には閉鎖に追い込まれています。
しかし、今回の再挑戦は過去とは明確に異なる戦略に基づいています。企業側は、今回の事業の核心的な目標は、「急速な店舗拡大や短期的な利益追求ではない」と明言しています。むしろ、直営店を通じて消費者に直接アプローチし、ブランド認知度を強化すること、そして同時にBtoB(法人向け)の販売チャネル協力モデルを模索することを主眼としています。これは、単なる飲食店経営を超えた、より広範なブランド戦略の一環と言えるでしょう。
新たな麺レストラン戦略と市場の厳しさ
康明食品が今回立ち上げるのは、その名も「陳克明麺レストラン」です。全国1号店は12月に湖南省長沙市にオープン予定で、「新中国式麺レストラン」と位置づけられています。運営は康明食品が間接的に全額出資する長沙陳克明餐飲文化管理有限公司が担い、直営モデルを採用します。
メニューの目玉は、「手打ち麺」と「伝統手延べ麺技術」を駆使した特色ある麺料理です。同社は、自社が持つ強固なサプライチェーンを最大限に活用し、独自開発した非遺産手延べ麺技術を製品に深く組み込むことで、差別化を図ろうとしています。すでに「小紅書(RED)」や「抖音(Douyin)」といったSNSプラットフォームで公式アカウントを開設し、「無料試食イベント」や「体験者募集」などのインタラクティブなキャンペーンを展開し、消費者の期待を集めています。
しかし、麺レストラン市場の競争は非常に熾烈です。レッドデータによると、2024年の中国全国の麺レストラン市場規模は1500億元(約3兆円)に達し、2025年には1600億元(約3兆2000億円)を突破する見込みですが、市場の集中度は極めて低く、上位50ブランドを合わせてもシェアは3%未満に過ぎません。
この市場には、「和府撈面(Hefu Laomian)」や「馬記永(Maji Yong)」のように標準化された運営でシェアを拡大するチェーン店から、地域特有の風味で地元市場を深耕する数多くの麺店がひしめき合っています。加えて、麺料理は地域性が非常に強く、特に今回の出店地である湖南省では、米粉(ビーフン)が主食として好まれる傾向にあります。康明食品が手打ち麺で独自の価値を創出できるかどうかが鍵となりますが、競争は麺そのものだけでなく、スープ、トッピング、そして食事体験全体に及ぶため、多角的な視点での戦略が求められます。
まとめ:慎重な「試金石」プロジェクト、その行方は?
康明食品は、今回の「陳克明麺レストラン」事業を「小型試水プロジェクト」、つまり小規模な試行プロジェクトと位置づけています。短期間でのフランチャイズ展開や大規模な店舗拡大は行わず、まずは単店舗での収益モデルの検証を優先する極めて慎重な姿勢を示しています。
本業の低迷と多角化の失敗を経験してきた康明食品にとって、この麺レストラン事業は、ブランドの再構築と新たな収益モデルを確立するための重要な「試金石」となるでしょう。自社の強みであるサプライチェーンと伝統的な麺製造技術を、いかに消費者のニーズと結びつけ、差別化された価値として提供できるかが成功の鍵を握ります。
この動きは、中国の大手食品企業が既存事業の限界に直面した際に、どのように多角化戦略を展開し、新たな成長分野を切り開こうとしているかを示す好例と言えます。日本市場への直接的な影響は限定的かもしれませんが、中国の巨大な外食市場における競争と革新のダイナミズムを理解する上で、非常に興味深い事例となるでしょう。康明食品がこの新たな挑戦を通じて、中国食品業界に新たな風を吹き込むことができるのか、今後の展開に注目が集まります。
元記事: pcd
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