中国の高級白酒(バイジウ)大手「水井坊(スイジンファン)」が、直近の上半期決算で売上高が1割以上減少し、第2四半期には異例の赤字に転落しました。過去15年間で8人もの総経理(CEO)が交代するという異常な状況が続く中、同社の主力製品の市場価格は崩壊寸前。高額な報酬を受け取る経営陣が短期間で次々と入れ替わる背景には何があるのでしょうか。白酒業界全体の低迷と、水井坊が直面する経営課題、そして市場回復に向けた「劇薬」ともいえる戦略に迫ります。
中国高級白酒「水井坊」が赤字転落、主力製品の価格崩壊
中国の白酒業界が低迷する中、四川省に拠点を置く白酒大手「水井坊」もその影響から逃れられませんでした。2025年上半期(中国メディアの表記に準拠)の売上高は前年同期比12.84%減の14億9800万元(約320億円)に落ち込み、純利益も56.52%減の1億500万元(約22億円)と大幅な減益となりました。特に懸念されるのは、第2四半期単体で8500万元(約18億円)の純損失を計上し、近年の四半期決算では初の赤字転落となったことです。
この業績不振の背景には、主力製品である「臻酿八号(ジェンニャンバーハオ)」や「井台(ジンタイ)」の市場価格の暴落があります。ディーラーからは「価格が瞬時に崩壊した」「損切りするしかない」といった悲鳴が上がり、6月のセール期間中には大量の在庫が市場に放出されました。特に「臻酿八号」は、ピーク時の半額以下で取引されるケースもあったと報告されています。
市場の混乱は、脆弱な価格体系をさらに悪化させました。水井坊は価格安定のため、不正に流通した製品を買い戻す異例の措置を講じることになりました。
高額報酬の総経理が続々交代!その背景とは
水井坊の経営を巡っては、もう一つの大きな問題が指摘されています。それが、頻繁な総経理の交代です。現総経理の胡庭洲氏が就任後初めて提出した半期決算が今回の赤字決算ですが、彼はこの15年間で8人目の総経理にあたります。
胡庭洲氏はP&G、コダック、ペプシコなど消費財大手でキャリアを積んだ後、ハーシー中国の総経理などを歴任した外部からの招聘です。彼の2024年の報酬は、半年間の在籍ながら税引前で623.39万元(約1億3000万円)と報じられており、白酒上場企業の中でもトップクラスの高額報酬です。
歴代の総経理たちもまた、高額な報酬を受け取りながら短期間で交代してきました。ディアジオ傘下に入ってからの初の「外国人総経理」である英国人、柯明思氏、その後の米国人、大米氏も短期間で辞任。「個人的理由」を挙げることが多かったものの、業績との関連性も指摘されています。特に2021年に年収851.3万元(約1億8000万円)を受け取った朱鎮豪氏も、2023年には「健康上の理由」で辞任。その後も代行の総経理が短期間で交代し、現在の胡庭洲氏に至ります。これらの総経理のほとんどが白酒業界での実務経験が乏しいという共通点も、企業の不安定な業績に繋がっている可能性があります。
市場安定化への「劇薬」:流通規制と製品回収
水井坊は7月、壊滅的な価格崩壊を食い止めるため、「流通規制(控货)」と「製品回収(回收)」という強力な手段に打って出ました。具体的には、「臻酿八号」の全チャネルでの出荷停止、不正に流通した製品の回収、そして違反したディーラーへの厳重な処罰を発表しました。
この強硬策は、短期的には一定の効果を上げています。ディーラーからは、工場が提示した回収価格が市場価格よりも高かったため、在庫を捌けたという声も聞かれます。8月には一時的に「臻酿八号」の市場価格が回復し、一部の地域では1800元(約3万8000円)前後で取引されるようになりました。
しかし、これはあくまで短期的で一時的な「引き上げ」に過ぎません。長期的な価格トレンドは依然として下落傾向にあり、昨年下半期の小売価格と比較すると、現在の価格はまだ低い水準にあります。白酒業界全体で価格安定は喫緊の課題であり、あの「貴州茅台(グイジョウマオタイ)」でさえ、主力製品の市場価格が下落傾向にあります。
水井坊の新総経理である胡庭洲氏は、今回の赤字決算を受けて、「第一坊」という新ブランドを立ち上げ、「水井坊」と合わせたダブルブランド戦略で、市場の転換期を「追い抜きのチャンス」と捉える姿勢を示しています。「水井坊」を300~800元の価格帯で宴席や祝祭シーンに集中させ、「第一坊」をより高価格帯の富裕層向けに位置づける計画です。
まとめ:揺らぐ中国高級白酒市場と「水井坊」の未来
今回の水井坊の赤字転落は、中国高級白酒市場全体の構造的な課題を浮き彫りにしています。過剰な在庫、景気減速による消費低迷、そして企業内のガバナンスと経営戦略の不安定さが複合的に絡み合っています。頻繁な総経理交代とそれに伴う戦略のブレも、企業の長期的な成長を阻害する要因となっている可能性は否めません。
「流通規制+回収」という劇薬は一時的な価格安定に貢献しましたが、根本的な需要回復には繋がっていません。胡庭洲総経理の掲げるダブルブランド戦略が、果たして水井坊をこの苦境から救い出し、持続的な成長軌道に乗せることができるのか、その手腕が試されます。
中国経済の動向は、日本企業にも少なからず影響を与えます。特に高級消費財市場の変調は、中国市場への進出を考える日本企業にとって重要な示唆となるでしょう。水井坊の今後の動向は、中国の消費市場の縮図として、引き続き注視する価値があります。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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