近年、中国の「洗浴中心(シーユィジョンシン)」と呼ばれる大規模な浴場施設が、その進化で注目を集めています。単なる入浴施設に留まらず、若年層の取り込みを図るべく、無料のPCゲーム、アーケード、そしてなんと最新のPlayStation 5(PS5)まで提供し始めているというのです。今回の記事では、中国のゲームメディア「触乐」の編集者が体験した、北京の浴場での驚きのゲーミング体験と、その裏に隠されたユニークなビジネス戦略に迫ります。果たして無料ゲームは、顧客を惹きつけ、高収益へと繋げる魔法のツールなのでしょうか?
進化する中国の「洗浴中心」
「洗浴中心」とは、日本でいうスーパー銭湯や健康ランドに近い存在ですが、中国ではさらに規模が大きく、食事処、休憩所、仮眠室、マッサージなどのサービスが充実しています。筆者が訪れた北京の浴場も、6時間70元(約1,400円)少々の入場料で、これら複合的な施設を楽しめる場所でした。かつては40~50代の中年層の社交場として、週に一度の娯楽として親しまれていましたが、2010年頃からは若者層を取り込もうと、ゲームセンターの機械やUFOキャッチャーを設置し始めます。
そして今、その進化はさらに加速していました。筆者が足を踏み入れたのは、きらめくRGBライトに彩られたゲーミングPCが並ぶエリア。しかし、期待とは裏腹に、そこは怪しいソフトウェアや広告ポップアップが乱舞する魔境でした。一般的なネットカフェにあるようなクリーンな環境ではなく、「中国版Steam」を装ったフィッシング詐欺のようなアイコンまで見かけ、思わずログインをためらってしまいます。ネット回線も低速で、人気ゲームをダウンロードするには途方もない時間がかかると予想されました。
無料PS5体験:責任感のない自由なゲームプレイ
PCエリアの不穏な空気に落胆した筆者が次に目を向けたのは、なんと無料のPS5エリアでした。ずらりと並んだ次世代機に、筆者は期待を抱いてコントローラーを手に取ります。そこでは店舗が用意したアカウントでしかプレイできませんが、画面にはすでに『Marvel’s Spider-Man 2』のゲーム画面が。前の客が急いで立ち去ったのか、ニューヨークの街中で主人公ピーター・パーカーが待機していました。
筆者は新しいゲームデータを始めることなく、前の客の進捗をそのまま引き継ぎます。目的もなく、メインミッションを追うことも、アイテム収集に奔走することもなく、ただひたすらスパイダーマンを操り、摩天楼の間をウェブスイングし続ける30分間。「このセーブデータに責任を持つ必要がない」という、まるでゲームを始めたばかりの頃のような、純粋で気ままな自由さがそこにはありました。洗浴中心の騒がしくもリラックスした雰囲気の中、ただゲームの世界を散策する。それは、幼い頃にゲームショップで初めて『グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』を遊んだ時と似た、不思議な感覚だったと筆者は語ります。
ゲームが支える浴場のビジネス戦略
なぜ浴場は、最新のPS5まで無料で提供するのでしょうか?北京にある8000平方メートルの大型浴場では、内装費用だけで3000万元(約6億円)を超えると言われています。それに比べれば、PS5一台が数千元(約数万円)程度、たとえ10台設置したとしても、初期投資はごくわずかです。
無料のPS5は、直接収益を生み出すわけではありません。その真の目的は、顧客の滞在時間を延ばすことにあります。ゲームに夢中になれば、あっという間に数時間が過ぎ去ります。すると自然と空腹感や疲労感が増し、顧客はレストランやマッサージ室へと向かうでしょう。これらが高利益率のサービスであり、浴場の主な収益源なのです。ゲームは「無料の楽しさ」を提供することで顧客を店内に引き留め、結果として消費の機会を創出する、巧妙なビジネス戦略の一環と言えます。
また、最近流行しているオフラインでの協力プレイゲームも、浴場のような環境には最適です。隣のソファでは、2人の男性が協力プレイゲームで大声で盛り上がっていました。かつて人々が集まったゲームセンターやレコード店が姿を消していく中、浴場は煙たいネットカフェとは異なる、よりオープンでリラックスした社交の場を提供しているのです。
まとめ
中国の「洗浴中心」は、単なる入浴施設から、ゲームやリラックスを提供する新たなエンターテイメント複合施設へと進化を遂げています。特に無料のPS5やPCゲームの提供は、若年層の集客と顧客滞在時間の延長を狙った、したたかなビジネス戦略の表れと言えるでしょう。入浴そのものが目的ではなく、ただ暖かく、友人との会話やゲームを楽しむために浴場を訪れる、といった新たな利用スタイルも生まれています。
この中国ならではのトレンドは、テクノロジーとエンターテイメントが生活空間に融合する未来を示唆しています。日本においても、スーパー銭湯や温浴施設が同様の戦略を取り入れる可能性は低いかもしれませんが、こうした異業種がゲームコンテンツを取り込む動きは、今後のエンターテイメント業界の多様性を示す興味深い事例と言えるでしょう。
元記事: chuapp
Photo by Celso Mejia on Pexels












