中国でかつて大きな社会問題となった「ネット依存治療施設」。子どもを“更生”させるという名目で、人権を無視した劣悪な環境が批判を浴び、閉鎖された施設も少なくありません。今回ご紹介するのは、中国メディア「触楽(Chuapp)」の周煜博記者が、まさにその「ネット依存治療施設」に潜入取材した際の深い葛藤と、自身の壮絶な過去を綴った記事です。施設を「壊す」だけでは終わらない、子どもたちが直面するさらなる深淵とは何だったのでしょうか。
潜入取材で目の当たりにした“無形の牢獄”
「救出された子どもは、具体的な牢獄から、彼を深淵に突き落とした目に見えない、元の家庭環境へと送り返されるだけなのだ」
これは、周煜博記者が記事の冒頭に記した言葉です。彼がネット依存治療施設の取材を始めてから、今回で4回目の報道となりました。取材、執筆、修正の全てにおいて他の記事よりも遥かに多くの労力を要し、約1ヶ月間このテーマと向き合い続けました。何度も原稿を書き直し、校正者の厳しくも温かい指導を受けながら、彼はこのテーマから離れることができないと語ります。
なぜ彼がこれほどまでにこのテーマに執着するのか。それは、彼自身が9年前、悪名高い豫章書院(※)というネット依存治療施設に送られた過去があるからです。2016年6月23日、彼にとって忘れられないその日、施設に入れられ、3ヶ月半後に出所した彼は、その実態を世に公表することを決意。6年間の法廷闘争を経て、ついに当時の校長を投獄するまでに至りました。その後、彼が再び豫章書院を訪れた時、そこは廃墟となった美術学校に姿を変えていたそうです。
※豫章書院:中国江西省に存在したとされる、ネット依存症の矯正を目的とした私塾。体罰や精神的虐待が横行していると告発され、2017年に閉鎖された。
施設閉鎖だけでは終わらない、子どもたちの悲痛な現実
しかし、周記者は「一つの施設を閉鎖しても、根本的な問題は解決しない」と痛感しています。施設を潰すことは、世論の注目を集め、関係当局を動かし、親が子どもを施設に送るのを思いとどまらせるきっかけにはなるかもしれません。あるいは、かつて虐待を受けた子どもたちに「自分が受けた扱いは不当だった」という慰めを与えるかもしれない。
しかし、彼は具体的な事例を挙げます。反ネット依存チームによって救出されたある少女は、家にも学校にも戻ることができませんでした。ネイリストの職を探すも、結局は働かず、その後、新しい彼氏と各地を転々とし、堕胎、薬物過剰摂取、自傷行為が彼女に関する最後の情報だったといいます。
さらに衝撃的なのは、経済力のある被害者たちが自分たちで避難所を設立し、家に帰れない子どもたちを匿っていた事例です。しかし、ユートピア的であったはずのその避難所は、徐々に暴力、権力、さらには性的な侵害に満ちるようになってしまったというのです。かつて権力によって傷つけられた人々が、自ら権力を得た時、同じ方法で弱者を傷つける。彼らは、自らが反抗していたネット依存治療施設の抑圧構造を無意識のうちに再現してしまったと、周記者は語ります。
それでも続く、困難な支援活動の意義
この現実に、周記者は「怒り、そして悲しみ」を感じました。彼らは完璧な援助者ではない。それぞれが深い傷を抱え、組織力に欠け、時には過激になり、援助者としての倫理観や境界線を守れないこともあるでしょう。しかし、「人々が普遍的に利益を計算し、自己保身に走る時代に、見返りのないことに人生の一部を費やし、ただ自分たちが経験した苦痛を他の人に味わわせたくないという初心を持つ人々がいる。これは得難く、ある種悲しいことだ」と彼は綴ります。
この記事は、ネット依存治療施設という具体的な「牢獄」を壊すことの重要性を認めつつも、その後の子どもたちが直面する「無形の牢獄」としての家庭環境や社会の歪み、そして支援活動自体が抱えうる新たな問題まで、多層的な視点から切り込んでいます。周記者の言葉には、自身の壮絶な体験から生まれた深い洞察と、現代社会への強い警鐘が込められているのです。
まとめ
周煜博記者の記事は、中国におけるネット依存治療施設の闇を暴くだけに留まらず、その根底にある社会問題、家庭環境の複雑さ、そして支援活動の困難さを浮き彫りにしています。日本においても、引きこもりやゲーム依存といった問題は存在し、極端な解決策が求められるケースもゼロではありません。この記事は、安易な解決策に飛びつくことの危険性や、問題の根源に目を向け、持続的かつ倫理的な支援のあり方を問い直す貴重な機会となるでしょう。真の救済とは何か、私たち一人ひとりが考えさせられる内容です。
元記事: chuapp












