SF映画や漫画の世界でしか想像できなかったような出来事が、中国で現実のものとなり、大きな議論を呼んでいます。難病を患う妻を「未来の医療技術での蘇生」を信じて低温保存した男性が、数年後に新しいパートナーと生活を始めたことで、社会的な倫理観と個人の感情の狭間で揺れる人間ドラマが浮き彫りになりました。
未来を信じた決断:中国初の「人体低温保存」
物語の主人公は、中国の桂軍民さん。彼の妻、展文蓮さんは2017年4月に末期の肺がんと診断されました。妻の命を救いたい一心で、桂さんは当時の年齢57歳というときに、ある前例のない決断を下します。それは、将来肺がんの治療法が確立された際に蘇生させ、治療を受ける機会を得ることを願い、妻の遺体を「低温保存」することでした。展文蓮さんは、中国で初めて低温保存された患者となったのです。
現在も彼女の体は、山東銀豊生命科学研究院という施設で、マイナス196℃の液体窒素タンクの中に「1号容器」と記され、保存されています。この研究院は2015年に設立され、山東大学斉魯医院と協力して人体低温保存プロジェクトを開始。当初は、意思のある早期のボランティアに対して無償で保存サービスを提供していました。桂さんはメディアに対し、「彼女が亡くなった日、私の世界は崩壊した。何をすべきかわからなかった」と語り、自身を「夢を追う人間」「空想家」と表現しています。研究院によると、展さんの細胞構造には「異常な変動は見られず、安定している」とされていますが、彼女はすでに臨床的に「死亡」と宣告されています。
倫理と現実の狭間:新たな関係と世間の反応
桂軍民さんのこの感動的な決断は、当初は「未来の奇跡」を信じる心揺さぶるものとして受け止められました。しかし2025年11月、メディアによって彼が新しい恋愛関係を始めていることが報じられると、状況は一変します。桂さんは、2020年から現在のパートナーである王春霞さんと同居していることを認めました。彼は、妻の死後2年間は独り身だったものの、その後自身の健康問題(痛風の急性発作で倒れ、2日後に親族に発見された経験など)から、誰かの世話が必要になったと説明しています。「一人でいて本当に何かあったら、誰も助けてくれない。家で死んでいても誰も知らない」と彼は語りました。
王春霞さんは友人を通じて知り合い、亡き妻と同じく「善良で思いやりがある」と桂さんは評しています。現在も自宅には、若き日の桂さんと展文蓮さんの写真が飾られており、妻の全ての写真や品物も大切に保管されていると言います。新しいパートナーとの関係が始まった今もなお、桂さんは妻への約束は変わらないと主張しています。現在のパートナーについて彼は「彼女はまだ私の心には入っていない。私は彼女に責任を感じているが、これは非常に複雑な問題だ。彼女が妻の代わりになることは決してないだろう。過去を忘れることはできないが、私は生きていかなければならない」と述べ、「彼女がいつでも去っても構わない」という発言もしており、その複雑な心情が伺えます。
この一件は、中国のSNS上で激しい議論を巻き起こしました。「彼は今、別の女性を抱いているのに、30年後に別の女性と再会することを考えている。これは一体何なのか? 感情的な一夫多妻制なのか?」といった批判的なコメントや、「それならなぜ新しい関係を始めたのか? 始めたのなら、なぜ真剣に向き合わないのか? このいわゆる『忠実さ』は高尚なのではなく、自己中心的だ」といった厳しい意見が寄せられています。
まとめ:未来医療が問う人間の愛と倫理
桂軍民さんの選択は、高度な医療技術がもたらす可能性と、人間の感情や倫理観、そして社会的な常識との間に生じる深い溝を私たちに突きつけます。愛する人を失いたくないという純粋な願いから始まった人体低温保存が、予期せぬ形で個人の人生の選択と世間の厳しい視線にさらされることとなりました。
このケースは、未来の医療技術がさらに発展した際に、私たち人類が直面するであろう、倫理的、社会的な課題を先取りしていると言えるでしょう。日本でも、生命科学の進歩がもたらす可能性と、それに対する社会の準備や議論の必要性について、改めて考えるきっかけとなるはずです。科学の進歩と人間の心のあり方、そして『愛』という普遍的なテーマが、どのように交錯し、新たな倫理観を形成していくのか、今後の動向が注目されます。
元記事: gamersky
Photo by Landiva Weber on Pexels












