中国の基礎研究分野で、長期的な視点と短期的な成果プレッシャーの間で揺れる科学者たちの葛藤が浮き彫りになりました。テンセントなどが共催する「新基石50²フォーラム」では、中国科学院の著名な学者、韓啓徳氏が「基礎研究には忍耐が必要だが、『不合格なら即退場』という圧力にどう向き合うか?」と問いかけ、独創性、評価システム、人材育成について白熱した議論が交わされました。本記事では、この重要なフォーラムの内容と、中国の科学技術の未来が議論されたポイントを深掘りします。
中国の基礎研究を揺るがす「成果主義」の波
9月21日、中国深センで「新基石50²フォーラム」が開幕しました。この場で中国科学院の院士(アカデミシャン)であり、中国科学技術協会名誉主席の韓啓徳氏は、集まった科学者たちに核心的な問いを投げかけました。
「十年冷板凳」と「不合格なら即退場」のジレンマ
「科学者は基礎研究をしっかりと行いたいと願うが、そのためには『十年冷板凳』(地道で忍耐強い努力を十年続けること)が必要です。しかし同時に、『不合格なら即退場』というプレッシャーにも直面する。この問題をどう考えますか?」
韓氏のこの問いかけは、基礎研究が持つ長期的な視点と、現代社会が求める短期的な成果との間の深い矛盾を浮き彫りにしました。この議論は、研究分野の独創性、評価システム、そして次世代の人材育成といった多岐にわたるテーマに及び、会場の科学者や若手研究者からは惜しみない拍手が送られました。韓氏はまた、「共通認識の言葉は少なくても良い。むしろ思考のぶつかり合いが生まれることを期待する」と述べ、建設的な議論を促しました。
「新基石50²フォーラム」とは?
「新基石50²フォーラム」は、テンセントの持続可能社会価値事業部(SSV)、新基石科学基金会、そして南方科技大学が共同で主催しています。これは新基石科学基金会の年次学術会議として、5年連続で基礎研究や先端技術の各分野から科学者たちが集い、学術交流のためのプラットフォームを提供してきました。
今年のフォーラムは「科学技術革新が持続可能な発展を推進する」をテーマに、国内外の著名な学者、新基石研究員、テンセントが設立した「科学探索賞」の受賞者、そして各界の代表者ら約500名が参加。基礎研究、破壊的イノベーションをもたらす技術、そして持続可能な発展の間に存在する本質的なつながりについて深く議論しました。
若手科学者支援と評価システムの改革へ
韓啓徳氏の提言により、2025年からはフォーラムの円卓会議が「平方対話(スクエア・ダイアログ)」と改称されることが決定しました。これは、若手科学者の成長、研究環境の最適化、評価システム改革といった問題を中心に、平等で開かれた、実務的かつ建設的な議論を深めることを目的としています。今年の対話では「いかにして中国の独創的な科学研究レベルを向上させるか」が焦点となり、中でも「不合格なら即退場」に関する議論は会場全体の注目を集めました。
「退場」よりも「育成」を重視する声
北京脳科学・類脳研究センターの共同センター長で新基石研究員でもある羅敏敏教授は、評価サイクルを延長し、若手科学者が成果を出すための十分な時間を与えるべきだと提言しました。さらに、彼らが困難に直面した際に具体的な支援を提供することの重要性を強調しました。
清華大学教授で理学院院長、そして「科学探索賞」受賞者でもある王亜愚教授は、「退場」の議論よりも、むしろ「育成」に焦点を当てるべきだと主張しました。若手科学者に対して十分なサポートと指導を提供し、彼らが研究活動でより良い発展を遂げられるようにすることが重要だと述べています。
韓啓徳氏自身も、「退場」が必ずしも悪いことではないとしながらも、地域や大学によって状況が大きく異なるため、適応プロセスが必要だと指摘しました。「いかなる制度にもメリットとデメリットがある。だからこそ、多角的な検討が必要であり、それによってより多くの研究者が、独創的で時間のかかる、失敗のリスクも高い研究に取り組む意欲を持てるようになるでしょう」と語りました。
独創性を育む社会資金の役割
「新基石50²フォーラム」の主要な発起団体の一つである新基石科学基金会は、「独創性の奨励」という支援理念を掲げています。社会からの資金は、寛容度が高く柔軟性があるという利点を生かし、優れた科学者が安心して研究に没頭できるよう長期的に安定した支援を提供し、原始的なイノベーションを持続的に推進することを目指しています。
まとめ:持続可能な科学技術発展への示唆
中国の「新基石50²フォーラム」における議論は、基礎研究が直面する世界共通の課題を浮き彫りにしました。長期的な視点が必要な基礎研究に対し、短期的な成果を求めるプレッシャーは、特に若手研究者にとって大きな障壁となり得ます。中国では、テンセントのような民間企業が主導する基金が、こうした課題に対し、柔軟かつ長期的な支援を通じて独創的な研究を奨励しようとしています。
日本においても、基礎研究の重要性は認識されつつも、成果主義や短期的な評価が研究環境に与える影響は看過できません。中国の事例は、研究評価システムの改革、若手研究者への手厚い支援、そして民間資金の有効活用が、国の科学技術力向上と持続可能な発展のためにいかに不可欠であるかを示唆しています。今後の中国の取り組みが、世界の科学技術政策に与える影響に注目が集まります。
元記事: pedaily
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