中国のインターネット空間では、2023年8月、民生政策、自然災害、社会のホットスポットに関する虚偽情報やデマが蔓延しました。特に、AI技術を悪用したフェイクニュースや、巧妙な手口で個人情報を詐取する行為が多発し、社会秩序を著しく混乱させています。これに対し、中国当局は厳格な取り締まりと新たな規制導入で対応を強化。デジタル社会の信頼性と安全をいかに守るか、その最新の動きを深掘りします。
中国を揺るがすネット上のデマとAIの影
多岐にわたるデマの実態
8月の中国では、様々な種類のデマがインターネット上を駆け巡りました。例えば、「9月15日から『房東貸(大家貸し)』が開始される」という情報は、賃貸契約届出制度を曲解し、賃貸市場の秩序を乱すものでした。また、「医療保険新政策で退職者に毎月500元が返還される」といった虚偽の医療政策情報や、「育児補助金期限付き申請」といった個人情報を詐取する目的のデマも横行しました。
特に憂慮すべきは、AIを悪用したフェイクニュースの拡散です。AIによって捏造された「海南省に津波が押し寄せ、数十万人の上海市民が緊急避難」や「寧夏で特大洪水が発生し、家畜が甚大な被害」、「山西省で大雨により道路が浸水し車両が立ち往生」といった災害情報、あるいは「新疆・チベット地域で地震により死傷者と家屋損壊」といった虚偽の状況が、加工された災害動画や捏造された死傷者情報と共に拡散され、公衆のパニックを引き起こしました。
他にも、夏休み期間には観光関連のデマとして「内モンゴルの火山風景区に黄金がある」という偽情報で観光客を違法な採掘に誘導したり、世界ユニバーシアード(中国語では世運会)に関連して「スタッフ募集、保証金が必要」「内部チケット」「大師が代理で購入」といった詐欺行為も多発しました。
公共医療の分野でも、「ウコンは食べてはいけない」といった誤った健康情報や、一部の「自メディア」(個人のSNSアカウントやブログなど)が「漢方薬の点滴は血管を広げて脳卒中を予防」「アスピリンは洗髪や洗顔、花の育成に使える」といった、非科学的な医療情報を拡散。これらは病気予防にならないばかりか、健康に甚大なリスクをもたらすものでした。
当局の厳格な取り締まり
これらのデマや詐欺行為に対し、中国の国家インターネット情報弁公室(インターネット規制を管轄する政府機関)と公安機関(日本の警察に相当)は、専門チームを立ち上げて厳格な取り締まりを実施しています。偽情報の拡散やアカウントの処分を強化し、法に基づき多数の違法行為者を処罰しました。
具体的には、前述の「寧夏特大洪水」や「山西大雨」、「海南津波」、「ユニバーシアード募集」などのデマを捏造・拡散した者たちは、すでに法に基づき行政処罰を受けています。また、偽の退役軍人や中国科学院院士を名乗った羅某平という人物が、公安機関により法に基づき刑事拘留されるなど、悪質な行為に対しては刑事責任も追及されています。
AI生成コンテンツ規制の最前線
AI生成コンテンツ表示弁法の施行
デジタル社会の信頼性を守るための重要な一歩として、2023年9月1日からは、国家インターネット情報弁公室が策定した「人工知能生成コンテンツ表示弁法」が正式に施行されました。この弁法により、AIが生成したコンテンツは、目立つ位置にAI生成である旨の表示(ウォーターマークなど)が義務付けられます。
この新たな規制は、AIの悪用によるデマ拡散行為に対する強力な抑止力となることが期待されています。生成AI技術の進展に伴い、本物と見分けがつきにくい虚偽情報が簡単に作成できるようになる中で、情報源の透明性を確保し、公衆が情報の真偽を判断する手助けとなるでしょう。
まとめ:デジタル社会の信頼性維持への挑戦
中国におけるインターネット上のデマやAIを活用したフェイクニュースの蔓延、そしてそれに対する当局の強力な規制強化は、現代社会が直面する情報化時代の課題を浮き彫りにしています。AI生成コンテンツに対する表示義務化は、デジタルコンテンツの信頼性を確保し、社会秩序を維持するための画期的な取り組みと言えるでしょう。
情報が瞬時に世界中に拡散される現代において、虚偽情報が公衆衛生、経済、社会の安定に与える影響は計り知れません。中国のこの動きは、日本を含む他国にとっても、AI技術の倫理的な利用と、デジタル社会の信頼性をいかに構築していくかという点で、重要な示唆を与えてくれるはずです。私たち自身も、情報の真偽を見極めるリテラシーを高め、健全な情報社会の実現に貢献していく必要があります。
元記事: pconline