Home / テクノロジー / EV・モビリティ / フォルクスワーゲンID.4、米国で失速:生産削減と従業員一時帰休の背景

フォルクスワーゲンID.4、米国で失速:生産削減と従業員一時帰休の背景

Volkswagen ID.4, Electric Car - フォルクスワーゲンID.4、米国で失速:生産削減と従業員一時帰休の背景

米国におけるフォルクスワーゲン(VW)の電気自動車「ID.4」が、大きな逆風に直面しています。同社のテネシー州チャタヌーガ工場では、ID.4の生産台数がひそかに削減され、160人もの従業員が10月末から一時帰休に入る事態となりました。一時帰休中の従業員は基本給の80%と全額の福利厚生が保障されるものの、これはフォルクスワーゲンが米国市場で展開するEV戦略の苦境を如実に物語っています。海外テクノロジーメディア「Electrek」の報道によると、ID.4の販売台数が当初の期待を下回っていることが、今回の生産削減の直接的な原因とされています。

米国EV市場の逆風:フォルクスワーゲンID.4の苦境

フォルクスワーゲンにとって米国は重要な市場ですが、同社の生産拠点であるチャタヌーガ工場でのID.4生産調整は、単なる個別車種の問題に留まらない深刻さを示唆しています。この動きは、VWグループ全体の電動化への大規模な投資と、現在の市場の現実とのギャップを浮き彫りにしています。

さらに、VWグループCEOのオリバー・ブルーメ氏が、フォルクスワーゲンとポルシェの二つのブランドのトップを兼任していることで、労使関係の危機に瀕しているという報道も出ています。労働組合は彼にどちらかの職を辞するよう公に圧力をかけており、北米工場での減産から経営層の権力移行の噂まで、フォルクスワーゲンは電動化への転換とリーダーシップの安定という二重のプレッシャーに直面しています。

連邦補助金終了と激化する価格競争

テスラModel Yの強力な競合と目され、一時米国市場で好調を維持していたID.4ですが、その販売台数は急落しています。2023年には3万8000台を販売したものの、2024年には1万7000台にまで減少。2025年に入るとその勢いはさらに加速し、上半期の販売台数は前年同期比で19%減少、第2四半期に至っては65%もの大幅な落ち込みで、単四半期の販売台数は2000台を下回りました。

この急落の重要な転換点となったのが、連邦補助金の変更です。2025年1月には、ID.4は米国EV販売で四半期王者となるほどの人気でしたが、7500ドル(約110万円)の税額控除資格を失った途端、販売台数は急激に減少しました。

さらに厳しい状況が迫っています。トランプ前大統領が署名した「Big and Beautiful」法案により、全ての新エネルギー車に対する連邦補助金が9月30日をもって完全に終了する見込みです。生き残りをかけたフォルクスワーゲンは、月額リース料金を129ドル(約2万円)まで引き下げるという「骨折価格」戦略を打ち出し、全米で最も安価なEVリース車となりましたが、それでもこの急激な販売不振を食い止めることはできていません。

興味深い逸話として、自動車事業が泥沼に陥る中、フォルクスワーゲンの副業であるカリーヴルスト(ソーセージ)は、意外な売上を見せています。1973年以来、工場内で提供されてきたこのご当地グルメは、2024年に年間850万本を販売し、フォルクスワーゲンのグローバル自動車販売台数(約900万台)に迫る勢いです。しかし、これは同社の核となる自動車事業の収益が大幅に落ち込んでいる現状を覆い隠すことはできません。

iSeeCars.comの幹部アナリスト、カール・ブラウアー氏は、「9月30日に補助金が終了した後、米国EV市場のシェアはすぐに4%以下に低下し、2026年初頭には約4%で安定する可能性がある」と予測しており、これは現在の市場水準の約半分に相当します。

「国民車」の夢から利益蒸発へ:VWグループの財務状況

自動車が誕生した当初は富裕層の娯楽品でしたが、1937年にフェルディナント・ポルシェ氏が手がけた「国民車」(フォルクスワーゲン)という画期的なコンセプトが登場しました。ヴォルフスブルクの工場で生産が始まったフォルクスワーゲンは、冷たい鉄の機械を多くの家庭に届けることを誓いました。一つの工場から始まり、およそ1世紀にわたる試練を経て、フォルクスワーゲンは自らの伝説を築き上げ、世界の自動車産業の構図を根本から書き換えました。

しかし、「国民車」の夢から利益急落へと、フォルクスワーゲングループは今、最も厳しい時代を迎えています。2025年上半期の決算報告は、まるで重いハンマーで打ち付けられたような衝撃を与えました。グループの売上高は1584億ユーロと微減(0.3%減)に留まったものの、営業利益は32.8%減の67億ユーロにまで落ち込み、税引き後利益も38%減の44億7700万ユーロと大幅に蒸発しました。この利益減少の主な原因は、米国での輸入関税調整など、市場環境の変化に起因すると考えられます。

まとめ:EV市場の転換点とフォルクスワーゲンの未来

フォルクスワーゲンのID.4が米国市場で直面している苦境は、連邦補助金の終了と激しい価格競争が、EV市場の成長ペースに大きな影響を与えている現状を浮き彫りにしています。多くの自動車メーカーが電動化への道を突き進む中で、市場の需要予測と実際の販売状況とのギャップは、今後の戦略において避けて通れない課題となるでしょう。

米国EV市場は、かつての急成長期から、補助金に依存しない自立的な成長が求められる新たなフェーズへと移行しつつあります。フォルクスワーゲングループは、「国民車」というブランドの根幹を揺るがしかねないこの二重のプレッシャーの中で、いかにして電動化の未来を切り拓き、そのリーダーシップを安定させるのか、その動向は世界の自動車産業、ひいては日本の自動車メーカーの戦略にも大きな示唆を与えることになるでしょう。

元記事: pedaily

Photo by Ivan Glusica on Pexels

タグ付け処理あり:

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

AI特集

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

関連リンク

にほんブログ村 ニュースブログ ITニュースへ