「ソウルライク」というジャンル名を聞くと、多くのゲームファンは「高難易度」や「死にゲー」といったイメージを抱くのではないでしょうか。しかし、今回ご紹介するインディーゲーム『月下之癲』(Lunacid)は、その固定観念を鮮やかに打ち破ります。FromSoftwareの初期作品が持っていた「探索」と「雰囲気」に焦点を当て、高難易度ではない、しかし深遠な冒険体験を提供する本作の魅力に迫ります。
ソウルライクの源流へ:『Lunacid』が描く探索の美学
FromSoftware作品の代名詞といえば、その「高難易度」体験でしょう。初代『ダークソウル』の緻密なマップデザインや断片的な物語も評価されますが、やはり多くのプレイヤーが熱中するのは、困難な挑戦を克服した際の達成感です。しかし、実はFromSoftwareの初期作品、例えば『キングスフィールド』や『シャドウタワー』といったタイトル群にも、一歩一歩慎重に進む探索体験が共通して存在していました。
『Lunacid』の開発者は、まさにこのFromSoftware作品の「探索」と「雰囲気醸成」からインスピレーションを得て、より冒険の物語に重きを置いた体験を創造しました。本作はレトロな雰囲気を持つ3D「メトロイドヴァニア」ゲームで、その不気味なデザインは『シャドウタワー』を彷彿とさせます。2024年にはSteamで公式日本語版(元記事では「官中完全版」とありますが、日本国内では通常日本語も含まれてリリースされるため、そのように表現します)がリリースされ、多くの注目を集めています。
『Lunacid』の根幹にあるのは、「ソウル」シリーズの特徴的な高難易度戦闘を大胆に削ぎ落とし、探索体験そのものに全ての重心を置いた巧妙な転換です。ただし、このゲームの奥深さを味わうためには、PS時代を思わせるレトロなグラフィックと、あまり親切ではないゲームのヒントを受け入れる心構えが必要となります。迷宮で道に迷えば、時には挫折感を感じることもあるかもしれません。しかし、もしこれらの「硬派」な要素を乗り越えられれば、『Lunacid』はあなたに他にはない独特の魅力を提示してくれるでしょう。
迷宮「深井」:縦横無尽に広がる、奇妙で魅力的な世界
『Lunacid』の物語は、「深井」と呼ばれる地下世界で展開されます。魔法の動植物が生い茂る森、吸血生物が跋扈する古城、奇妙な深淵生物が徘徊する地下牢など、多種多様なステージが深井の奥深くへ秩序だって連なっています。
全体構造において、『ダークソウル』が強調する奥行きと往復が交錯する立体的な箱庭とは異なり、『Lunacid』の「深井」は、複数の横方向に展開する、小さくも緻密な回廊型ステージが複合した世界に近いでしょう。その遊びの深さは、それぞれの平面層における経路の巧妙な交錯と密度にあります。深井の探索中には、何度も「思わぬところに道が開ける」といった驚きや、ステージが多層的に変化する奥行きを体験できます。
この平面的な迷宮構造を基盤として、『Lunacid』は数多くの隠し扉を設置しています。その扉の先には、強力な武器やサイドクエストのヒント、あるいは全く新しいショートカットが隠されていることも。さらに、本作には多種多様な魔法が存在します。例えば、「棺桶術」を使えば、ステージ中に棺桶を生成し、それを足場にして高所へ進むことができます。また、「獣霊共鳴」の魔法を使えば、多種多様な非人間生物と会話でき、この奇妙な世界の秘密を少しずつ解き明かす手がかりとなるでしょう。
『Lunacid』のステージデザインは、「深井探索の物語」を語るという共通の目標のために緻密に練られています。各エリアは互いに繋がり、それぞれが分かりやすいユニットドラマを展開します。プレイヤーが関門の設計に導かれ、あるいは自発的な探索によって深掘りすることで、深井世界の奇妙な物語は徐々にその全貌を現していくのです。低音質なレトロサウンドも、各ステージの雰囲気を強く印象付け、想像力豊かなモンスターたちとともに、プレイヤーの心に残る体験を演出します。
クリエイターからの「探索のラブレター」:メタ要素が織りなす対話
一般的なゲームデザインの枠を超えて、本作の最も独特な魅力は、シングルプレイ体験の裏に、深遠な「メタ(Meta)」要素が巧みに埋め込まれている点にあります。これには、まずその開発背景に触れるべきでしょう。本作は主に制作者Akuma Kira氏が一人で完成させたインディーゲームであり、それゆえに極めて個人的な表現に満ちています。例えば、Kira氏が以前にホラーゲームを開発していたこともあり、『Lunacid』の探索内容もしばしばプレイヤーを「恐怖の源」へと誘います。
プレイヤーが最初の旅を終えると、「ここはまだ終わりではない」という文字が、ドリームコアフィルターのかかった現実の映像とともに現れます。これは明らかに、Kira氏が『Lunacid』に隠された多くの要素を見落としていることをプレイヤーに示唆しているのです。筆者が正式版をプレイしたのは発売から2年後でしたが、当時のプレイヤーコミュニティが、このメッセージに好奇心を刺激され、自発的にゲーム内の様々なコンテンツを探求したであろうことは想像に難くありません。私自身も最初の探索後、すぐにインターネットでゲームに関する情報を大量に調べ始めました。
この過程で私が体験したのは、自分とクリエイターとの特別な対話でした。Kira氏は数多くの隠しコンテンツを通じて、FromSoftwareゲームに対する彼自身のユニークな解釈を提示し、さらには「第四の壁を破る」ような表現や、深井の世界観をあえて逸脱するような形で、プレイヤーと「レトロゲームを巡る対談」を繰り広げます。ゲーム内と現実世界が繋がる、このような「メタ」な体験こそが、『Lunacid』の独特の魅力です。そして、このメタ体験はゲームの物語と強く結びつき、単なるレトロゲームの精神継承という枠を超え、クリエイターとプレイヤーの深い繋がりへと昇華させているのです。
まとめ
『Lunacid』は、「ソウルライク=高難易度」という固定観念を打ち破り、FromSoftwareの初期作品が持つ「探索」と「雰囲気」という本質的な魅力に焦点を当てた、極めて個性的なインディーゲームです。開発者Akuma Kira氏の個人的な表現と、ゲーム内外に仕掛けられた「メタ」な仕掛けは、単なるレトロゲームの復刻に留まらず、プレイヤーとクリエイターの間に新たな「対話」を生み出しています。
もしあなたが『ソウル』シリーズの精妙なステージデザインや神秘的な雰囲気に魅力を感じ、FromSoftware初期作品の「味」を知りたいと願うなら、『Lunacid』は現代のインディーゲームクリエイターの思考を通して、20世紀のレトロゲームが持つ独特の美しさを教えてくれるでしょう。これは、探索を愛する現代のプレイヤーたちへ贈られた、まさに「迷宮探索へのラブレター」と言える一作です。
元記事: chuapp
Photo by Cengiz Kudat on Pexels












