2026年3月25日、中国で開催された「ボアオ・アジア・フォーラム」の分科会「ヒューマノイドロボットの進化と飛躍」で、ロボット開発企業「星動紀元(Xingdong Jiyuan)」の創業者である陳建宇(Chen Jianyu)氏が登壇しました。陳氏は、ヒューマノイドロボットが「デモンストレーション」から「真の実用化」へと移行する上で直面する二つの大きな課題、すなわち「工業級のフルスタック能力」の確保と「モデルの汎用性不足」について深く掘り下げて解説。同時に、これらの課題を乗り越え、特に産業分野でロボットが「真の働き手」となる未来への確かな展望を示しました。本記事では、その議論の核心に迫り、日本のロボット産業への示唆を探ります。
ヒューマノイドロボット、ショーから「真の働き手」へ
陳建宇氏は、ヒューマノイドロボットが「パフォーマンスのための派手なデモンストレーション」の段階から「真に規模化された応用」へと進化する際の困難なポイントに焦点を当てました。業界の現状と星動紀元の取り組みを踏まえ、主要な課題を以下の二つのカテゴリーに分類して説明しています。
産業応用への二大課題:フルスタック能力と汎用性
第一の課題は「ロボットの工業級フルスタック能力」の要求です。
陳氏は、工業現場では「極めて高いサイクル効率と成功率(99%以上)、そして高い信頼性」が求められると強調しました。これは単に一度うまくいくだけでなく、「信頼性高く、持続的に、かつ低コスト」で実現できることが重要だと言います。この要求に応えるには、ロボットの能力をシステム全体で向上させる必要があります。
具体的には、「脳(リアルタイムな知覚フィードバックと迅速な意思決定)から小脳(制御)、さらに下層のハードウェア本体(部品、関節、サプライチェーンを含む)に至るまで、全てがシステム化されていなければならない」と陳氏は述べます。星動紀元は現在、ソフトウェアとハードウェアを一体化したフルスタックでの自社開発を進め、ヒューマノイドロボットにシステム化された能力を構築することに注力しています。
第二の課題は「モデルの汎用性不足」という業界のボトルネックです。
「ヒューマノイドロボットのChatGPTモーメントまではまだ距離がある」と陳氏は指摘します。特に家庭用ロボットがまだ普及していない最大の理由は、モデルの汎用性が不足しているためだと考えています。家庭環境は非常に複雑であり、各家庭で個別にデータを収集し学習させるリソースや、顧客の忍耐力には限りがあります。
陳氏が目指すのは、ChatGPTのように「全く新しい環境でも、任意の指示を与えるだけでゼロショット(新たなデータ収集や学習なし)で汎化できる」モデルです。新しいデータ収集や学習を必要とせず展開できることこそが、家庭用ロボット応用の究極の目標であると語りました。
実用化への展望と戦略:まずは産業分野から
多くの課題が存在するものの、陳建宇氏はヒューマノイドロボットの未来に対し、非常に前向きな予測を示しています。「この時間は長くかからないでしょう。私は5年から10年のうちに非常に良い成果が見られると確信しています」と述べました。
同時に、現在の技術レベルを考慮すると、物流や産業などの分野が優先的に実用化されるだろうと明言しています。「ChatGPT登場以前も、産業分野での応用を妨げるものではありませんでした。なぜなら、産業現場は完全に垂直統合され、標準化されているからです」と陳氏は説明します。
そのため、現在のモデルを基盤とし、一定のリソース(データと計算能力)を投入して、特定の重要なプロセスを確立すれば、「一度確立されたプロセスは数万、あるいは数十万もの現場に標準化して複製することが可能」となります。物流や産業分野は、星動紀元が現在の段階で重点的に取り組んでいる領域でもあります。
まとめ:日本のロボット産業への示唆
中国のボアオ・アジア・フォーラムで星動紀元の陳建宇氏が語った内容は、ヒューマノイドロボットの実用化に向けた明確な課題と、それを乗り越えるための戦略を示しています。特に、「工業級フルスタック能力」の構築と「モデルの汎用性」の追求は、日本のロボット開発企業にとっても共通の、そして喫緊の課題と言えるでしょう。
産業分野における標準化された環境を足がかりに実用化を進めるというアプローチは、家庭や複雑な環境での汎用ロボット実現への重要なステップとなる可能性があります。中国のロボットテック企業が示すこのような戦略は、日本のロボット産業がグローバル市場で競争力を維持し、次世代のロボット社会を構築していく上で、大いに参考になるのではないでしょうか。
元記事: pcd
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