最近、全天球カメラ市場に関する2つの調査レポートが業界内で大きな話題を呼んでいます。中国の主要企業であるInsta360(影石創新)とDJI(大疆)の市場シェアデータが大きく異なり、一体どちらが真実なのかと議論が巻き起こっているのです。この「データ論争」の背景には、統計基準の不統一や製品定義の曖昧さといった業界全体の課題が潜んでおり、激化する競争と市場の未成熟さが浮き彫りになっています。今回は、この興味深いデータ食い違いの真相に迫りながら、全天球カメラ市場の現在地と今後の展望を探っていきます。
全天球カメラ市場、Insta360とDJIのデータが食い違う!
最近、全天球カメラ市場に関する2つの調査レポートが発表され、業界に大きな波紋を広げています。それぞれFrost & Sullivan(フロスト&サリバン)と久謙中台(Qian Consulting)という異なる調査会社が発表したものですが、その中に示された中国の主要メーカー、Insta360(影石創新)とDJI(大疆)の市場シェアデータが大きく食い違っていたのです。
Frost & Sullivanが発表した『全球智能手持影像设备市场发展白皮書(グローバルスマートハンドヘルド映像デバイス市場発展白書)』によると、2025年第3四半期において、Insta360は全天球カメラ市場で75%という圧倒的なシェアを占め、DJIは17.1%でこれに続くとされています。
しかし、久謙中台が発表した『2025全年运动及全景相机市场研究报告(2025年通期スポーツ&全天球カメラ市場調査報告書)』では、同じ期間でDJIが43%、Insta360が49%と、両社のシェアが非常に拮抗しているという全く異なるデータが提示されました。この著しい差は、市場の真の姿を巡る探求をさらに加速させています。
データ食い違いの背景にある業界課題
統計基準と製品定義の不統一が原因か
この「データ論争」に対し、Frost & Sullivan側は、データが異なる主な原因は統計の基準(口径)と製品定義の標準が市場で統一されていないことにあると説明しています。スマートハンドヘルド映像デバイス市場が急速に発展し、製品のモデルチェンジが加速する中で、特定の用途や汎用的な製品に対する統一された定義が業界内で欠如している点が指摘されました。
これにより、各調査機関がリサーチを行う際に、製品の機能や用途に関する独自の解釈に基づいて分類ロジックに差が生じ、結果として販売量や売上高、市場シェアといった統計データに違いが生まれると分析されています。
Frost & Sullivanはまた、同社の調査が小売販売チャネルにおける実際の販売量に焦点を当てており、一部の機関が用いる上流出荷量とは異なることも、データ差異の一因だと強調しています。
久謙中台の言及と業界関係者の見解
一方、久謙中台はこの件に関して公式な見解を発表していませんが、レポート内には興味深い注釈があります。それによると、同社のデータは「消費者向け全天球カメラ」のみを対象としており、Insta360 GOのような「親指カメラ(アクションカメラの一種)」など、他のハンドヘルドスマート映像デバイスは含まれていないとのこと。
また、Insta360に関するデータは、過去の販売構造やECサイトのGMV(流通総額)トレンドに基づいた「推定値」であり、チャネル分布、プロモーション活動、新製品投入などの要因によって誤差が生じる可能性があるため、最終的なデータは上場企業の開示情報に準拠するとも記載されていました。
複数の業界関係者も、全天球カメラの分類に統一された基準がないことを認めています。「科方得智庫」の研究責任者である張新原氏は、全天球カメラ技術は急速に進化し、スポーツ全天球カメラ、消費者向け全天球カメラ、プロフェッショナルVR撮影機器など、製品形態が多岐にわたるため、明確な定義基準が不足していると述べています。
「晶様ブランドコンサルティング」の創業者である陳晶晶氏も、全天球カメラ自体が「境界線が曖昧なニッチカテゴリ」であり、調査機関ごとに製品タイプ、チャネル範囲、測定モデルが異なることが多いと指摘。今回のデータ食い違いは、サンプル定義、データ基準、サンプリング時間の不一致に起因するものであり、決して偽装を意味するものではなく、市場の複雑さと研究動機の必然的な産物であると分析しています。
市場は成長期、標準化が急務か
全天球カメラ技術自体は20世紀90年代にまで遡ることができますが、当時は機器が高価でかさばるため、プロフェッショナルな用途に限られていました。しかし、21世紀に入り、特にスマートフォンの普及と技術の進化に伴い、一般消費者市場へと本格的に浸透したのは比較的最近のことです。
Insta360とDJIは、この成長市場で激しい競争を繰り広げる中国を代表するテック企業です。今回のデータ食い違いは、市場が未成熟であることと同時に、今後さらなる発展を遂げるためには、業界全体で統一された製品定義や統計基準の策定が急務であることを示唆しています。
日本市場においても、全天球カメラの需要は高まっており、両社の製品は多くのユーザーに支持されています。このデータ論争は、ユーザーが製品を選ぶ際の指標となる情報への信頼性を揺るがす可能性もありますが、裏を返せば、それだけ市場が活発であり、競争を通じて製品のイノベーションが促進されるとも考えられます。今後の業界標準化への動きと、Insta360とDJIの競争の行方に引き続き注目が集まることでしょう。
元記事: pcd
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