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中国デリバリー大戦の衝撃:「秋のミルクティー」を巡る激闘の舞台裏

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中国のデリバリー市場で、今年も「秋の最初のミルクティー」を巡る壮絶な価格競争が繰り広げられました。美団とアリババ傘下の餓了么(Ele.me)系「淘宝閃購(タオバオシャングウ)」が巨額の補助金を投じ、ユーザーは実質無料で人気ドリンクを楽しめる一方、現場では注文殺到で店員や配達員が悲鳴を上げ、混乱が生じています。このデリバリー大戦は単なる価格競争に留まらず、中国の消費習慣を根本から変え、プラットフォームが市場を掌握する新たな段階へと突入しているのです。

「秋のミルクティー」商戦がデリバリー戦場に

「秋の最初のミルクティー(秋天的第一杯奶茶)」は、中国で立秋の時期に友人とミルクティーを贈り合うSNS文化として定着しています。しかし、2025年のこの商戦は、デリバリープラットフォーム間の熾烈な戦場と化しました。

無料でも手に入らない?現場の壮絶な実態

8月7日、午後の3時。ある企業のオフィスでは、同僚が美団の喜茶(Heytea)の共同注文リンクを送り、皆でミルクティーを注文しようとしました。しかし、わずか5分で「閉店」表示。別の店舗、さらに別の店舗と試すも、注文は次々と拒否されます。最終的に、4つの選択肢があった覇王茶姫(Ba Wang Cha Ji)も、画面上でリアルタイムに消滅し、注文は失敗に終わりました。

この日、中国全土の40万軒以上もの茶飲料店は、まるで最前線の拠点のようでした。二大デリバリープラットフォームの「指揮官」たちは、補助金とトラフィックを特定の店舗に集中させ、その店はすぐにオンライン注文システムから消えていくのです。店内では何百、何千枚もの注文票がプリンターから吐き出され、店員はマンゴーやレモンを切り、ミルクティーをシェイクする作業に追われます。午後には早朝から用意していた材料は底を尽き、増員されたスタッフも規定の作業手順を諦めるほど疲弊しても、注文をさばききれませんでした。

混乱は現場にも及びます。配達員と店員が口論になったり、ミルクティーを投げつけたりする動画がSNSで拡散されるほどです。さらに深刻なのは、配達員が急ぎの注文を解決するため、競合プラットフォームの配達袋を店の棚から無作為に掴み、ラベルを剥がして配達先に届けるという行為が横行していたことです。これは数年前からベテラン配達員が新人に教えていた「裏技」でしたが、今回の大戦で広範囲に利用されました。

プラットフォーム間の熾烈な攻防:美団の効率的防御とアリババの飽和攻撃

このデリバリー大戦で、美団とアリババ系の淘宝閃購(傘下の餓了么と連携)は明確な攻守の態勢を取りました。

  • 美団:効率的な防御
    美団は業界のデータインフラを長年構築してきた経験から、競合の動きを把握し、効率的な防御戦略を展開しました。7月下旬からは補助金を減らし、既存のデリバリー利用習慣があるユーザーに焦点を当てることで、最小限のコストで低価格イメージを維持し、補助金目当てのユーザーを追いかけることを諦める戦略です。過去のデリバリー戦争で培った「効率化」で競合のキャッシュを消耗させようとしています。
  • アリババ(淘宝閃購):飽和攻撃
    一方、淘宝閃購は規模拡大を追求し、潤沢な補助金で注文数を押し上げ、新規加盟店や配達員を獲得しようとしました。ある中規模チェーンの責任者は、「餓了么の営業担当者は予算上限がないようで、毎日多額の補助金付きイベントを提供してくれる」と語ります。淘宝閃購は7月以降、毎週土曜日の注文量が前年平均の4〜5倍に達し、ピーク時には1日で1億件を超える注文を記録しました。8月10日だけでも、ミルクティー関連の補助金に4億元(約80億円)を投じたと報じられています。彼らにとっては、一時的な赤字を顧みず、ピーク時の配送効率とユーザー体験を維持することが重要でした。

8月7日から24時間で、淘宝閃購と美団は合計で2.6億件を超える注文を処理し、これは昨年の2倍以上、過去最高を記録しました。立秋からの3日間で、両プラットフォームの総注文数は6億件を超え、その過半数が茶飲料とコーヒーでした。蜜雪(Mixue)は立秋当日だけで7500万杯のドリンクとアイスクリームを販売し、瑞幸咖啡(Luckin Coffee)も初日に2000万杯を売り上げ、多くの店舗で1日平均11秒に1杯を出すほどのハイペースで対応しました。

消費者習慣を書き換える「デリバリー大戦」の真実

今回のデリバリー大戦は、単なる期間限定のセールではありません。それは、中国の消費習慣を書き換え、富と苦労を再分配する大規模な「圧力テスト」です。

利益と引き換えの労働者へのしわ寄せ

プラットフォームは巨額の補助金を投じ、ユーザーに破格の低価格を提供することで、消費を加速させ、自身の支配力を強化します。しかし、その裏では、店舗スタッフや配達員といった現場の労働者が過酷な労働環境に置かれています。彼らはまるで機械の歯車のように働き、疲弊し、時には人間関係のトラブルまで引き起こしてしまう状況です。プラットフォームの成長は、このような現場の犠牲の上に成り立っている側面が否定できません。

ブランド企業が抱えるジレンマと補助金後の未来

多くの飲食店ブランドは、一時的に売上を大きく伸ばすことができました。しかし、この補助金頼みの状況は持続可能ではありません。消費者が「無料のミルクティー」に慣れてしまい、補助金がなくなれば購買意欲が低下するのではないか、という懸念を抱えています。実際に、一部のブランドでは、プラットフォームからの補助金が減少する兆候が見られ、加盟店は将来的な利益確保に不安を感じています。例えば、库迪咖啡(Cotti Coffee)は、プロモーション注文に対する保証の撤廃と補助金の削減を発表し、加盟店に衝撃を与えました。ブランド側は、プラットフォームの巨大なトラフィックを利用せざるを得ないものの、補助金後の収益構造に頭を悩ませています。

中国テック大戦の終着点と日本への示唆

2003年の淘宝(タオバオ)誕生、美団のデリバリー事業、滴滴(Didi)とUberの激戦。中国のインターネットプラットフォームはこれまで、数々の「補助金大戦」を経験し、その度に人々の消費習慣を大きく変えてきました。そして最終的には、プラットフォームが市場を支配し、巨額の利益を生み出しています。

今回の「秋のミルクティー」大戦も、その歴史の繰り返しです。勝利するプラットフォームは莫大な利益を手にし、敗者は市場から退場を余儀なくされます。そして、その過程で、消費者はより便利に、より安くサービスを利用できるようになりますが、その恩恵の代償として、市場の寡占化が進み、労働者へのしわ寄せが生じる構造が強化されます。

日本でもデリバリーサービスの利用が広がる中、中国の事例は他人事ではありません。テクノロジーの進化がもたらす利便性と経済成長の裏側で、社会的な公平性や労働環境、そして市場の健全な競争がどのように保たれるべきか。中国の壮絶なデリバリー大戦は、私たちに多くの示唆を与えていると言えるでしょう。

元記事: latepost

Photo by RDNE Stock project on Pexels

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