2024年末から2025年にかけ、中国のゲーム業界ではシューティングゲームがかつてない大繁栄期を迎えています。中でも注目されているのが、「捜索・戦闘・撤退」という3つの要素を核とする、いわゆる「脱出シューター」と呼ばれる新ジャンルです。テンセントの『Delta Force: Hawk Ops』がリリース1年未満でDAU(デイリーアクティブユーザー数)2000万を突破、『VALORANT』が同社PCゲームで収益トップに立つなど、その勢いは止まりません。なぜ今、このジャンルが中国で爆発的な人気を博しているのか?そして、ゲーム業界全体にどのような変化をもたらすのか、その深掘りをお届けします。
中国ゲーム市場を席巻する「脱出シューター」の衝撃
近年、中国ゲーム市場は目覚ましい成長を遂げていますが、特に2024年末から2025年にかけて、シューティングゲームの分野でかつてないほどの盛り上がりを見せています。このブームの立役者となっているのが、テンセント傘下の各タイトルです。
テンセント躍進の裏側:驚異のDAUを記録
テンセントのシューティングゲームは、軒並み驚異的な数字を叩き出しています。例えば、新作『Delta Force: Hawk Ops』は、リリースから1年足らずでDAU2000万を達成し、中国国内のデイリーアクティブユーザー数でトップ5、収益でトップ3に躍り出ました。『PUBG Mobile(中国版)』(和平精英)の「地下鉄脱出」モードはデイリーアクティブユーザー数3700万人を超え、前年同期比で30%以上増加。『VALORANT』に至っては、2025年第2四半期に過去最高のDAUを記録し、テンセントの国内PCゲームで最高の売上と収益を上げるタイトルとなりました。
この動きに呼応するように、莉莉絲(Lilith Games)やBilibiliといった他の大手パブリッシャーも、『Farlight 84』や『Escape from Duckov』など、次々とシューティングゲーム市場への参入を果たしています。
シューター市場大繁栄の鍵は「新しい遊び方」
シューティングゲームは、常に最新技術や革新的なゲームデザインを最も早く取り入れてきたジャンルです。そのブレイクスルーは、技術的な革新か、あるいは独創的な「新しい遊び方」の登場によって生まれるとされています。『Quake』がネットワーク対戦の潮流を作り、『Half-Life』が物語性のあるFPSを確立し、『Counter-Strike』が競技性を高め、『Overwatch』が「ヒーローシューター」を、『PUBG: Battlegrounds』が「バトルロイヤル」ブームを巻き起こしたように、新しい遊び方は常に市場の構図を一変させてきました。
そして今、AIやVRといった技術が次のブレイクスルーをもたらす前に、中国市場で成熟期を迎えたのが、今回ご紹介する「捜索・戦闘・撤退」を意味する「脱出シューター」という遊び方なのです。このジャンルの急速な隆盛は、「ヒーローシューター」の進化や「バトルロイヤル」のIP化だけでなく、「脱出シューター」の成熟と密接に関わっています。
「脱出シューター」とは何か?その進化の軌跡
「脱出シューター」の遊び方は、「物資を捜索する(搜)」「敵と戦闘する(打)」「戦利品を持って戦場から撤退する(撤)」という3つの核心要素で構成されています。
『Escape from Tarkov』から始まった「硬派」な遊び
この遊び方の「種」は、2016年に登場したロシアのゲーム『Escape from Tarkov』にまで遡ることができます。『Escape from Tarkov』は、そのリアルさを追求した硬派なゲームプレイが特徴で、物資を巡る緊迫感あふれるPvPや、一度失ったアイテムは戻らないという高リスクなシステムが、一部のコアなミリタリーファンを熱狂させました。
しかし、その複雑さや擬真性ゆえに、一般的なFPSプレイヤーには受け入れられにくく、『PUBG: Battlegrounds』のような爆発的なヒットには至りませんでした。2018年にようやくアクティブユーザー数が20万人を突破したものの、その魅力は長らく「小衆向け」に限定されていたのです。
大衆化への道:『PUBG』と各社の「意図的な改善」
では、なぜ9年もの時を経て、この「小衆向け」の遊び方が主流となったのでしょうか?ある業界関係者は、一連の「意図しない進化」と「意図的な改善」がこの状況を生み出したと分析しています。
「意図しない進化」とは、2017年に世界中で大ヒットした『PUBG: Battlegrounds』などのバトルロイヤルゲームの登場を指します。広大なマップでの物資収集、サバイバルルール、PvPといった要素を多くのプレイヤーが体験したことで、「脱出シューター」の基本的な要素に対する理解と許容度が飛躍的に向上しました。バトルロイヤルは、いわば「脱出シューター」への適応訓練のような役割を果たしたのです。
一方、「意図的な改善」とは、各メーカーがこの遊び方の「硬派さ」を段階的に緩和する努力を重ねたことを指します。例えば、テンセントの『Arena Breakout』やNetEaseの『Lost Light』、そして『Delta Force: Hawk Ops』といったタイトルは、「捜索・戦闘・撤退」の核となる体験は維持しつつも、擬真度を調整したり、撤退失敗時のペナルティを軽減したりすることで、より多くのプレイヤーが気軽に「物資漁り」の醍醐味を味わえるように工夫しました。
このように、「脱出シューター」は、小衆ジャンルとして確立された基盤を元に、継続的な発展と深掘り、そして段階的な大衆化への調整を経て、約10年の歳月をかけて2000万DAUを誇る人気ジャンルへと進化したのです。
プレイヤーを惹きつける「脱出シューター」の魅力と未来
「脱出シューター」の成功は、その高いゲーム開発コストから、国内外問わず大中規模のゲーム会社が中心となって市場を牽引しています。ソニー傘下のBungieが開発中のSFシューター『Marathon』、Kraftonの『Project Black Budget』、Embark Studiosの『ARC Raiders』といった海外の注目作も、この「脱出シューター」の要素を取り入れていることから、その影響力は世界中に波及していることがわかります。
「物資探索」と「戦闘」が生み出す二つの快感
なぜプレイヤーは「脱出シューター」にこれほど熱中するのでしょうか?このジャンルでは、プレイヤーは大きく2つのタイプに分かれる傾向があります。「ラット(Rat)プレイヤー」は、戦闘を避け、ひたすら物資を漁り、戦利品を持って生きて帰ることを目指します。一方、「戦闘重視のプレイヤー」は、高価な装備を持ち込み、他のプレイヤーを倒してマップを「一掃」することに喜びを見出します。
この2つのプレイスタイルは、「捜索」と「戦闘」という、それぞれ異なる種類の快感に基づいています。
- 「捜索」の快感:コンテナを開けるたびに「ガチャ」のようなドキドキ感があり、レアアイテムを見つけた時の喜びはひとしおです。物資を持ち帰り倉庫の価値が高まることは、MMOゲームで地道に稼ぐような、着実な達成感をもたらします。
- 「戦闘」の快感:敵を全て倒すという目標は、従来のFPSやバトルロイヤルに通じるPvPの爽快感を提供します。高価な装備を持ち込むことで優位に立てる一方、弱者に「下剋上」されるリスクもあり、スリルに満ちた体験がプレイヤーを惹きつけます。
シューターの枠を超えて広がる「脱出系」の可能性
「捜索」と「戦闘」という要素は、実はそれぞれを分解・再構築することが可能です。「どこで何を捜索するか?」「誰とどう戦うか?」という問いは、無数のゲームデザインの可能性を秘めています。この柔軟性こそが、「脱出シューター」がFPSの枠を超えて、多様なジャンルへと派生する原動力となっています。
例えば、Bilibiliが最近版号(中国でのゲーム配信許可)を取得した『Escape from Duckov』は、俯瞰視点シューターとして全く異なる戦略性を提供します。また、巨人網絡が運営するマルチプレイゲーム『Supernatural Investigation Team』では、「戦闘」要素、特にPvPを弱体化させ、「恐怖の雰囲気の中で物資を探索する」という側面に焦点を当てています。スウェーデンのSemiworkが開発中の『R.E.P.O.』も、大ヒットした協力型ホラーゲーム『Lethal Company(リーサル・カンパニー)』の要素と「脱出シューター」を融合させたものです。
さらに、『Fogbound Hunter』のようにファンタジーRPGと「脱出シューター」を組み合わせ、アクションゲームの要素を取り入れて戦闘方法を変化させた例や、『Legacy: Steel & Magic』のように、古典的な「タンク・ヒーラー・DPS」といったロールを持つキャラクターで荒野や城を探索する、西洋ファンタジー版「脱出シューター」(『Dark and Darker』類似)も登場しています。
ホラーサバイバル、パーティーゲーム、RPG、SOC(生存・脱出ゲーム)……「脱出シューター」の遊び方は、もはや特定のジャンルに留まることなく、あらゆるゲームデザインの可能性を広げているのです。
まとめ
中国市場で爆発的な人気を博している「脱出シューター」は、単なる一過性のブームに留まらず、ゲーム業界全体のデザイン哲学に小さな、しかし確実な一歩をもたらしています。『Escape from Tarkov』という硬派な原点から、『PUBG: Battlegrounds』の普及、そして各社の「大衆化」への試行錯誤を経て、約10年かけて成熟したこのジャンルは、プレイヤーに「探索の喜び」と「戦闘のスリル」という二重の快感を提供しています。
シューターの枠を超え、ホラー、RPG、協力プレイといった多様なジャンルへの浸透は、ゲーム開発者にとって新たな創造の可能性を示唆しています。日本市場においても、この「脱出シューター」の波がどのように広がり、どのような独自の進化を遂げるのか、今後の動向から目が離せません。この新しい遊び方が、次にどのような革新的なゲームを生み出すのか、期待せずにはいられないでしょう。
元記事: chuapp












