中国の巨大SNSであるWeChatとQQが、PCゲームプラットフォームSteamのアカウント連携機能を試験的に導入し、大きな話題を呼んでいます。すでにBilibiliやTapTapといった他の国内プラットフォームも同様の機能を進めており、「サイバー資産」とも称されるSteamのゲームデータに、中国のテック企業が熱い視線を注いでいることが伺えます。しかし、その実態はどのようなものでしょうか?本記事では、各プラットフォームの取り組みを比較し、その狙いや課題、そしてプレイヤーの反応まで深掘りしていきます。
中国大手SNSがSteam連携機能を導入
最近、中国の国民的SNSであるWeChat(微信)とQQが、Steamアカウントの連携機能を公開したとのニュースが飛び込んできました。具体的な操作手順は、WeChatでは「発見ページ」→「ゲーム」→「個人アカウント」からSteamにログインして連携を完了させます。一方、QQでは「ゲームセンター」→「マイページ」でSteam IDを入力するだけで連携が可能です。
現状はまだ「存在」するのみ?実用性への課題
しかし、実際に連携を試みたところ、機能はまだ発展途上のようです。連携成功後も、WeChatやQQのページにSteamのゲーム履歴などの基本データがすぐに表示されず、更新ボタンも見当たりませんでした。QQの公式ガイドに従って「Steamでゲームを起動すればプレイ履歴が確認できる」と試しても、しばらく待っても内容は更新されませんでした。他のユーザーの報告では、正常に連携できれば、Steamアカウントが保有するゲーム数、総プレイ時間、個別のゲームプレイ時間などが表示されるとのこと。しかし、これらのデータを「友人に共有する」といった積極的なソーシャル機能は、現時点では未実装のようです。今後のアップデートに期待が寄せられています。
先行する中国プラットフォームの動き
テンセント(WeChat、QQの運営元)が動く以前から、中国国内の他のプラットフォームでは類似の連携機能がすでに試みられていました。
Bilibiliの「小站」を通じた内測
今年7月には、動画共有サイトBilibili(ビリビリ)が公式アカウント「小站助手」を通じて『Steam連携FAQ』を発表し、Steamゲームデータの連携機能のβテストを開始しました。ユーザーはまずBilibiliが提供するコミュニティスペース「小站」(ユーザーが個人趣味に応じて作成・参加できるコミュニティ空間)に参加し、サイドバーから「マイゲームデータ」に入り、Steam連携プロセスを開始します。アプリ版とウェブ版の両方で対応していますが、現状は招待コードが必要な内測段階で、利用開始までには手間と時間がかかり、コミュニティもまだ活発とは言えません。
TapTapと小黒盒:より深化するゲーム特化型プラットフォーム
より体系的かつ深く連携機能を進めているのが、ゲーム配信プラットフォームのTapTapです。今年4月にSteam連携機能を正式リリースし、ユーザーはプレイ時間といった基本情報だけでなく、アカウントの価値やゲーム実績の確認、ウィッシュリストへの追加など、より詳細な操作が可能です。TapTapは連携キャンペーンでクーポンを配布し、コミュニティの活性化にも貢献しています。
TapTapと並んで、この分野でより早期から成熟した取り組みを見せているのが小黒盒(Xiaoheizi)です。プレイヤーはSteamアカウントと連携することで、特定のゲームにおけるボス討伐数や死亡回数といった詳細なゲーム情報を閲覧できるだけでなく、「プレイヤー属性分析」といったユニークなコミュニティイベントにも参加できます。これらの取り組みは、プレイヤー間で話題を喚起し、コミュニティでの議論や創作意欲を高め、ゲーマーの社交的欲求を満たすことに成功しています。
なぜSteam連携が進むのか?各社の狙いとプレイヤーの視点
世界最大のPCゲームプラットフォームであるSteamの中国語(簡体字)ユーザーは、Valveが今年2月に発表した調査報告によると、全体の50.06%に達し、英語ユーザーの2倍以上と圧倒的な存在感を示しています。これほど多くのコアゲーマーを抱えるSteamデータに、中国の各プラットフォームが注目し、戦略的な展開を進めるのは必然の流れと言えるでしょう。
しかし、各社がSteamアカウントデータに「興味」を持つ目的や方向性は、それぞれ異なるようです。
各プラットフォームの戦略の違い
一般的に、WeChatとQQは「知人との交流」を主軸としており、プレイヤー体験の観点からは、現状のSteamデータ連携は「自分のゲーム実績を友人に見せる」という展示のニーズを満たすことに重きを置いていると考えられます。
BilibiliはWeChatやQQと比較して、「知らない人や半知人との交流」の側面が強く、またゲームとの関連性も深いです。ゲーム関連コンテンツはBilibiliの重要な要素であるため、ユーザーがSteamアカウントを連携させることで、自己表現だけでなく、専門コミュニティでの交流や議論といった、より幅広い活用が期待されます。「小站」はその典型的な例です。
TapTapはテンセントやBilibiliよりも「垂直なゲーム専門プラットフォーム」であり、Steam連携機能の目的は小黒盒と類似しています。これは、PCゲーム分野における同社の戦略とも合致しています。
プレイヤーの「サイバー資産」と懸念
プレイヤーにとっては、異なるプラットフォームを通じて自分の「サイバー資産」や「ゲーム人生名刺」を展示できることは興味深い体験であり、ある種の帰属意識やアイデンティティの確立につながるかもしれません。しかし一方で、「成分調査」と呼ばれる現象、つまり、自分のゲームコレクションやプレイ時間がコミュニティ内で批判や攻撃の理由となることへの懸念も聞かれます。そのような状況になれば、多くのプレイヤーは「公開しない」設定をワンクリックで選択するようになるかもしれません。
まとめ:中国ゲーム市場の新たな動きと今後の展望
中国の巨大プラットフォームがSteamアカウント連携を推進する動きは、同国におけるPCゲーム市場の成熟と、プレイヤーのソーシャルニーズの多様化を反映していると言えるでしょう。現状ではまだ発展途上の部分も多いですが、今後は各プラットフォームがSteamデータを通じて、いかにユーザーエンゲージメントを高め、コミュニティを活性化させるかが鍵となります。
日本のゲームプレイヤーやプラットフォームにとっても、中国市場のこのダイナミックな変化は、今後のグローバルなゲーム展開を考える上で注目すべき動向です。プレイヤーのプライバシー保護と、コミュニティ活性化のバランスをどのように取るのか、各社の取り組みから目が離せません。
元記事: chuapp