中国の小売業界で注目される「胖東来(パンドンライ)モデル」。従業員満足度と顧客体験を重視するこの経営手法は、多くのスーパーマーケットの改革の指針となっています。しかし、その導入は必ずしも成功を約束するものではないようです。中国スーパー大手の永輝超市が2025年度の業績予想で、まさかの赤字転落を発表しました。一方で、同じく「胖東来」モデルを取り入れた他の企業は、目覚ましい業績回復を見せています。この明暗は一体どこから来るのでしょうか?中国流通業界の光と影を深掘りします。
「胖東来」改革の衝撃:中国流通業界の新たな波
「胖東来(パンドンライ)」は、中国河南省許昌市を拠点とする革新的なスーパーマーケットチェーンです。彼らが提唱する経営モデルは、従業員への手厚い待遇、高品質な商品ラインナップ、そしてユニークで心地よい顧客体験を追求することで知られ、中国国内の小売業界に大きな影響を与えています。多くの企業がこの「胖東来」の成功に学び、「胖改(パンドンライ式改革)」と呼ばれる経営改善運動に乗り出しています。
この改革の波は、古くからある中国の伝統的な小売企業に新たな息吹を吹き込むと期待されてきましたが、その成果は企業によって大きく異なることが明らかになっています。
改革の光と影:永輝超市の苦戦と他社の成功
大規模改革に挑む永輝超市、まさかの赤字転落
中国スーパー業界で最大規模を誇る永輝超市(601933.SH)は、2025年度の業績予想で純利益がマイナスとなる見通しを発表しました。財務部門の初期試算によると、通期の純利益は赤字となり、経営成績は損失に直面するとのことです。
永輝超市は「胖東来に学ぶ」大規模な改革プロジェクトを2024年5月から開始し、2025年第3四半期末までに222店舗の改装を完了しました。南京の旗艦店など一部店舗では、改装初期に売上と客数が顕著に増加したものの、企業全体の転換プロセスは依然として大きな課題に直面しています。
2025年第3四半期までの財務データによると、永輝超市の営業収入は424.34億元(約8,900億円)で、前年同期比22.21%減。上場企業株主に帰属する純損失は7.1億元(約149億円)に達し、特に第3四半期単独では4.69億元(約98億円)の純損失を計上しています。会社側は、業績悪化の主な原因を「店舗改装プロセスにおける商品構成と仕入れモデルの積極的な最適化」によるものと説明しています。
「胖東来」モデルで躍進する他社事例
永輝超市の苦戦とは対照的に、「胖東来」モデルを導入した他の小売企業からは目覚ましい成果が報告されています。
- 歩歩高(ブーブーガオ、002251.SZ): 「胖東来」からの直接支援を受けて2024年4月に改革を開始し、2025年9月までに全20店舗の改装を完了。ピーク時に8店舗だった「億元店」(年間売上1億元超の店舗)が19店舗に増加し、経営品質の大幅な向上が実現しました。2025年第3四半期には、営業収入31.94億元(約670億円)、純利益2.38億元(約50億円)を計上しています。
- 嘉百楽(ジャーバイラー): 江西省上饒の地域小売企業である嘉百楽は、2023年6月に「胖東来」チームの指導を受け、9ヶ月の改装を経て日平均売上高を改装前の2倍以上となる30万元(約630万円)超に安定させました。
- 匯嘉時代(フイジアシーダイ、603101.SH): 新疆ウイグル自治区の小売大手である匯嘉時代は、2024年から「胖東来」の経験を学び、自主的な改革モデルを採用。2025年6月には全面的な改装を推進しました。特に北京路店は改装後の開業初日に売上高が244万元(約5,100万円)を突破し、前年比286%増という驚異的な成長を見せています。2025年第3四半期には、純利益1336.43万元(約2.8億円)で前年比48.23%増、非経常損益控除後の純利益は1095.78万元(約2.3億円)で同186.93%の大幅増を達成しました。
- 物美集団(ウーメイジートゥアン): 同時期に改革を開始した物美集団の経営陣は、改装店舗の日平均売上高と客数が改装前と比べて50%から300%も向上したことを明らかにしています。
「胖東来」自身の成長と経営哲学
「先生」役を務める胖東来自身も、その経営手腕は健在です。2022年から2024年の販売額はそれぞれ約70億元、107億元、170億元と持続的な高成長を維持しています。2025年3月には董事長の于東来氏が、従業員の過重労働を防ぎ企業の価値観を守るため、年間販売目標を200億元以内に抑えると表明しました。
しかし、公式サイトのデータによると、2025年の実際の販売額は235.31億元(約4,940億円)を突破し、前年比約38%増を記録。うちスーパー事業は126.43億元、宝飾品事業は24.51億元、百貨店事業は23.79億元と、依然として好調を維持しています。
まとめ:改革は万能薬ではない、本質を見極める視点
今回の永輝超市の赤字転落と、他の小売企業の成功事例は、「胖東来モデル」が決して万能薬ではないことを示唆しています。大規模な改革には、それに伴うコストやリスク、そして経営転換期の混乱がつきものです。
成功の鍵は、単に他社のモデルを模倣するだけでなく、自社の状況に合わせたカスタマイズ、そして改革を支える経営陣の本気度と従業員への深い理解にあると言えるでしょう。特に永輝超市のように、広範囲かつ急進的な改革は、商品供給チェーンの再構築や企業文化の変革に時間がかかることを浮き彫りにしました。
中国の流通業界におけるこのダイナミックな動きは、日本の小売企業にとっても示唆に富んでいます。顧客体験の向上、従業員のエンゲージメント、そして変化に対応できる柔軟な経営体制こそが、これからの時代を生き抜くための重要な要素となるのではないでしょうか。
元記事: pcd
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