中国を代表するクラウドプロバイダー、アリババクラウドが、AIエージェント時代を牽引する新たな戦略と製品群を発表しました。杭州で開催された「2026アリババクラウドサミット」では、自社開発の高性能AIチップ「真武M890」の登場、フラッグシップ大規模モデル「Qwen3.7-Max」の世界トップレベルの性能、そしてAI製品の新しいポータルサイト「千問雲」の開設など、注目すべき発表が目白押し。チップからモデル、エコシステムに至るまで、AIインフラの全スタックを再構築し、次の10年を見据えるアリババクラウドの最新動向を詳しく見ていきましょう。
アリババクラウド、AIエージェント時代へ全スタック再構築
クラウドコンピューティングの世界では、AIエージェントが牽引する革新が静かに進行しています。この変革の波の最前線に立つのが、中国の巨大テック企業アリババグループ傘下のアリババクラウドです。同社は、AIエージェントの時代に対応するため、基盤となるチップから大規模言語モデル、そしてエコシステム全体に至る「全スタック」技術体系の再構築を完了したと発表。これは、アリババクラウドが今後10年間の発展を見据えた、極めて戦略的な布石と言えるでしょう。
先日、杭州で開催された「2026アリババクラウドサミット」では、この新戦略を裏付けるかのように、一連の画期的な製品とパートナーシップが披露されました。特に注目されたのは、自社開発AIチップ、大規模言語モデル、そしてAIエコシステムの三位一体でのブレークスルーです。
自社開発AIチップ「真武M890」の実力
クラウドコンピューティングの根幹を支えるのがチップです。アリババクラウドは、自社半導体部門「平頭哥(T-Head)」を通じて、その強力な研究開発能力を今回も示しました。
今年1月には、高性能AIチップ「真武810E」を公式リリースしたばかりですが、わずか4ヶ月後には、さらに新世代の推論一体型AIチップ「真武M890」が発表され、会場を驚かせました。このM890は、144GBもの大容量メモリを内蔵し、チップ間相互接続帯域幅は毎秒800GBに達します。その性能は、前世代と比較して最大3倍も向上しており、FP32(単精度浮動小数点数)からFP4(4ビット浮動小数点数)までの全精度データ計算に対応することで、高精度な学習から低精度な推論まで、あらゆるAIシナリオの需要をカバーできるとされています。
T-Headの副社長である高慧透氏によると、「真武」シリーズチップの累計出荷量はすでに56万枚に達し、以前公開された45万枚から大幅に増加しています。これらのチップは、中国電信、中国一汽(第一汽車)、浦発銀行など、20以上の業界で400社以上の顧客に導入されており、その計算能力の60%以上が外部の商業化プロジェクトで活用されているとのことです。
アリババグループCEOの呉泳銘氏は、国内の半導体生産能力の制約があるため、T-Headチップのアリババクラウド内での採用比率はまだ低いとしながらも、生産能力の拡大に伴い、「全スタック」自社開発チップの浸透率が大幅に向上し、利益率改善に貢献すると強調しました。
今回のサミットでは、「真武M890」を基盤とした128枚カード搭載の超ノードサーバーも発表されました。これは、独自開発の相互接続チップ「ICN Switch 1.0」を搭載し、通信遅延をナノ秒レベルにまで短縮することに成功。これにより、AIエージェント時代に求められる並列推論や大規模モデル学習の厳格な要件を十分に満たすことが期待されています。
世界レベルの大規模モデル「Qwen3.7-Max」
チップが「土台」なら、その上で動く大規模言語モデル(LLM)は「エンジン」です。アリババクラウドは、新世代のフラッグシップモデル「千問(Qwen)3.7-Max」を発表しました。
このモデルは、第三者評価機関「Arena」によるグローバル大規模モデルのブラインドテストにおいて、Kimi-K2.6やDeepSeek-v4-proといった中国国産の競合モデルを上回り、GPT、Claude、Geminiなどの国際的なトップモデルと肩を並べる性能を実証しました。
アリババグループ通義(Tongyi)大規模モデル事業部の責任者である周靖人氏は、「Qwen3.7-Max」の核心的な優位性は、その自律作業能力にあると力説しています。なんと35時間もの長時間のタスクを自律的にこなすことが可能で、自律的な計画立案、継続的な反復学習、そして複数のツールを跨いだ協調作業能力を備えているとのこと。これにより、真にAIエージェントのインテリジェントな中核となるモデルとして位置づけられています。
AIエコシステムと新プラットフォーム「千問雲」
チップを「地盤」、モデルを「エンジン」とするならば、アリババの大規模モデル開発・サービスプラットフォーム「百錬(BaiLian)プラットフォーム」は、AIインテリジェントエージェントを現実のものとするための重要な結節点となります。
今回のサミットでは、百錬プラットフォームの全面的なオープン化が宣言され、月之暗面(Moonshot AI)、Minimax、智譜(Zhipu AI)など、中国を代表するAI企業6社との協力関係が構築されました。これにより、オープンなAIエコシステムが共同で構築され、AI技術のさらなる発展と普及が加速されることでしょう。
アリババは以前、今後5年間でAIインフラ分野に3800億元(約8兆円強)以上を投資し、チップの自律性を高めて外部依存を減らし、モデルのイテレーション(反復改善)を加速する方針を示していました。今回のチップ自社開発からモデルの性能向上、そしてエコシステムのオープン化に至る戦略的布陣は、アリババクラウドが目指す利益目標達成の重要な道筋となる可能性を秘めています。
サミットのもう一つのハイライトは、アリババクラウドが新たに発表したAI製品の公式サイト「千問雲(Qianwen Cloud)」です。このプラットフォームは、「AI Agentのために生まれた全スタックインテリジェントインフラ」と銘打たれ、アリババクラウド設立17年の歴史の中で、公式サイトとは別に独立して構築された初の製品プラットフォームとなります。
「千問雲」のトップページは非常にシンプルで、たった1行のプロンプト入力ボックスのみが配置されています。しかしその裏側では、「Qwen」「GLM」「Kimi」といった150以上の主流モデルが統合されており、ユーザーはシームレスに様々なAIモデルを活用できる環境が提供されています。
まとめ:アリババクラウドの「AIエージェント」戦略が拓く未来
アリババクラウドが今回のサミットで示したのは、AIエージェント時代をリードするための揺るぎない決意と、それを実現する具体的な技術ロードマップです。
自社開発の高性能AIチップ「真武M890」でハードウェアの基盤を固め、世界トップレベルに匹敵する大規模モデル「Qwen3.7-Max」でインテリジェントな頭脳を提供し、さらに「百錬プラットフォーム」と「千問雲」を通じてオープンなエコシステムを構築する――この「チップ、モデル、エコシステム」の全スタック戦略は、アリババクラウドがAI競争において主導権を握り、次の成長ステージへと移行するための重要な推進力となるでしょう。
中国国内の巨大市場を背景に、アリババクラウドがAIインフラへの大規模投資を継続し、自律的な技術開発を加速させることは、グローバルなAI技術競争全体に大きな影響を与えます。日本企業にとっても、中国市場におけるAIサービスの進化や、アリババクラウドが提供する先進的なAIソリューションの動向は、ビジネス戦略を練る上で見逃せない要素となるはずです。
AIエージェントが私たちの働き方やビジネスを大きく変革する未来において、アリババクラウドの動きは、その変化の速度と方向性を示す重要な指標の一つとなるでしょう。
元記事: pcd












