中国の大手フルーツチェーン「百果园(バィグォユエン)」が、会長の衝撃的な発言によって厳しい逆風にさらされています。「消費者を教育している」という言葉は瞬く間に炎上し、かつて「フルーツ刺客」とまで呼ばれた高価格戦略は、今や消費者の信頼を失い、株価急落と大幅な赤字を招いています。一体何が起きているのでしょうか? 高品質を謳いながら、なぜ消費者は百果园に背を向け始めたのか。中国市場で顕在化する「消費降級」トレンドの中、ビジネスの根幹を揺るがす信頼の危機に直面する百果园の現状を深掘りします。
百果园、「消費者教育」発言が招いた信頼の危機
「市場は『教育者』には報わず、『奉仕者』にのみ敬意を払う」。この言葉を裏付けるかのように、百果园董事長(会長)の余惠勇氏による「長年、消費者が成熟する道を教育してきた。消費者に迎合せず、真の価値を伝え、最終的には消費者が選択する」という発言は、瞬く間に「炎上」しました。
この発言の背景には、百果园が掲げる「高価格=高品質」の哲学がありました。余氏は「安いフルーツは供給過剰だが、本当に良いフルーツは供給不足であり、それが高価な理由だ」と主張し、数千万人の会員が百果园の価値を理解していることが、同社の存続基盤だと豪語しました。しかし、この「消費者教育学」とも言える上から目線の態度は、消費者からの猛反発を招きます。「学校で先生に、家で親に、職場で上司に教育されてきたのに、消費者になってもまだ教育されるのか!」というネットユーザーの声は、多くの共感を呼びました。
情報が透明化し、消費者の購買力が向上した現代において、消費者はもはや「教育される」受動的な存在ではありません。彼らはより手軽に価格比較ができ、豊富な選択肢の中から、自身の価値判断に基づいて商品を選ぶことができます。百果园の傲慢ともとれる姿勢は、ブランドが築き上げてきた「高級感、プロフェッショナル、信頼性」というイメージを根底から覆し、消費者を敵に回してしまいました。
この発言が報じられた当日、百果园の株価は6.86%急落し、時価総額は上場来高値から70%以上も蒸発しました。余氏は「高品質には高価格が伴う」と弁護しましたが、現実には、2023年に杭州で「団購券(共同購入クーポン)を使った客は安物買い」と店員に揶揄された事件、子会社が農薬基準超過で罰金を受けた事件、そして2024年の「3.15消費者権益保護の日」に腐敗したフルーツの使用やチェリーの等級偽装が暴露された事件など、百果园のシステム的な品質管理の欠陥が繰り返し露呈してきました。消費者が高い対価を払っても、それに見合う安定した高品質体験を得られていない現状が、「教育論」に対する怒りの火に油を注いだ形です。
「消費降級」と激化する市場競争、業績の悪化
価格競争に敗れる高価格戦略
余氏の強気な発言の裏には、百果园が置かれた厳しい市場環境があります。中国では現在、「消費降級」と呼ばれる、よりコストパフォーマンスを重視する消費トレンドが加速しています。国家統計局のデータによると、2024年の社会消費財小売総額の成長率は3.1%に鈍化しており、特に選択的消費の落ち込みが顕著です。
生鮮食品市場では、コミュニティ共同購入や即時配達プラットフォームが「翌日配達」「1時間配達」といったサービスで、従来の小売空間を急速に侵食しています。街角にあふれる手頃な価格のフルーツ店や、低価格戦略を打ち出すオンライン生鮮プラットフォームが、百果园の市場シェアを容赦なく奪っています。消費者が他のチャネルでより安価に同等、あるいは十分な品質のフルーツを購入できるようになったことで、百果园の実店舗は客足と客単価の双方で打撃を受けました。
止まらない赤字と店舗閉鎖の波
市場の逆風は、百果园の財務状況に如実に表れています。2024年の百果园の営業収入は102.73億元で、前年比9.8%減と、2001年の創業以来初のマイナス成長を記録しました。さらに衝撃的なのは、2023年に3.62億元の黒字だった純利益が、2024年には3.86億元の赤字に転落したことです。粗利率も2023年の11.5%から2024年には7.4%へと大きく減少しています。
百果园の収入の7割以上を占める加盟店の売上も、2023年の85億元から2024年には74億元へと減少しました。これに伴い、2023年末から2024年末にかけて、百果园の店舗数は966店も純減し、1日平均2.6店舗が閉店している計算になります。余氏が「百果园の切り札」と称した会員数も、総会員数は増えたものの、有料会員数は2024年に約85万人と、前年比27.1%も減少しました。
2024年初めには、「今後10年で売上高を100億元から1000億元へ、店舗数を1万店以上にする」と強気な目標を掲げていた余氏ですが、その舌の根も乾かぬうちに、百果园は創業以来最大の苦境に立たされています。
「フルーツ刺客」は「アイスクリーム刺客」の二の舞か?
百果园が現在直面している危機は、かつて中国の「アイスクリーム刺客」として名を馳せた高価格帯アイスクリームブランド「鍾薛高(ジョンシュエガオ)」の崩壊経路と驚くほど似ています。鍾薛高もまた、創業者の林盛氏が「原価40元なら66元で売って当然」「欲しければ買えばいい」と豪語するなど、百果园の「教育論」と共通する傲慢な姿勢が問題視されていました。
鍾薛高はオンラインで人気を集め、50元以上の高単価アイスクリームを次々と投入。しかし、「火であぶっても溶けない」という成分偽装疑惑が発端となり、その後も品質問題や消費者の信頼失墜が続き、資金繰りが悪化しました。現在、鍾薛高食品(上海)有限公司は複数回にわたり高額消費制限を受け、信用失墜者リストに掲載されています。未履行の債務は2572万元を超え、創業者である林盛氏自身も債務返済のため、昨年5月からライブコマースを開始する事態に追い込まれています。今年6月には、子会社がサプライヤーから破産申請されるなど、まさに末期的な状況です。
鍾薛高が成分偽装疑惑で崩壊したように、百果园もまた、腐敗したフルーツの使用、農薬基準超過、劣悪なサービスといったシステム的な品質管理の欠陥が、ブランドの「信頼資本」を食い潰しています。かつて「高品質」を謳い、高付加価値を追求した両社ですが、そのストーリーが実際の品質によって裏付けられなくなった時、消費者は容赦なく離れていきました。
まとめ:信頼こそがブランドの生命線
百果园の事例は、中国市場におけるビジネスの厳しさと、消費者との関係性の変化を鮮明に浮き彫りにしています。一時的な利益を追求したり、傲慢な態度で消費者に接したりすることは、長期的なブランド構築において致命的な打撃となります。
特に「消費降級」がトレンドとなる中、企業は単に高品質を謳うだけでなく、価格に見合った確かな品質と、透明性のある情報提供、そして何よりも誠実な顧客対応を通じて、消費者の信頼を粘り強く築き上げることが不可欠です。中国のビジネス環境の変化は、日本企業にとっても貴重な示唆を与えています。消費者の声を真摯に聞き、彼らの期待に応え続ける「奉仕者」こそが、厳しい市場を生き抜くブランドの真の強さとなるでしょう。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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