中国で今、親が築き上げた家業を継ぐ若き「二代目」たちが、ショート動画やVlogの世界で新たな潮流を生み出しています。彼らはただ事業を継ぐだけでなく、自らがインフルエンサー「網紅(ワンホン)」となり、SNSを駆使して家業の魅力を発信。伝統と革新を融合させたその戦略は、既存のビジネスモデルに新風を吹き込み、驚くべき成果を上げています。一体どのような背景があり、どのような手法で成功を収めているのでしょうか?
中国で加速する「二代目インフルエンサー」ブーム
近年、中国のDouyin(抖音、TikTokの中国版)やXiaohongshu(小紅書、ライフスタイル共有プラットフォーム)、WeChat Video Accounts(視頻号)といったソーシャルメディアプラットフォームで、特定のアカウントが急増しています。それは「二代目」(原文では便宜上「二代目」とされていますが、実際には三代目や四代目も含むことが多いです)と呼ばれる、企業の若き後継者たちによるVlogです。彼らは「留学からの帰国、家業の継承」をテーマに、自らの事業承継の日常や、家業への思い、奮闘ぶりを共有し、次の「毛巾少爺(タオル坊ちゃん)」になることを目指しています。
なぜ今、この動きが加速しているのでしょうか。多くの二代目が、成功するソーシャルアカウントが自身の事業承継における重要な助けになると信じているからです。Douyinのデータツール「新抖(シンドウ)」の統計によると、「二代目」というキーワードで検索すると5000以上、「工場二代目」では少なくとも1413の関連アカウントが見つかります。動画を制作し、IP(知的財産)を構築してインフルエンサーとなることは、今や二代目たちにとってのスタンダードになりつつあります。
成功事例:「タオル坊ちゃん」に見る個人のIP構築とビジネス効果
このブームを象徴する成功事例の一つが、中国の有名タオルブランド「潔麗雅(ジエリーヤー)」の二代目、「毛巾少爺(マオジンシャオイエ)」、直訳すると「タオル坊ちゃん」です。彼は自作自演のショート動画シリーズ「毛巾帝国劇場版」で、Douyinのフォロワーを100万人以上に増やしただけでなく、自社ビジネスにも大きな貢献をしました。昨年618セール期間中には、Douyinでの初のライブコマースで4時間で542万元(当時のレートで約1億1000万円)のGMV(流通取引総額)を達成し、その夜のDouyinライブコマース全体のトップに輝いたのです。
「毛巾少爺」の成功は、多くの二代目に希望を与えました。経営者自身には時間がない、またはインフルエンサー活動に適さない場合でも、その子供たちが代わりに活躍できるという新たな可能性を示したのです。これに続き、「麻辣儿(マーラー坊ちゃん)」など、好利来(Holiland、ベーカリー)、潔麗雅(Jieliya、タオル)、特歩(Xtep、スポーツ用品)といった有名企業の二代目に加え、「鋳鉄姫」「温水ポンプ千金」「水筒小胡総」「銀飾り少爺」といった工場系の二代目たちも次々とインフルエンサー活動を開始しています。化粧品ブランド「林清軒(L’OCCITANE Chinaの創業者ファミリーが立ち上げたブランド)」は、海外留学中の「小孫総」「布総Bruce」「私を小丹丹総と呼ばないで」といった複数の二代目を呼び戻し、「林清軒ファミリー二代目マトリックス」を形成するまでになりました。
「承継Vlog」が秘める魅力とビジネスの可能性
では、これらの二代目たちは一体どのようなコンテンツを発信しているのでしょうか。最も一般的なのは、自身の事業承継Vlogです。二代目とはどのような人々で、彼らの生活はどのようなものなのか、彼らは無事に事業を継承できるのか――。視聴者の根源的な好奇心が、これらの承継Vlogを自然にバズらせる原動力となっています。
例えば、「若一(承継版)」というアカウントは、「95後浙江滬娘の家業承継」シリーズ動画で全ネットで44万人以上のフォロワーを獲得しました。動画では、「高エネルギーの一日」という人気のフォーマットを借り、情熱的な「雷軍進行曲(XiaomiのCEO雷軍氏の有名なスピーチ音源)」をBGMに、自身の承継の日常をテンポ良く映し出しています。このシリーズはDouyinだけで7032万回以上再生されています。また、「庫斯家居(COUSS Furniture)」の二代目もアカウント名を「王酷酷承継日記」と変更し、自身の承継の様子をドキュメンタリー風に記録しています。
このようなVlogは、単に個人の生活を公開するだけでなく、企業の製品や製造プロセス、ブランド哲学を間接的に、しかし非常に効果的に伝える役割を果たしています。二代目自身がコンテンツとなることで、視聴者はブランドに対する親近感や信頼感を抱きやすくなり、それが最終的に購買行動へとつながるのです。
まとめ
中国で盛り上がりを見せる「二代目インフルエンサー」現象は、単なるPR活動を超え、企業ブランディング、顧客とのエンゲージメント強化、そして新たな販売チャネルの確立に貢献しています。従来の広告手法が飽和する中で、経営者や後継者自身の個性やストーリーを前面に出す「パーソナルIP」戦略は、消費者との信頼関係を築く上で非常に有効です。これは日本の伝統企業や中小企業にとっても、事業承継とマーケティングを両立させる新たなヒントとなり得るでしょう。親世代の築き上げたビジネス基盤と、若手世代のデジタルネイティブな感覚が融合することで、どんな未来が拓かれるのか、今後の動向に注目していきたいですね。
元記事: pedaily
Photo by RDNE Stock project on Pexels