中国ライブコマース界のカリスマ的存在である董宇輝氏が、かつて所属していた「東方甄選」を離れ、自身のブランド「与輝同行」を立ち上げてから、その勢いは止まることを知りません。羅永浩氏による衝撃の年収発言から、株価の乱高下、そして驚くべき売上実績まで、両社の激しい競争と今後の展望に迫ります。日本のビジネスパーソンも注目すべき中国テック企業の最新トレンドをお届けします。
中国ライブコマース界の「ドン」を巡る激震
羅永浩氏が放った衝撃発言から始まった、董宇輝氏と「東方甄選」の最新動向を深掘りします。彼の独立が、いかにして中国のライブコマース市場に大きな波紋を広げたのでしょうか。
羅永浩氏の「年収20~30億元」発言の真偽
「与輝同行」立ち上げ後、董宇輝氏の年収が「20億~30億元(約430億~645億円)」に達するという羅永浩氏のSNS投稿が話題となりました。これに対し、「与輝同行」側は「不正確な情報」と即座に否定しました。過去にも同様の「ネットセレブ収入ランキング」が拡散されましたが、董宇輝氏本人が「デマに振り回されるのは大変だ」と苦笑いしながら否定しています。
興味深いのは、董宇輝氏が「東方甄選」を離れる際のエピソードです。彼が設立した「与輝同行」の株式100%を、わずか7658.55万元(約16.5億円)で買い取ったとされています。当時の「東方甄選」創業者である俞敏洪氏は、「彼が会社を買い取る費用は私が手配したもので、実質的に彼に贈与したようなものだ」と明かしています。さらに、「与輝同行」がすでに1.4億元(約30億円)の純利益を計上しており、これは董宇輝氏への利益配分後に「東方甄選」に残るはずだった利益だと付け加えられました。
董宇輝氏離職後の「東方甄選」の株価乱高下
董宇輝氏の離職発表翌日、「東方甄選」の株価は23.39%も暴落し、時価総額は25億香港ドル(約500億円)以上も失いました。しかし、その後、意外な回復を見せ、直近では一時、累積上昇率が357%にも達しています。これは、同社の業績回復期待が背景にあります。特に、2025年3月から5月の四半期決算では、売上こそ前年同期比約30%減ながら、非GAAPベースの営業利益率は改善傾向を示し、市場に安心感を与えました。
「与輝同行」がライブコマース界の新盟主へ
株価の変動とは裏腹に、董宇輝氏率いる「与輝同行」は、ライブコマース市場で圧倒的な存在感を示し、「東方甄選」を凌駕する勢いを見せています。
フォロワー数、視聴者数、売上高で圧倒
最も分かりやすい指標は、フォロワー数です。今年7月中旬には、「与輝同行」のフォロワー数が3000万人の大台を突破。一方、「東方甄選」は2800万人前後で停滞しており、すでに200万人以上の差が開いています。これは、より広範な潜在顧客へのリーチを意味します。
ライブ配信の平均同時接続者数でも、その差は歴然です。直近30日間で「与輝同行」が約3.33万人に対し、「東方甄選」は約5245人と、前者が約6倍もの差をつけています。また、売上高に至っては、今年5月、6月、7月の3ヶ月連続で「与輝同行」が業界トップに君臨。同時期、「東方甄選」はトップ10に一度も入ることができませんでした。
董宇輝氏抜きでも成功した「蘭知春序」
「与輝同行」の躍進を象徴するのが、7月に立ち上げた派生アカウント「蘭知春序」です。董宇輝氏が画面に登場しないにもかかわらず、初回配信開始2分で視聴者数10万人超えを達成。最終的な商品販売総額は、なんと「与輝同行」本家をも上回る結果となりました。これは、董宇輝氏の個人IPだけでなく、彼が率いるチーム全体の企画力と影響力の高さを証明しています。
一方、「東方甄選」は、看板主播(ライブコマースのメイン配信者)の一人だった「頓頓」が離職したことで、「東方甄選美麗生活」アカウントの売上が直近1ヶ月で32.45%も減少するなど、苦戦が続いています。
「オンライン版サムズクラブ」を目指す「東方甄選」の挑戦と「与輝同行」の課題
それぞれの道を進む両社ですが、それぞれが抱える課題も浮き彫りになっています。
「東方甄選」の「サムズクラブ」モデルへの転換と課題
「東方甄選」の創業者である俞敏洪氏は、同社を単なるライブコマース企業ではなく、「サプライチェーン管理能力を持つプロダクトテクノロジー企業」として位置付け、米国の大手会員制倉庫型スーパー「サムズクラブ」をベンチマークしています。自社ブランド製品の強化を進め、SKU(商品種類)を倍増させるなどしていますが、道は険しいようです。
「サムズクラブ」の成功要因である「店頭体験」や「高品質な独占商品」に対して、オンラインプラットフォームである「東方甄選」は、食品の味や日用品の質感などを直接体験させることが難しく、会員制の魅力を伝えきれていません。また、会員数は22.8万人と倍増したものの、中国の「サムズクラブ」の900万人規模には遠く及ばず、品控(品質管理)に関するユーザーからの苦情も散見されるなど、課題が山積しています。
「与輝同行」の成長鈍化とIP依存のリスク
「与輝同行」もまた、順風満帆とは言い切れません。2024年上半期には、毎日平均9.6万人ものフォロワーを獲得していましたが、直近半年では1.5万人にまでその勢いが鈍化しています。これは、新規顧客獲得コストの増加や、今後の成長余地の限界を示唆しています。
さらに懸念されるのは、董宇輝氏の個人IPへの過度な依存です。彼の「知識人」としてのイメージが、一部で「文化を商業利用している」といった批判を招くこともあります。もし董宇輝氏個人に何か問題が生じれば、「与輝同行」のブランドイメージ全体に甚大な影響を及ぼすリスクを抱えているのです。
まとめ:ライブコマースの未来を左右する二極化
董宇輝氏の「与輝同行」は、個人IPの力を最大限に生かし、中国ライブコマース市場の新たな盟主としての地位を確立しつつあります。その一方で、「東方甄選」は、自社サプライチェーンを強化し、「オンライン版サムズクラブ」という独自のビジネスモデルを模索しています。
両社の異なる戦略が、今後の中国ライブコマースの進化を牽引していくことでしょう。日本企業にとっても、ライブコマースを通じたブランド構築やD2C(Direct to Consumer)ビジネスを考える上で、彼らの挑戦とその結果は重要な示唆を与えてくれるはずです。個人IPの限界、サプライチェーン構築の難しさ、そして「顧客体験」の重要性。中国の最先端事例から、私たちは多くの学びを得ることができます。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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