AIの爆発的な進化は、私たちの想像以上に電力需要を押し上げています。世界が「第二次世界大戦以来最大の電力スーパーサイクル」に突入したと言われる中、かつてジェネラル・エレクトリック(GE)の「お荷物」と見なされた部門が、今やAI電力危機の最前線で大成功を収めています。その名はGE Vernova(GEV)。独立上場からわずか数ヶ月で株価が5倍以上に高騰し、あのエヌビディアをも凌駕する勢いです。本記事では、GEVがどのようにして「没落帝国」の影から抜け出し、AI時代の「スコップ売り」として君臨するに至ったのか、その歴史と3つの「切り札」を深掘りします。
「旧帝国の剥離」から「AI時代の救世主」へ:GEVの変遷
今日のGE Vernovaは、かつてアメリカ産業の栄光を象徴したジェネラル・エレクトリック(GE)グループから誕生しました。その血筋は、あのエジソンにまで遡ることができます。1896年にダウ・ジョーンズ工業株平均指数の最初の12構成銘柄の一つとなったGEは、まさにアメリカの電化と産業化の歴史そのものでした。特に伝説のCEO、ジャック・ウェルチの指揮下でGEは絶頂期を迎え、航空機エンジンから医療機器、金融サービスから家電製造まで多岐にわたる事業を展開し、時価総額は世界トップ10に位置していました。
ウェルチ時代のGEVは、GEグループ内の一電力・エネルギー部門に過ぎませんでした。しかし、この過度な多角化こそが、後の危機への伏線となります。GE帝国の黄昏は、2008年の金融危機から始まりました。GE傘下の巨大な金融部門GE Capitalが壊滅的な打撃を受け、会社の根幹が揺らぎ始めます。続く10年間、GEは一連の費用がかさむ戦略的失敗に陥ります。
その中でもGEVの運命に最も大きな影響を与えたのが、2015年に100億ドル以上を投じてフランスのアルストム社のガス火力発電事業を買収した一件です。当時としては「大勝負」と見なされましたが、時期が悪すぎました。当時、世界のエネルギー開発は急速に従来の化石燃料から風力、太陽光などの新エネルギーへとシフトしており、各国政府はグリーンエネルギー開発を奨励する補助金政策を打ち出していました。GEのこの買収は、世界中で「環境保護」が叫ばれる中で、当時時代遅れと見られていた分野にさらに賭けるようなものでした。この買収はGEに重い債務と統合の難題をもたらし、株価を泥沼にはまらせていきました。
転機が訪れたのは2018年、新任のCEO、ラリー・カルプがGEの事業ポートフォリオを大胆に再構築し、非中核資産の売却を進め始めます。そして2021年、彼は歴史的な決断を発表しました。巨大なGEグループを3分割するというものです。2023年にはGEヘルスケアが先行して独立上場し、歴史あるGEは航空宇宙事業部門として継承され、引き続きアメリカ製造業の最高水準を代表することになりました。そして、かつて会社に重い負担をかけた電力・エネルギー部門は、再生可能エネルギー部門、電力網部門と統合され、「GE Vernova」という名で独立の道を歩み始めたのです。
これは一つの時代の終わりに見えましたが、「旧帝国」から脱皮したGEVの運命の歯車が、AI技術革命によって静かに回され始めることを誰も予想していませんでした。2024年4月の独立上場以来、GEVの株価は現在までに5倍以上にも高騰し、エヌビディアをも上回る驚異的な成長を見せています。
AI電力危機を乗り越えるGEVの「三枚の切り札」
企業を分析する際には、「内的要因」と「外的要因」の両方を見る必要があります。GEV自身の変革と戦略が「内的要因」だとすれば、業界全体を取り巻く大きな背景こそが、その株価急騰を後押しした強力な「外的要因」です。私たちは今、ウォール街が「第二次世界大戦以来最大の電力スーパーサイクル」の始まりと呼ぶ時代にいます。
切り札1:圧倒的な「積み上げ受注」
まず「内的要因」であるGEVの三枚の切り札について見ていきましょう。「積み上げ受注」は電力株を分析する際によく見られる重要な指標であり、資本市場の方向性を示すものです。電力株は公共事業セクターに属し、通常は成長率がそれほど高くないものの、非常に安定した産業です。特に電力設備の納入にはかなり長い期間を要するため、「積み上げ受注」、つまり企業がすでに契約済み、または一部支払い済みの受注額がどれだけあるか、がその企業の将来的な収益の確実な成長を示します。
GEVのこの分野での実績は「驚異的」としか言いようがありません。例えば、UBSのレポートによると、データセンターの建設から始まるGEVの現在の積み上げ受注総額は1,200億ドルを超えており、近年では年間売上高の3倍以上を維持しています。これは、同社の今後3年間の事業がほぼ埋まっていることを意味します。これらの受注があるからこそ、将来の収益と利益がより正確に予測できるのです。UBSは年平均複合成長率40%という驚きの予測を出しています。
最も目を見張るのは、GEVの中核事業であるガスタービンです。GEVのガスタービン生産能力は、2027年までほぼ完売状態です。同社の営業チームが現在交渉している受注は、2028年、ひいては2029年納期の契約となっています。GEVの最新の四半期決算報告では、電力部門の受注は有機的に44%増の124億ドルに達しました。
切り札2:再評価される「ガスタービン」
ガスタービンとは、天然ガスの燃焼によって生じるエネルギーを回転力に変え、電力を生み出すエンジンです。AIデータセンターが電力に特有の要求を突きつけたことで、10年前には「斜陽産業」と見なされていたこの技術が、にわかに脚光を浴びるようになりました。大規模なAIデータセンターは、まるで決して消灯しない都市のように、24時間途切れることのない、高品質で安定した電力供給を必要とします。
理想の世界では、テクノロジー大手各社はESG(環境・社会・ガバナンス)の要求を満たすため、100%の「グリーン電力」、つまり風力や太陽光でAI帝国を動かしたいと願っています。しかし、現実は厳しいものです。風力発電は風がなければどうなるのか? 太陽光発電は曇りや雨の日にはどうなるのか? これらは本質的に間欠性と不安定性を持っており、大規模な蓄電施設との連携も必要です。そのため、風力や太陽光だけでは、AIデータセンターの指数関数的な電力需要を満たすことはできません。
UBSのレポートは、「テック・ビッグ6」(アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタ、エヌビディア)が2028年初頭までに毎年新たに追加する電力需要は、アメリカの公益事業規模の太陽光発電業界全体の総発電量を上回るだろう、と厳しく指摘しています。もう一つの低炭素で安定した電源として、原子力エネルギーには大きな期待が寄せられています。しかし、大規模な原子力発電所の建設には10年、あるいはそれ以上の期間を要し、許認可プロセスも複雑で、すぐに問題を解決できるものではありません。
そこで、再生可能エネルギーが大規模かつ安定した供給を実現し、次世代原子力エネルギーが商業化されるまでの過渡期において、ガスタービンが不可欠な「補完者」であり「安定化装置」として浮上しました。その利点がこの時、最大限に生かされています。
- 比較的クリーン:天然ガス発電のCO2排出量は石炭火力発電に比べて約60%低く、化石燃料の中では比較的環境負荷の低い選択肢です。
- 高効率で安定:GEVの先進的なH級ガスタービンは、コンバインドサイクル発電効率が最大64%に達し、技術的に成熟しており、安定した運用が可能です。
- 柔軟な運用:ガスタービンは起動・停止が速く、電力網の負荷変動に迅速に対応できるため、不安定な再生可能エネルギーの重要な調整役となります。
歴史はこの時、巨大な皮肉を演じました。「塞翁が馬」とはまさにこのことです。GEが2015年にアルストムを買収したことは、当時は戦略的失敗と見なされましたが、結果的に同社にガスタービン分野で比類のない技術、特許、市場シェアをもたらしました。GEVは長年にわたり世界のガスタービン市場の3分の1を占めており、設置されている7,000基以上のガスタービンは世界の電力の約30%を供給しています。AI時代において、かつての「負債」は、思いがけず貴重な「金鉱」へと姿を変えたのです。
切り札3:未来を見据えた「小型モジュール炉(SMR)」
GEVの第二の切り札は、小型モジュール炉(SMR)分野です。経営陣の賢明さは、GEVが核エネルギー事業を売却したにもかかわらず、より発展性のある核エネルギーの構想を残した点にあります。GEVが2022年にフランス電力会社に売却したのは、大型原子力発電所向けの事業でした。これは典型的な「重資産」であり、多額の投資、長い建設期間、遅いリターンが特徴です。
しかし、売却と同時にGEVは、より将来性のある核エネルギー戦略を残しました。2007年から日立と提携し、原子力部門を設立していました。この部門が現在焦点を当てているのが、小型モジュール炉(SMR)です。SMRは「原子力の未来」と呼ばれ、小型で出力が柔軟、モジュール式で建設でき、建設期間が短く、安全性も高いという特徴があります。これはAIデータセンターのために、まさにオーダーメイドされた理想的な電源と言えるでしょう。OpenAI、アマゾン、グーグルといったAI大手は、将来的にそれぞれの大型データセンターの敷地内に、1基または複数基のSMRを配備し、安定したクリーンで独立した電力を供給したいと強く投資しています。
GEVのSMR開発は世界の最前線を走っており、オンタリオ電力会社と提携しているSMRプロジェクトは、カナダで建設が開始されており、西洋世界で初めて系統接続されるSMRとなる見込みです。このように「過去を売り、未来に投資する」戦略は、GEVが原子力分野で身軽になり、将来のトレンドを正確に捉えることを可能にしました。
まとめ
GE Vernovaの劇的な復活は、AI時代の本格的な到来が、私たちの社会全体、特に電力インフラに甚大な影響を与えていることを明確に示しています。かつての「お荷物」がAI電力危機における「スコップ売り」として脚光を浴びたのは、単なる幸運ではありません。積み上げ受注による事業の安定性、AIデータセンターのニーズに合致したガスタービンの再評価、そして未来を見据えた小型モジュール炉(SMR)への戦略的投資という、3つの「切り札」が絶妙に機能した結果です。
この事例は、今後、再生可能エネルギーと従来の安定電源(特に天然ガスや次世代原子力)とのバランスがいかに重要になるかを浮き彫りにしています。AIの発展は止まることなく、データセンターの電力需要は加速度的に増加していくでしょう。この電力スーパーサイクルは、エネルギー企業だけでなく、AIインフラを支えるすべての産業に大きなビジネスチャンスと課題をもたらします。
日本においても、AI技術の発展と導入が進む中で、安定した電力供給は喫緊の課題となります。GEVの成功事例は、技術革新だけでなく、過去の資産の再評価や未来への戦略的な投資がいかに重要であるかを示唆しています。この動きは、日本のエネルギー政策や関連企業にとっても、新たな視点と投資機会をもたらす可能性を秘めていると言えるでしょう。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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