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中国・鄭州に響く『バンドリ!』の歌声 赤字覚悟の情熱が紡いだ完璧な夢

live music crowd China - 中国・鄭州に響く『バンドリ!』の歌声 赤字覚悟の情熱が紡いだ完璧な夢

中国の地方都市・鄭州で、日本発の多メディアプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』のファンイベント「BanG Dream!Only展」(通称:邦O)が開催されました。このイベントは、地元河南では前例のない規模で、商業主義とは一線を画す「純粋な愛」によって実現。運営経験の不足、資金難、そして数々のハプニングを乗り越え、主催者とファンの情熱が織りなす、まさに「完璧な夢」のような一日となりました。本記事では、その舞台裏と中国におけるサブカルチャー文化の今を深掘りします。

中国・鄭州に響いた『バンドリ!』の歌声

2025年7月26日午前10時、鄭州大劇院の会場「橙空間」には、開場を待ちわびる大勢のファンが集まっていました。彼らの多くは2000年代以降に生まれた「00后(リンリンホウ)」や「10后(イーリンホウ)」と呼ばれる若者たち。キャラクターTシャツ(痛衣)を身につけ、携帯音楽プレーヤーから流れる音楽に合わせて「甩手(シュアイショウ)」と呼ばれるサイリウムパフォーマンスを練習する姿は、日本のイベント会場さながらの熱気でした。

若葉睦のコスプレをした10代のファンが等身大パネルを撮影する傍らでは、数人がしゃがみ込んでぬいぐるみを抱え、スマホでメッセージを打ち込んでいました。その内容は、なんと中学卒業試験の合格通知を受けた仲間の合格を祝うもの。イベント会場が、ファンコミュニティの温かい交流の場となっていたのです。

「BanG Dream!」は、日本のブシロード社が展開する多メディア女子バンドプロジェクトで、魅力的なキャラクター、優れた音楽性、そして「リアルバンド+アニメ+スマートフォンゲーム」という独自の展開で世界中のファンを魅了しています。今回の「邦O」のような「Only展」は、特定のテーマに特化したファンイベントを指し、出展者から参加者まですべてがそのテーマを中心に交流する、ファン主導の文化祭のような催しです。

「二次元砂漠」を覆す!情熱の『邦O』企画秘話

多くのファンは、河南省のような「中原地域」で「BanG Dream!」のOnly展が開催されるとは夢にも思わなかったと言います。主催者のPocky氏もまた、純粋な「愛」だけで企画したイベントが、最後のひと月でこれほどの支持を得るとは想像していませんでした。

難航した準備と、混乱が育んだ温かさ

「河南と他地域との差は大きすぎる。他所ではすでにバンドプロジェクトのOnly展や様々なイベントが開催されているのに…」。Pocky氏が漏らした言葉は、河南が未だ「二次元砂漠」(アニメ・漫画文化が不毛な地域)と見なされがちであることを示していました。商業漫展(コミックマーケット)は増えても、ファンが主導するOnly展は珍しかったのです。

鄭州出身のファンも、これまでの商業漫展では「商業」が優先され、「愛」が欠けていると感じていました。こうした不満が、Pocky氏たちの「邦O」開催の原動力となります。彼らは、河南にも「BanG Dream!」を心から愛する人々がいることを証明し、純粋な夢を届けたかったのです。

しかし、企画は困難を極めました。Pocky氏は鄭州から片道1時間以上かけて通う南陽在住で、当初の主催者が資金難と経験不足で撤退したため、急遽その職を引き継ぐことになりました。開催までわずか11日という時期にも関わらず、準備は慌ただしく進みました。スタッフはボランティアで集められ、開催1週間前には司会がいないことに気づき、急遽メンバーが兼任。会場への道案内図も、ファンが自ら作成したものが公式に採用されるなど、「混乱」が日常でした。

「ネタ」が呼び込んだ奇跡の集客

広報活動も手探りでした。イベント前月のチケット販売は100枚以下と低迷。しかし、転機は「WOTA芸」(ヲタ芸)を披露するファンの動画がBilibili動画にアップロードされたことから訪れます。続いてアップされた、キャラクターのAIボイスを使った「河南式」自虐宣伝動画(「井盖无料(マンホールグッズ)」という地域差別的なスラングを自虐ネタとして使う)が、ファンの間で爆発的に拡散。「やっと河南にもOnly展が!」「マジで神人(面白すぎる人)いるじゃん!」といったコメントが殺到し、チケット販売は一気に加速しました。

さらに、『BanG Dream!』の同人ゲームで知られる「ドラマー余命十日談」のメインイラストレーターである夜蚺氏がゲスト参加することが決まり、彼のSNSでの宣伝も相まって、多くのファンが「河南にもこんなにバンドリ好きがいたのか!」と驚き、イベントへの参加を決めました。

前日準備では、発注した缶バッジ(吧唧)にキャラクターの不足が見つかる一方で、人気女性向け恋愛ゲーム『恋与深空(恋と深空)』のキャラクター「秦徹(チンチョル)」の缶バッジがなぜか大量に混入しているという珍事件が発生。これもまた、ファンによって瞬く間に「秦徹ネタ」として拡散され、皮肉にもさらなる注目を集めることになりました。

採算度外視の「完璧な夢」へ

2025年7月26日、イベント当日。朝8時40分にはすでに多くのファンが会場前に集結し、Poppin’Partyの曲に合わせて「甩手」の練習をする姿が見られました。会場内では、Pocky氏がバンドのリハーサルを指示し、スタッフが巨大なメッセージボード(签绘墙)を設置。入り口にはギターを抱えた巨大な愛音のぬいぐるみが車椅子に座る、どこかユーモラスな光景が広がっていました。

会場は、同人ブースや交流スペースがある「外場」と、1000人収容のライブステージがある「内場」に分かれ、来場者はまず外場で交流を楽しんだ後、内場でバンド演奏を鑑賞する形式です。

「主催、バンド、観客、みんなで完璧な邦Oを成し遂げた」。記事冒頭の言葉通り、このイベントは、商業的な成功を度外視し、純粋な「愛」と「情熱」が原動力となって開催されました。資金も経験も不足していたにもかかわらず、ファンの自発的な協力と「混乱」の中にも生まれる温かい交流が、このイベントを唯一無二の「完璧な夢」へと昇華させたのです。

まとめ

中国の地方都市・鄭州で実現した『BanG Dream!Only展』は、単なるファンイベントに留まらない意義を持っています。それは、商業的な成功や潤沢な資金がなくても、純粋な「愛」と「情熱」、そしてファンコミュニティの連帯があれば、困難を乗り越え、素晴らしいイベントを創り出せるという証明です。日本のコンテンツが中国の地で深く根付き、現地のファンが主体となって文化を育む姿は、今後の国際的なサブカルチャー交流の可能性を強く示唆しています。この「赤字覚悟の完璧な夢」は、多くの人々の心に温かい光を灯したことでしょう。

元記事: chuapp

Photo by Sebastian Ervi on Pexels

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