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Steam帝国は「善」か「悪」か?PCゲーム市場の巨人を揺るがす独占訴訟の行方

Steam lawsuit, PC game monopoly - Steam帝国は「善」か「悪」か?PCゲーム市場の巨人を揺るがす独占訴訟の行方

PCゲーム市場において、Valveが運営するSteamの存在感は圧倒的です。2024年には同時接続数が驚異の4000万を突破し、特に中国市場では最大のPCゲームプラットフォームとしての地位を確立しています。しかし、その強大な影響力は今、「独占」という新たな課題に直面しています。長年「慈悲深い革新者」と見なされてきたSteamですが、そのビジネスモデルに対し反独占訴訟が提起され、その行方はPCゲーム業界全体、さらには他のデジタルプラットフォームにも大きな影響を与えかねません。果たしてSteamの独占は、市場にとって「善」なのでしょうか、それとも「悪」なのでしょうか?

Steamの圧倒的支配力:4000万同時接続と中国市場での躍進

Steamは、今やPCゲーマーにとって欠かせない存在となりました。2024年には同時接続数4000万人、ゲームを実際にプレイしているユーザー数も1200万人を超えるという驚異的な記録を達成しています。特に注目すべきは、このうち中国プレイヤーが全体の40%を占めている点です。Valveはアメリカの企業でありながら、中国市場におけるPCゲームの売上を大きく左右するプラットフォームとなっています。

その影響力は、中国で大ヒットしたゲームの販売実績にも如実に表れています。例えば、2024年に大きな話題を呼んだ中国産PCゲーム『黒神話:悟空』は、PC版の推定販売数2800万本のうち、Steam経由で2000万本を売り上げています。このSteam販売分の70%が中国プレイヤーによるもので、自国のPCゲームプラットフォーム「WeGame」などがあるにもかかわらず、Steamが販売の大部分を占めている現状が伺えます。また、Bilibiliがパブリッシングした人気ゲーム『逃離鴨科夫(Escape from Tarkovの中国語タイトルと推測されます)』も、200万本以上の販売のうち半数以上がSteam経由でした。中国のゲーム大手であるテンセント、網易、miHoYoといった企業でさえ、特に海外市場での展開にはSteamの利用が不可欠とされています。競合のEpic Games Storeが低いコミッション率(12%)を提示しているにもかかわらず、Steamの年間収益がEGSの10倍に達するという事実からも、その圧倒的な市場支配力がうかがえます。

PCゲームだけでなく、大手パブリッシャーのタイトルも例外ではありません。EAの『Battlefield 6』のように自社プラットフォームで販売されていても、その売上の多くはSteam経由であったと報じられています。これら一連の状況を受け、海外メディアSuperJoostは「Steamの独占の時が来た」と分析しています。

反独占訴訟の核心:「平価要求」と30%コミッションの是非

この強大なSteamの独占的地位に対し、法的なメスが入ろうとしています。発端は、ゲーム開発スタジオWolfireがValveを相手取って起こした反独占訴訟です。元々2003年にPCゲームのパッチ更新を容易にするために誕生したSteamは、20年後の今、その成功ゆえに反独占規制当局から市場濫用を疑われる立場になっています。

Wolfireとの訴訟は集団訴訟として認定され、2024年11月にはプラットフォームのビジネスモデル全体に対する根本的な挑戦へと発展しました。この裁判の核心は、Steamが設けている「平価要求」という契約条項です。これは、ゲーム開発者に対し、Steam上で提供する価格やコンテンツを他のどのデジタルストアでも同一にするよう強制するものです。Valveはこれを「消費者の公平性」のためと主張していますが、実態としては競合プラットフォーム(Epic Games StoreやGOGなど)が価格や独占コンテンツで差別化することを困難にし、Steamの顧客基盤とネットワーク効果の優位性をさらに強固にする効果があります。

訴訟資料からは、Valveがこのルールを厳格に適用していた実態が明らかになっています。内部メールには、他プラットフォームでの先行割引や大幅な値引きに対し、Steamでのプロモーション機会を剥奪するといった警告のやり取りが記されており、市場の自由な競争が妨げられていた可能性が指摘されています。経済専門家の試算では、もし競争市場であればValveのコミッション率は現在の30%ではなく、17〜18%程度になるはずだとしており、その差額は開発者にとって最大31億ドルの過剰な支払いに相当するとされています。

Valveは、Steamが「双方向プラットフォーム」であり、コンソール、モバイルアプリストア、各社独自のランチャーなど、多岐にわたる競争にさらされていると反論しています。しかし、批評家たちは、PCゲーム市場の露出、価格設定、収益化の条件の大部分を特定の企業がコントロールしている状況は、もはや単なる「中立的なチャネル」ではなく「通行料を徴収する料金所」に近いと指摘しています。

まとめ:ゲーム業界の未来とプラットフォーム規制の行方

この訴訟の行方は、Steamだけでなく、デジタルコンテンツを提供するあらゆるプラットフォームに大きな影響を与える可能性があります。もしWolfireが勝訴すれば、業界全体のコミッション率引き下げを促し、開発者が複数のプラットフォーム間でより自由な価格設定や独占コンテンツ提供を行えるようになるかもしれません。これは、現在パワーがクリエイターからプラットフォーム側へとシフトしているゲーム業界の潮流を反転させるきっかけとなる可能性を秘めています。

一方で、もしValveが勝訴した場合、AppleやPlayStationなど他の大手プラットフォームが同様の「平価要求」条項を法的にも正当化し、さらにエコシステムへの規制を強化する口実となるかもしれません。デジタル市場が成熟し、消費者需要が鈍化する中で、硬直化したプラットフォームの収益構造は、エコシステム全体の成長を阻害する要因となり得ます。この訴訟は、単一企業のビジネスモデルを巡る争いにとどまらず、現代のデジタル経済におけるプラットフォームの役割、独占の定義、そしてイノベーションと競争のバランスについて、重要な判例を示すことになるでしょう。日本のゲームデベロッパーやゲーマーにとっても、決して他人事ではないこの動きから目が離せません。

元記事: gamelook

Photo by Julia M Cameron on Pexels

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