中国の「高級スナックブランド第一号」として知られる大手菓子メーカー「良品铺子(リャンプンブーズ)」。現在、その経営権を巡る争いが激化し、巨額の訴訟問題に発展しています。同社の筆頭株主が新たな戦略的投資家への株式譲渡を進める一方で、別の国有企業が「一株二重売り(違約転売)」を主張し提訴。訴訟額は10億元(約200億円)超にまで膨れ上がっています。この経営権問題の背景には、消費の冷え込みやオンライン市場の競争激化、健康志向の高まりといった中国零食(スナック)業界全体の構造的な課題が横たわっており、その行方が注目されています。
中国高級菓子大手「良品铺子」を揺るがす、経営権争奪と巨額訴訟の全貌
「良品铺子」の経営権を巡る攻防は、まさに「二虎相争」の様相を呈しています。8月13日、同社は筆頭株主である宁波汉意創業投資合伙企業(有限合伙)(以下「宁波汉意」)が、广州轻工工贸集团有限公司(以下「广州轻工」)との間で株式譲渡に関する訴訟を抱えていることを公表しました。訴訟額は当初の9.96億元から10.23億元(約204億円)にまで増額されています。良品铺子側は、この訴訟が同社の事業運営や損益に重大な影響はないと説明していますが、宁波汉意から武漢長江国際貿易集団有限公司(以下「長江国貿」)への経営権移転に不確実性をもたらす可能性を指摘しています。
新たな株主への移行発表と、突然の訴訟
良品铺子の主要株主である宁波汉意とその共同行動者は、2025年第1四半期末時点で約29.84%の株式を保有していました。経営危機を打開するため、宁波汉意は「買い手」を模索。そして7月17日、良品铺子は長江国貿を戦略的投資家として迎え、新たな筆頭株主とする旨を発表しました。この合意に基づき、宁波汉意と良品投資が保有する株式比率は38.22%から17.22%に減少し、長江国貿が21.00%を保有する予定でした。取引総額は10.46億元で、これにより良品铺子の経営権は宁波汉意から長江国貿へ、そして実質的な支配権は、楊紅春氏ら創業メンバーから武漢市人民政府国有資産監督管理委員会へと移管される見込みでした。
しかし、この発表からわずか数日後の7月21日、事態は急転します。广州轻工が宁波汉意を相手取り、株式譲渡契約の紛争を理由に提訴したのです。さらに、裁判所に対し、宁波汉意が保有する良品铺子株7976.39万株の財産保全を申請し、これが凍結されました。
「一株二重売り」疑惑が泥沼化
广州轻工の主張は、宁波汉意が「一株二重売り」という契約違反を犯したというものです。今年5月、宁波汉意は广州轻工と良品铺子株の譲渡について交渉し、「協議書」を締結していました。これは、广州轻工が良品铺子へのデューデリジェンス(適正評価手続き)を完了した後、宁波汉意が保有する株式の一部を譲り受け、良品铺子への投資・支配を行うことを計画する内容でした。
しかし、宁波汉意は5月28日という約定期日までに广州轻工との間で正式な株式取引契約を締結しませんでした。そのため、广州轻工は宁波汉意に対し、契約締結を促す書簡を送付しています。この経緯を経て、宁波汉意は广州轻工ではなく、長江国貿と株式譲渡契約を締結したのです。もし广州轻工の主張が認められれば、宁波汉意は「違約転売」に問われることになります。
广州轻工の訴訟内容は、宁波汉意に株式譲渡契約の履行を強制すること、違約金と損害賠償の請求、そして訴訟費用の負担を求めるもので、総額は10.23億元に膨らんでいます。
この争いの核心は、両社ともに「国有資産管理委員会」が最終的な支配者となる国有企業であるという点です。つまり、2つの国有資産管理体が良品铺子の経営権獲得を目指し、法廷で争っているという構図になります。もし广州轻工の訴えが認められれば、宁波汉意は广州轻工との契約を優先的に履行する必要が生じ、長江国貿への株式譲渡は頓挫し、経営権移転計画に重大な不確実性が生じることになります。現時点では、广州市中級人民法院で開廷日は決定されておらず、宁波汉意は訴訟に対応しつつ、广州轻工との和解交渉も進めている模様です。
混迷深まる「良品铺子」の“内憂外患”:ゼロキャッシュスナックの波と消費者の変化
良品铺子が直面しているのは、単なる経営権争奪だけではありません。同社は深刻な「内憂外患」を抱えています。7月14日に発表された2025年上半期業績予測では、純利益が7500万元から1.05億元の赤字に転落すると発表されました。これは、製品・店舗構造の最適化、オンラインチャネルの流量費用上昇、さらには受取利息や投資収益、政府補助金の減少などが主な要因とされています。
良品铺子のここ数年の動向は、中国零食業界が経験する「構造的調整の痛み」を如実に示しています。消費低迷、ニーズの変化、そしてチャネル再編という複数の圧力が、市場環境を激変させているのです。各企業はまさに「深海でもがき、自らを救う」状況にあります。
赤字転落、消費環境とチャネル変化の波
製品面では、「質・価格比」と「健康志向」という二重の波が企業に押し寄せています。Z世代の消費者は健康成分への関心が高く、「高油・高塩」の伝統的なスナックは敬遠されがちです。これにより、従来の主力製品の販売が低迷しています。同時に、経済下行圧力の中で消費者は価格に敏感になっていますが、単なる低価格を求めるのではなく、品質に見合った「質・価格比」を重視しています。これは企業に対し、より市場のトレンドに合った製品ラインナップの再構築を求めています。
「質・価格比」と「健康志向」に遅れる対応
良品铺子の健康志向への転換は、現状では表面的なものに留まっています。健康代用食シリーズを投入したものの、体系的な製品マトリックスを構築できていません。一方、競合の百草味は「ナッツ・ドライフルーツ健康スナックブランド」への全面転換を図り、「本味甄果」シリーズに注力し、特許技術を用いた差別化を実現しています。
良品铺子は、高級路線での失速と「質・価格比」への転換の遅れという二重のプレッシャーを受け、ブランドポジショニングが混乱しています。2025年には「製品の最適化と調整、一部製品の値下げと製品構造の調整が粗利益に影響した」と説明していますが、この調整は体系性に欠けています。三只松鼠のように「長尾の質・価格比製品マトリックスでスーパーマーケットの課題を解決」するわけでもなく、百草味のように「本味甄果」シリーズで健康ナッツの主力製品を育成するわけでもありません。
オンラインとオフライン、進まぬチャネル最適化
チャネル面では、オフラインの再構築が進み、従来のスーパーマーケットチャネルの顧客離れが続いています。その一方で、コミュニティ小売店、ゼロキャッシュスナック店、即時配送サービスなどの新チャネルが台頭しています。来伊份が30分即時配送ネットワークの構築を進め、盐津铺子(イェンジンブーズ)がゼロキャッシュスナックチャネルへの参入で販売を伸ばす中、良品铺子は趙一鳴への投資が不発に終わり、自社で立ち上げた量販店「零食顽家(ゼロキャッシュワンジャー)」も成果を出せず、転換の機会を逸しています。
オンラインチャネルでは、流量(トラフィック)獲得コストが高騰しています。良品铺子は2025年上半期の純利益減少の主要因として「オンラインチャネルの流量費用上昇」を明確に挙げています。オンラインでの顧客獲得コストが継続的に上昇し、プラットフォームの手数料率も引き上げられ、すでに薄い利益率をさらに圧迫しています。2024~2025年にかけて、良品铺子は「店舗構造を継続的に最適化し、非効率な店舗を自主的に淘汰」した結果、店舗数が減少し、販売規模も前年同期比で減少しました。オフラインでの撤退が進む一方でオンラインでの補填ができず、さらにオンラインチャネルも流量費用増加に苦しむという「双方向の出血」状態に陥っています。
まとめ:中国零食業界の縮図と、良品铺子が示す未来
良品铺子にとって、経営権の安定は事業回復のための最優先事項です。しかし、今回の巨額訴訟がどのような結末を迎えるかによって、同社の未来は大きく左右されるでしょう。現時点では、和解に向けた動きも見られるものの、法廷闘争が長期化する可能性も否定できません。
この一連の動きは、単に一企業の経営問題にとどまらず、中国の零食業界全体が直面する構造的課題の縮図と捉えることができます。消費トレンドの変化にどう対応し、オンラインとオフラインのチャネルをいかに最適化していくか。そして、競争が激化する中でいかに利益を確保していくか。良品铺子の事例は、日本の食品・小売業界においても共通する課題が多く、今後の動向が注目されます。
最終的に誰が良品铺子のコントロール権を握るにせよ、経営の安定化と抜本的な事業改革なくして、かつての栄光を取り戻すことは困難でしょう。良品铺子がこの難局を乗り越え、再び成長軌道に乗ることができるのか、中国市場の大きな変化の中でその試練は続きます。
元記事: 36氪_让一部分人先看到未来
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