中国のスマートフォン市場に新たな動きです。主要ベンダーであるXiaomi(シャオミ)、OPPO(オッポ)、vivo(ヴィーヴォ)の3社が、ブランドを越えたファイル転送を実現する「互伝聯盟(ごでんれんめい)」を正式に結成しました。この機能は間もなく一般公開され、ユーザーはこれまで手間がかかっていた異なるブランド間のファイル共有を、まるでAppleのAirDropのように手軽に行えるようになります。
この異例の提携の背景には、中国国内市場の激化とHuawei(ファーウェイ)の圧倒的な成長があります。市場シェアを落とす3社が連携することで、Androidエコシステムの利便性を向上させ、AppleやHuaweiが築き上げてきた強固なエコシステムに対抗する狙いが見え隠れしています。はたして、この新同盟は中国市場の勢力図を塗り替え、日本を含む世界のスマートフォンユーザーにどのような影響をもたらすのでしょうか?
中国スマホ大手3社、垣根を越えた「互伝聯盟」を設立
一瞬でファイル共有!新しい転送機能の仕組み
8月19日、Xiaomi、OPPO、vivoの3社は、異なるブランド間のスマートフォンで、ボタン一つでファイルを相互に転送できる「互伝聯盟」の設立を発表しました。この機能は、操作が素早く、転送速度も高速で、消費電力も低いのが特徴です。さらに、データ通信量(ギガ)を消費せず、特別なサードパーティ製アプリをインストールする必要もありません。
具体的な操作は非常にシンプルです。ファイルを共有したいユーザーは、スマートフォンのドロップダウンメニューから「互伝機能」をオンにするか、Wi-FiとBluetoothのスイッチを同時に開きます。その後、写真編集欄などで「共有」をタップすると、相手も同様に互伝機能をオンにしていれば、相手のユーザーアイコンが画面に表示されます。これをタップして送信し、受信側が承認すれば、あっという間にファイル転送が完了します。
この新機能は、「移動点対点快速転送協定」という独自の転送標準を採用しています。これは、Wi-Fi P2P転送とBluetooth BLEブロードキャストを基盤とし、ブランドやプラットフォームを越えて安定かつ高速に、そして通信量無料でローカルファイルを転送することを可能にします。まさに、AppleユーザーがiPhoneやiPad、MacBook間で利用する「AirDrop(隔空投送)」の便利さに匹敵する体験をAndroidユーザーにもたらそうという試みです。
互伝機能は、現在のところXiaomi、OPPO、vivoの3社が参加しており、8月末には一般公開が予定されています。3社は今後、さらに多くのメーカーの参加を歓迎する姿勢を示していますが、中国のもう一つの大手メーカーであるHuaweiは、現時点では参加の意向を示していません。
なぜ今、Xiaomi・OPPO・vivoは手を組んだのか?~狙いはHuaweiへの対抗か~
Android陣営の課題とApple・Huaweiの先行
これまでAndroid陣営では、デバイス間のシームレスなファイル転送が課題でした。Googleは2011年に「Android Beam」を推進したものの、NFCを利用した転送は距離が短く速度も遅いため、広く普及するには至りませんでした。Googleも「FastShare」という新たなファイル転送ツールの導入を予定していると報じられていますが、その動きは緩やかです。
これに対し、AppleのAirDropはWWDC 13で登場以来、iPhone、iPad、MacといったAppleエコシステム内で簡単にファイルを共有できる利便性で高い評価を得ています。Bluetoothでデバイスをペアリングし、Wi-Fi Directで高速転送する仕組みは、ハードウェアとソフトウェアを一体で開発するAppleならではの強みと言えるでしょう。
そして、Android陣営においてファイル転送機能で先行していたのが、他ならぬHuaweiです。Huawei独自の「Huawei Share」は、AppleのAirDropと同様にBluetoothで接続しWi-Fiでファイルを転送する仕組みで、スマートフォン、タブレット、ノートPC間で高速なファイル転送を実現しています。さらに、デバイス間でクリップボードを共有する機能や、スマートフォンを振るだけでPC画面を録画し、録画した動画を即座にスマホに転送できる「一碰伝(ワンプッシュ転送)録画機能」など、利便性の高い独自機能を次々と投入し、ユーザー体験を向上させています。
市場縮小とHuaweiの躍進、共闘の背景
Xiaomi、OPPO、vivoの3社が「互伝聯盟」を設立し、共通のファイル転送標準を確立した背景には、中国スマートフォン市場の激しい競争と、Huaweiの圧倒的な躍進があります。
市場調査会社IDCのデータによると、2019年第2四半期の中国スマートフォンの出荷台数は前年同期比6.1%減の9,790万台と、市場全体が縮小傾向にあります。この中で、国内トップ5の中で唯一Huaweiだけが出荷台数を伸ばしており、OPPOは13.9%減、vivoは8.2%減、Xiaomiに至っては19.3%減と、厳しい状況に直面しています。Huaweiは、AppleやSamsungと並ぶ「トップクラブ」入りを果たし、Xiaomi、OPPO、vivoの市場空間を大きく圧迫しているのです。
このような市場の縮小とHuaweiの猛追という逆境の中で、Xiaomi、OPPO、vivoの3社が「互伝聯盟」を結成したことは、まさに「共闘して暖を取る」、すなわちHuaweiの勢いを阻むための戦略的な動きと捉えられます。これにより、3社連合はHuawei Shareに対抗し、ユーザーの利便性を高めることで市場での巻き返しを図ろうとしているのです。
互伝聯盟の未来とAndroidエコシステムへの期待
IDCのデータによれば、2019年第2四半期時点でXiaomi、OPPO、vivoの3社を合わせた市場シェアは48.2%に達します。この大規模な連合が形成されれば、将来的にはスマートフォンだけでなく、各ブランドが展開するスマートテレビやスマートホームデバイスといったIoT製品間での「シームレスな連携」も実現し、完全なエコシステムを構築する可能性を秘めています。
これは、独自のチップ開発やOS、さらには「万物互聯(あらゆるものがインターネットで繋がる)」というエコシステムを構築しているHuaweiにとっては、決して有利なニュースではありません。しかし、市場競争という視点を超えて、より高次元で見れば、もし将来的にHuawei Shareがこの「互伝聯盟」のプロトコルに互換性を持つようになれば、ユーザー体験は飛躍的に向上するでしょう。
今回の「互伝聯盟」を契機に、中国国内の主要Androidメーカーが一丸となり、現在分断されているAndroidエコシステムの課題を解決できれば、Appleエコシステムに匹敵する、あるいはそれを超える優れたユーザー体験を世界中のAndroidユーザーに提供できるかもしれません。今後の動向から目が離せません。
元記事: kanshangjie
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