中国のゲーム業界で今、前例のない大規模な「引っ越し」ブームが巻き起こっています。テンセント、Bilibili、miHoYoといった名だたる大手企業が、数十億元(日本円で数百億円)規模の巨額を投じ、次々と超大規模な新本社ビルや研究開発拠点の建設、あるいは移転を進めているのです。2024年から2026年にかけて、少なくとも12社のトップゲーム企業が関連プロジェクトを推進し、総投資額は600億元以上、新規オフィス面積は550万平方メートルにも上ると推計されています。これは単なるオフィス空間のアップグレードではありません。業界の爆発的な成長、未来への野心的な投資、そして地方政府の巧みな誘致戦略が複雑に絡み合った、中国ゲーム業界のダイナミズムを象徴する動きと言えるでしょう。
中国ゲーム大手の壮大な「引っ越し」計画
中国のゲーム企業が主導するこの大規模な移転・建設プロジェクトは、そのスケールにおいて日本の想像をはるかに超えるものです。各地で建設中の新拠点は、それぞれが次世代のランドマークとなるような壮大なビジョンを掲げています。
テンセントの「ペンギンアイランド」:未来都市への挑戦
中でも際立つのは、テンセント(Tencent)が進める深圳・宝安区大鏟湾(ダーチャンワン)の「企鵝島(ペンギンアイランド)」プロジェクトです。総投資額は驚異の319億元(約6,800億円)、総建築面積は300万平方メートルを超え、将来的に8万人もの従業員を収容する予定です。この複合施設は、単にゲーム部門だけでなく、テンセントの多岐にわたる事業部を包含します。米国のNBBJ建築設計会社が全体計画を担い、北京中央テレビ本部の設計で知られるドイツ人建築家オレ・シェーレン氏が核となる新本社ビル「Tencent Helix」をデザインするなど、世界トップクラスの才能が結集しています。すでに一部のオフィスは2025年10月から試運転を開始しており、今後のさらなる発展が注目されます。
Bilibili、miHoYo、その他大手も続く大規模開発
上海でも同様の動きが活発です。動画プラットフォームとして知られ、ゲーム事業も急成長中のBilibili(ビリビリ)は、上海楊浦濱江に「新世代産業園」を建設中。2025年9月には主体構造の最上部が完成し、2026年10月の竣工、年末からの従業員入居を目指しています。この施設には、ラスベガスの巨大LED球体「ザ・スフィア」を彷彿とさせる球形の没入型演劇空間「ビリ球」が設けられる予定で、新たなエンターテインメントの中心地となるでしょう。
また、『原神』で世界的な成功を収めたmiHoYo(米哈遊)は、2023年10月に上海徐匯区の漕河涇(ツァオハージー)核心区に研究設計用地を確保。この土地には、年間33億元以上という非常に高い税収貢献目標が設定されており、地方政府からの期待の大きさが伺えます。
他にも、自社開発アクションRPGで存在感を放つKuro Games(庫洛遊戯)が2025年に広州天河智慧城の新本社に移転。ベテランのゲーム企業である37 Interactive Entertainment(三七互娯)やNetEase(網易)も同時期に新本社を稼働させています。これらの企業は、製品開発への大規模な投資を行い、美術、プログラミング、企画といった多様な専門チーム間の密な連携を重視しているため、集中型オフィス空間の必要性が高まっているのです。
なぜ今、大規模移転が加速するのか?背景にある戦略と政府の誘致
なぜこれほど多くのゲーム会社が、2024年から2026年という特定の期間に集中して新本社を建設・移転しているのでしょうか。その背景には、単なるオフィス需要の増加を超えた、より深い要因が存在します。
ゲーム産業を「揺りかご」とみなす地方政府の戦略
最も大きな要因の一つは、中国各地の地方政府がゲーム産業に対して非常に大きな期待を寄せ、積極的な誘致政策を展開していることです。2025年初頭には、中国政府がゲーム産業を消費喚起政策の対象に含めると発表。これを受け、北京、上海、杭州、深圳などの主要都市が相次いでゲーム関連の優遇政策を打ち出しました。
地方政府にとって、ゲーム企業はまさに「優良産業」です。高い利益率、従業員一人当たりの生産性の高さ、そして膨大な税収を生み出す一方で、環境汚染のリスクが低いという理想的な特徴を持っています。これらのインターネット企業は物理的な制約が少ないため、地方政府は市場価格よりも低い地価で土地を提供し、誘致競争を繰り広げます。特にテンセントのような超大手企業であれば、周辺地域よりもはるかに安価な価格で広大な土地を手に入れることが可能です。これは、地方政府にとっては短期的な土地売却益よりも、企業がその地に定着することで得られる長期的な安定した税収という「揺りかご(長期的な収益源)」を優先する戦略と言えるでしょう。
二極化する業界と未来への投資
もう一つの側面として、現在の中国ゲーム業界が「二極化」している状況が挙げられます。一部の中小規模の企業が人員削減やプロジェクト中止に直面する一方で、大手企業は市場規模の拡大と業績向上を享受し、資本投資と人材獲得を加速させています。今回のオフィス移転ラッシュは、まさにこの業界のトップ層が、未来の成長を確信し、そのための投資を惜しまない姿勢の表れと言えるでしょう。大規模な本社建設は、優秀な人材を引きつけ、企業のブランド力を高め、イノベーションを促進するための重要な基盤となるのです。
まとめ
中国ゲーム業界で現在進行中の大規模なオフィス移転・建設プロジェクトは、単なる企業の拡大ではなく、未来の覇権をかけた戦略的な投資です。テンセントの「ペンギンアイランド」に代表される巨大拠点の建設は、中国のテック企業がグローバル市場での存在感をさらに高めようとする強い意志を示しています。
この動きは、地方政府の積極的な産業誘致政策と、ゲーム産業がもたらす経済的恩恵が合致した結果と言えます。高収益、高税収、そして環境負荷の低いゲーム企業は、中国の都市開発において「理想のパートナー」となっているのです。日本を含む世界のゲーム業界にとって、中国のこのダイナミズムは、競争環境の変化を理解し、今後の戦略を練る上で不可欠な情報となるでしょう。大規模な投資によって築かれる新たな拠点から、次なる革新的なゲームが生まれる日もそう遠くないかもしれません。
元記事: chuapp
Photo by guo fengrui on Pexels












