「時は新たな可能性を生み出す」――中国の著名なエコノミスト、呉暁波の言葉が今、現実のものとなっています。AI(人工知能)技術が世界を席巻する中、その裏で驚異的な成長を遂げている企業があります。それが、中国の光モジュール大手「新易盛(Accelink Technologies)」です。わずか半年で売上高は前年比282%増、純利益は355%増、そして株価は過去5ヶ月で400%を超える急騰を見せ、時価総額はなんと3500億元(約7.5兆円)に達しました。特筆すべきは、創業者の高光栄氏が専門学校卒という経歴を持ち、39歳で起業したという点です。AI時代のビッグウェーブを捉え、いかにしてこの巨大企業を築き上げたのか、その秘密に迫ります。
AIブームの隠れた立役者「新易盛」の急成長
「AIのショベル売り」――市場は新易盛をそう形容します。彼らの主要事業である光モジュールは、AI時代のデータセンターや高速通信網に不可欠な基幹部品であり、NVIDIA(エヌビディア)、Microsoft(マイクロソフト)、Amazon(アマゾン)といった世界のテックジャイアントを顧客に抱えています。
驚異の半期決算:売上・利益が急騰、株価は400%超上昇
新易盛が発表した半期報告書は、市場の度肝を抜きました。
過去半年間で、同社の売上高は前年比282.64%増の104億3700万元(約2,240億円)に達し、純利益も355.68%増の39億4200万元(約850億円)を記録しました。企業の「血液」ともいえる営業活動によるキャッシュフローは、前年比で4倍増の9億5300万元(約200億円)となり、その収益力の高さを証明しています。この驚異的な業績を背景に、過去5ヶ月間で株価は400%以上も上昇し、市場からの大きな期待が伺えます。
「AIのショベル売り」:光モジュールとは何か?
新易盛の主力製品である光モジュールは、AI技術の発展を裏方から支える「ショベル」のような存在です。光ファイバー通信を高速道路に例えるなら、光モジュールはその高速道路への「出入口となるトンネル」の役割を担い、データ伝送の基盤インフラとして機能します。
光モジュールには様々な規格があり、100Gから800G、そして最新の1.6Tへと帯域幅が拡大しています。帯域幅が大きくなるほど、より大規模なデータ伝送が可能となり、AIモデルの学習や推論に必要な膨大なデータ処理を支えることができます。
新易盛は早くからこの分野に注力してきました。2018年には業界初の低消費電力400G光モジュールを発表し、翌2019年には量産化を実現。2020年には800G製品を投入しました。そして今年上半期には、さらに先進的な1.6Tおよび800G単波200G光モジュール製品を市場に送り出しています。
長年の研究開発と市場開拓が実を結び、AI技術の爆発的成長がインフラ投資競争に火をつけました。世界のテクノロジー大手は光モジュールや関連部品を競うように調達しており、新易盛は2024年に売上高が初めて20億元を突破し、前年比3倍増を達成。光モジュールの生産量は979万個、販売量は873万個に上りました。そして、2025年上半期には生産能力が過去最高の1520万個に達するなど、「チャンスを掴む」という信念が紙面を躍っています。
39歳で起業した専門学校卒の創業者、高光栄の挑戦
AIブームの中心で輝く新易盛ですが、創業者の高光栄氏が約50歳手前でこの会社を立ち上げたという事実は、あまり知られていません。
成都の地方工場から光通信業界の最前線へ
1969年、四川省九山に生まれた高光栄氏は、当時の中等専門学校(日本でいう専門学校や高専に相当する「中専」)を卒業しました。成都無線電機械学校で工業電気自動化を学んだ後、20歳で九山無線電工場光通信分工場に入社し、技術者としてのキャリアをスタートさせます。
彼はこの職場で10年間勤務し、光通信技術の基礎を徹底的に学びました。この経験が、後の彼の成功への重要な扉を開くことになります。
「新世紀は夢のようにやってきた」という当時の高揚感の中、若き日の高光栄氏は、新世紀を目前に無線電工場を辞め、「下海(市場経済の海へ飛び出すこと)」を決意します。その後10年間、彼は複数の光通信関連企業で経験を積み、専門知識と業界ネットワークを深めていきました。
苦節の末、AI時代のビッグウェーブを掴む
そして2008年、39歳を目前にして、高光栄氏はついに新易盛を創業します。2016年に中国でスタートアップブームが最高潮に達した時でさえ、彼が10年後に時価総額3500億元という夢を現実のものにすると想像できたでしょうか。
彼の長年の努力と、AIという時代の大きな流れを捉える先見の明が、新易盛を今日の成功へと導いたのです。学歴や年齢にとらわれず、変化を恐れずに挑戦し続けた彼のストーリーは、多くの起業家にとって大きなインスピレーションとなるでしょう。
まとめ:AIインフラの重要性と中国テック企業の可能性
新易盛の目覚ましい成長は、AI技術の進展がいかにインフラ産業に巨大な恩恵をもたらしているかを浮き彫りにしています。NVIDIAのようなAIチップメーカーが脚光を浴びる一方で、それを支える光モジュールの需要も爆発的に増加しており、まさに「ショベル売り」の重要性が増しているのです。
高光栄氏のサクセスストーリーは、特定の分野で地道な技術開発を続け、時代の転換点に大胆な一歩を踏み出すことの価値を教えてくれます。中国のテック企業は、AI革命の波に乗り、グローバルサプライチェーンの中でますます重要な役割を果たすこととなるでしょう。日本企業にとっても、こうした隠れた巨人たちの動向を注視し、新たなビジネスチャンスやパートナーシップの可能性を探ることは、今後の戦略を立てる上で不可欠となると言えるでしょう。
元記事: pedaily
Photo by Google DeepMind on Pexels